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世界樹の裾〰彼女が始めた街作りの物語〰  作者: テオ
1章「彼女が始めた街作りの物語」1幕:ドールマスター
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07.「世界樹の裾、か」

「なあ、ラエル。

 先月来たドールマスターさん、また来ないかな」


ランタン修理の依頼に来ていたボーガンがぽつりと呟く。


「来ないんじゃないか?

 この前はたまたま寄っただけだろ。

 ケーレンハイトの冒険者らしいしわざわざこっち来る理由も思いつかない」


「そうなのかー。

 いやぁ、祭事以外であんなに大金がもらえることないから」


「確かに結構良い値段だったもんな」


ラエルとしてもゴーレムをいじるのは楽しかった。

定期的に来てくれると嬉しいのは間違いなのだが、まずないと思っていた。

彼は都会の相場を知らないため実は前回の工賃が格安だったという認識がない。

つまりミラリアにくるメリットになっているとは思いもしていなかったのだ。


「――」


そこで外から話し声が聞こえた。

工房からは他の家は少しだけ距離がある。

通りすがりというのはありえない。


「なんだ、誰か来たのか」


工房に用事がある以外ないはずだが、誰も入ってくる様子がない。

窓からボーガンが覗くと「あっ」と声をあげた。


「……ラエル。

 ちょうど話をしていたドールマスターさん、外にいる」


「はあ?」


訝し気な声を上げてラエルが外に出る。

まだ時間は昼を少し過ぎたところ。

工房の横に立っている一組の男女はすぐ見つかった。

一人はハツカ。もう一人は初めて見る若い男だ。


「ん、ラエル。お久しぶりですね」


「あ、ああ。久しぶりだけど……ハツカ、またゴーレムの調子でも悪くなったのか?」


まだメンテナンスには早いはずだ。

戸惑うラエルにハツカは上機嫌な様子で続ける。


「お陰様ですこぶる調子が良いんですよ。

 ラエル、また今度も整備をお願いしますね」


指さす先にはゴーレムが鎮座していた。

何やら随分と荷物を積んでいる。


「ハツカさん、大体の条件は確認したぜ。

 見積もりはまだ改めてリンデの意向も含めて出すよ。

 ざっくりと23万ラピス前後で落ち着きそうだ」


「ザックさん、ちょっとさすがにそれは高くないですか?

 後のことも融通利かせますからもう少し勉強してください」


隣にいた狐顔の男は胡散臭い顔で「えぇ、融通つってもなぁ」と渋っていた。

そのやり取りをラエルは訝し気に見る。

前回のゴーレムの整備が3万6000ラピスだったことからもわかるように

何の話かわからないが、23万ラピスというのはかなりの金額だ。


「おっと、俺の名前はザック=ドック。

 こう見ても大工さ。しばらくお宅ん家の隣が騒がしくしてしまうけど堪忍な」


「大工?」


当然だがミラリアにはいない職業だ。

何故大工が村にわざわざ…・・


「そうです。ここに家を建てますから、私はお隣さんになりますね」


「はっ?」


ハツカがあっけらかんとそんなことを言い出した。


「だから、ここに住むことにしたんです。

 ゴーレムの格納庫はラエルのルーンパド側に用意します」


「ちょっ、ちょっと待てよ!

 ええ、わざわざこんなところにか!?」


そこでラエルは遠くにゴーレムが置いてある場所を見る。

よくよく見ればそこは村長の家だ。

ラエルの視線に気づいたのか、向こうでひらひらと手を振っている。


「ええ、村長さんは快諾してくれましたよ。

 私がルーンパドにお金を落とせば村が潤いますからね」


「いや、しかしこの村はだな……」


そこにボーガンが家からひょこっと顔を出す。


「ラエル、きっと村長はそれもわかって言ったんじゃないかな」


「……後できちんと村長に話は聞かせてもらう」


2人の様子にハツカは満足そうに頷く。


「安心してください。

 ゴーレムを扱うドールマスターである私がいることはとてもメリットがありますよ。

 なんたって力持ちですからね」


「……まあ、ゴーレムだからな」


気楽に話しをしているが、これはハツカにとっても大きな決断だった。

いくら根無し草の冒険者とはいえ、そう易々と住居を決めるものではない。

しかしミラリアに拠点とし活動をすること。

それはドールマスターに置ける最大のデメリットである維持費が軽減できる……

これは一番大事なポイントだった。

稼ぎの6割か8割を占めていたのだがこの前と同様の金額帯であればそれが半分以下になる。

勿論アクセスは悪いのでいちいち戻るために時間はかかるが、

ゴーレムの維持のために仕事を続けるということからは解放される。


「これからよろしくお願いしますね」


「ああ……わかったよ」


ただハツカにとってミラリアで暮らすに当たって改善したいと思う点は多い。

まず宿もないし、飲食を専門とする店がない。

農耕や採取をして日々を暮らす村人に外食という概念がないから当然だ。

そこまで食通なつもりはないが、それでもここの食事は我慢ができない。

なんとか改善をしたいがそのためには利用者が増えなければならないだろう。

次の問題も要は人に関わる内容だが、流通が非常に乏しいこと。

ユナに教えてもらったが一応はこの村にも商人は来るらしい。

ただし商隊ではなく個人の商人。それも一人で三か月に一回程度。

商材はちょっとした嗜好品や衣類、日用品も扱うそうだが、

メインとしてはラエルのルーンパドへの修理依頼。

街でスクラップや故障品を安く買い取って修理し、そしてまた売りさばくそうだ。


「楽しくなってきました」


そう……彼女は、本気でここを自分の「家」とするつもりだった。

そのために必要なモノは揃えて見せる。

自分でこの村を開拓しようというのだ。

一介の冒険者が考える発想ではない。

ラエルの家に来る前に村長と話をした。

居住の許可をもらうためだ。

その時に、全てではないのだろうけれど……この「村」のことを教えてもらった。


「……」


彼女は工房を、いやその先に視線を向ける。

そこには大きな木……そう、あれは「世界樹」。


「世界樹の裾、か」


――それが、この村が生まれた理由だった。

家が23万ラピスが大体230万円くらいと考えると安い気がしますが、こういうファンタジーだとそもそも土地代とかないし家自体も安そうなイメージだったのでこんな価格設定になりました。

冒険者の稼ぎは結構高い想定

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