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ネガティブアタック  作者: 海深真明
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第4回

第4回です。

ご一読いただければ幸いです。

 漢文の講義を終え、次の現代文の時間まで、一限分時間が空く。自習をしようと思ったものの、自習室はどこも混み合っており、仕方なくラウンジでテキストを読んでいた。

 

 何者かによって肩を揺すぶられるので目が覚めた。それがしはいつの間にか眠ってしまっていた。それも横になって。それがしの肩を揺さぶったのは、警備のため校舎内を巡回していた警備員だった。

「疲れているようだから、このまま寝かせておいてあげたいけれど、校舎内での盗難も報告されているし、何より風邪を引いてしまうからね」

 と優しく、声をかけてくれた。

「済みません。これからは気をつけます」

 気まずさから、返事もそこそこにラウンジを離れた。時計を見ると一時間近くも眠っていたようだ。現代文の講義が始まるまで一〇分もなかったので、急いで教室に向かった。起こしてもらわなければ、、牧村先生の講義を受けそこなうところだった。


 岡崎にあるそれがしの家から名古屋駅近くにある塾までの所要時間は、およそ一時間だ。九時から始まる一時限目に間に合うようにするためには、七時半過ぎに家を出れば良い。しかし、この時間帯に電車に乗ろうとするのは間違いである。通勤通学ラッシュに巻き込まれるからだ。


 話は少し脇道にそれる。

 それがしの父は釣りが趣味で、幼いころはよく連れて行かれた。

 海釣りの場合は、夏場であれば海水浴をし、あるいは、ヤドカリやカニ、クラゲ、貝殻などを観察していれば、そう苦もなく、時間を使うことができた。また、母が作ってくれた弁当を家族で食べたり、帰りの駅でコーヒー牛乳を買ってもらったりと楽しい思い出もある。

 しかし、鮎の友釣りに連れて行かれても、釣りの邪魔になるから川に入れない。静かにしていないと、父以外の釣り人に叱られる。父は良いポイントを求めて、川の中を移動していくので置いてきぼりにされる。川原で珍しい石を探していられるのも限度がある。などなど、鮎の友釣りにはあまりいい思い出がない。

 鮎は川底の石に付着する藍藻類、珪藻類を主食とする。したがって、良い餌場を確保するため、鮎は縄張りを作る。他の鮎がこの縄張りの中に入ると、激しく攻撃を加えて追い出しにかかる。この鮎の習性を利用したのが鮎の友釣りである。「友釣り」とは言うものの、おとりの鮎は縄張りへの侵入者なので、「敵釣り」とか、「ライバル釣り」とかの方が適切かもしれない。

 その鮎も、餌となる藍藻類、珪藻類が少なくなると公共心を発揮するのか、縄張りを作らなくなるそうである。

 釣果のないとき、父が言い訳がましくこのことを言うので、よく覚えている。


 縄張りというほどではないが、人にもパーソナルスペースがあると言われる。このエリア内に他人が入ってくると不快に感じる空間のことだ。その範囲は個人差があるようだし、関係性の有無、親密度などによってもその範囲は変わってくるようだ。


 長くなってしまったが、ようやく本題に戻る。

 そのパーソナルスペースを大いに侵害しているのが満員電車だ。身動きする場所もなく、触れたくないのに、触れざるをえない。満員電車に乗るだけで相当のストレスを覚えるのは当然のことと思われる。

 満員電車に乗って平気な人々はパーソナルスペースが異常をきたしているのか。餌が少ないときの鮎のような状況なのだろうか。それとも、満員電車に乗るのがファッションなのだろうか。ファッション? ファッショ?


 たまたま乗ろうとした電車が満員電車なら仕方ないかもしれない。しかし、混んでいると乗る前から分かっている電車に乗る気にはならない。

 満員電車に乗らないようにするためには、混む時間帯を外す以外にない。混む時間帯を外すには二通りある。一つは先に、もう一つは後に。後にずらせば講義に間に合わない。間に合わないくらいなら端から行かない方が良いとそれがしは思う。

 そうすると残された道は一つしかない。混む前に乗る。その結果、七時前に家を出るようになる。そのために朝早く起きなければならない。夜は夜でやらなければならないこと、やりたいことは山ほどある。それ故、自ずと睡眠時間は不足する。

 気が張っているときならそうでもないが、ふと気が緩んだとき不意に睡魔に襲われ、襲われたことに気づかないまま寝てしまうことがあるから厄介だ。

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