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私と彼

 前述した前世以前の記憶についてだが、実は生まれてからずっと持っていた訳ではない。私が思い出したのは、ほんの一週間程前である。

 その日は、国の建国を祝う夜会がある日だった。ドタバタと夜会に向けての準備を進めていると、今夜の夜会で私をエスコートするために家に訪れていた婚約者のノアが、幼馴染故の気安さからかノックもせずにドアを開け放った。



「ちょっとノア! 女性の部屋にノックもせずに入って来るなんて、非常識にも程があるわ! もし私が着替えてる途中だったりしたらどうするのよ!」



 ノアは基本いつもドアを開く際ノックをしてくれないので、この言葉を吐くのも何度目になるか分からない。いくら婚約者であろうと幼馴染だろうと妙齢の女性に対して大変失礼な行動である。



「ふーん……。女性ねえ。残念ながら僕には、きゃんきゃん喚いてる子犬にしか見えないなあ。それに、着替え中だったとして幼児体型のベルに見られて恥ずかしいものなんてあるわけ?もう少し、出すとこ出してから言ってよ」



 ノアは中性的な美しい顔に嘲笑を浮かべ、私を馬鹿にする。彼は会えばいつもこうだ。私と彼の付き合いは、母親同士がすこぶる仲が良いため生まれてまもない頃からであるが、物心付いた時には既に馬鹿にされていた。今現在お互いが17歳という年齢になってもその態度は変わらない。



 誰だって自分を馬鹿にする言葉ばかり言われて、嫌な気持ちにならない人などいないのではないだろうか。私は毎回このノアの言動に対し、黙って泣き寝入りする程大人しい性格ではないので、言われたら言い返す。そしたらさらにノアが言い返して来るものだから、最終的には相手に対する悪口の応酬となり、誰かが割って入って止めてくれるまで、私達の言い合いは終わらないのである。



 まあ、ここまでの話で分かる通り、私とノアの仲はよろしくない。それなのになぜ私達が婚約関係にあるかというと、原因は母親達にあった。

 私の家のカクトス家と、ノアの家であるブーゲンビリア家は、共に伯爵位を持つ貴族である。その二つの伯爵家に一人娘としてそれぞれ生まれた母達は、同性で同い年、なおかつ領地も隣り合っていたものだから、仲良くならない訳がなかった。この国は女性で爵位を継ぐことを許されていないので、二人は大人になり伯爵家の当主となる婿をもらうと、子である私達にとって、非常に迷惑な約束を結んだのである。

 どこかで聞いたことがある、お互い生んだ子供が異性だったら、結婚させましょうね。そしたら私達親戚になれるのよ!ってやつだ。そして運よく異性の同い年の子供を授かった。

 私達が生まれる前から、母達はお互いの家を行き来していたが、生まれてからはその頻度がさらに上がった。それに伴い、私とノアも母達に連れられお互いの家を行き来することとなったので、もっぱら私の小さい頃の遊び相手はノアだった。その遊び相手のノアはとても意地悪だったが。



「私の身体はまだ成長途中なの! ところで、一体何の用なの? まさかその嫌味を言うためだけに、夜会の準備でとーっても忙しい私の所に来たの訳ではないのでしょ」



 私は夜会の準備で忙しいことを強調するように言った。用事があるのならさっさと終わらせて、今も話に花を咲かせているであろう母達の元へ戻って欲しい。私は顔が大層整っているお陰でどんな正装を着ても似合うノアとは違うのだ。平凡な顔と、人より凹凸が少ない身体をどうにかマシにするために、まだまだやることがたくさんある。



「毎回毎回色々誤魔化すのも大変だね。ベルに渡す物があって来たんだよ」



 そう言いながら私の前まで歩いてきたノアが取り出したのは、精巧な細工が施された一つのネックレスだった。そのネックレスの中央には、ノアの瞳と同じ色を携えるサファイアが、眩いばかりに輝いている。



「……素敵ね」



 思わず素直な感想が口から漏れていた。私とノアは、婚約しているのが不思議なくらいに仲が悪いが、ノアはたまにこうやって贈り物をしてくれる。会う度に嫌味を言ってくるが、彼は彼なりに一応私を婚約者として扱ってくれていて、たまの彼のこういう行動に、私はどう対応していいのか分からないのが正直な所であった。

 ノアはネックレスを私の首に着けると、普段の馬鹿にするような笑みとは違う純粋な笑みを顔に浮かべた。



「やっぱり物がいいからかな、ベルでも良く似合ってるよ。一応僕の婚約者だし、君にはそれなりの格好をしてもらわないと僕が恥ずかしいからね」



 口から出る言葉は私を素直に誉めるような言葉ではなかったが、余りにも穏やかに微笑むノアをみて、私は少し気恥ずかしくなり、目の前にいる彼の顔からそっと目線を外した。



 ノアは小さい頃からブルーベルのことをベルと呼んでいます。

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