4章 Ifな世界と新撰組、そして、初陣
紙を渡された僕は、永倉さんと斎藤君の話をじっくりと聞くことにした。
その紙に書かれていたことや、彼の話が突拍子も無さすぎる物だと知るまでは。
「能力が、魔法のような物だ、とはさっき言った通りだ。特に、新撰組には何人もの能力持ち……いわば、魔法使いが多数存在している。例えば俺なら、『変異系』の『属性付与』のような感じだな」
「能力は一人一つなんですよ。そして、使うときにも何かしらの代償を必要としますねー。まあ、よっぽど特例で『二つ持ち』とか『能力強奪』とか『代償無し』とかいますけど、そんなやつらよっぽどいませんし。ほっとんど忘れていいほどです」
「能力強奪だけは覚えないとまずかろうに。やつらはどこにでもいるからな。………さて、そんな能力だが、持っている者と持っていない者といるのは察しの通りだ。そうだなぁ………この国の三割の人間は能力を持っている、と言われているほどだ。」
それでも昔よりは増えたのだ、と永倉さんは言った。そして、こう続けた。
「何か、分からんところはあるか?」
「全体的に、まったく分かりません」
ありゃりゃ……と、斎藤君はあきれたように言った。
能力とか魔法とか何とかかんとか言われても、現実味が無さすぎるのだ。そんなこと、あり得る筈がない。
「そんなことがあり得るなら、異国なんてあっというまに追っ払えるでしょうに。まさか、滅んだ、なんて阿呆な話があるとも思えないですし?」
そう僕が冗談混じりに返すと、とんでもない時に誰かが駆け込んで来た。
見たこともない、清潔そうな青年。短い、黒い髪に、日本人らしい肌の色。新撰組の羽織を丁寧に着こなしたその人は、息を切らしつつ、こう叫んできた。
「ど、どうしよう、皆っ!!『変異者』だっ!!『変異者』が、暴れまわってるって!!」
「………『変異者』?本当か、平助」
訝しげに、永倉さんはそう言った。
「うっわー……怪我人とかまさかいないですよねー?」
「居なかったと思うっ!多分だけど……」
焦ったようにチラリ、と永倉さんはこちらを見た。
僕に何をしろと言うんだ、と思いつつ、次に入ってきたのは、例の切支丹の女の子であった。
「怪我人は今はいないみたいです。ですが、急がねばどうなってしまうか分かりません。沖田君、東藤君、斎藤君、永倉君。四人で『変異者狩り』に行ってください。ただし、沖田君。貴方は決して無理しないでください」
かなり冷静に、そう彼女は言った。その姿は、どことなくだが、近藤さんの凛々しさを思い浮かべてしまう。
幼いその容姿とはかけ離れた、強く、揺るぐことのない意思と威厳。
黒い瞳は、深く、光を纏ったようにも見え…………
「場所は?敵はどのようなものです?」
「東堂君、案内をしてあげてください。敵は五人ですが、能力者は一人です。『後天』の『変異系』持ちだそうです。どのような能力か分からない為、注意してください!周りに一般人がいる以上、どのような被害が及ぶか分かりません。くれぐれも、町の人達を傷つけぬように、そして、無事に帰ってきてくださいね!」
無意識的に問いかけた僕の問いにも、彼女は、はっきりとした声で答えた。
そして、僕は、無意識的に、
「分かりました。……行ってきます!」
と、答えた。
-------------------------------------------------
「『変異者』、か……。よっぽど、強いのかな……」
戦いに備え、僕は、支度していた。
能力だとか、系統だとか、そんなことは分からなかった。
だが、一つ分かるのは、「この戦いで、気を抜いてはいけない」、ということだ。
相手は、武装している可能性もある、と永倉さんは言っていた。能力を持ち合わせていない者も、四人いるからだろう。
その時、ふと、女の子の声が聞こえた。……切支丹の少女だ。その手には、鞘に納められた一振りの刀があった。
『大和守安定』。僕の、愛刀の一振りだ。
「沖田君、この刀を持っていってください。貴方の、大切な愛刀でしょうし」
「当然だ。…………絶対に、負けない」
「………トシは、全く、気負わなくていい、と言ってました。おそらく、そう強くない相手でしょう。おそらく、ほとんど何もしなくても勝てます。ですが、記憶のない今の貴方にとっては、『変異者』との初戦。何が起こるか分からない上、情報量も少ないです。ですから、気をつけて」
彼女は、僕にかなり優しくしてくれる。理由は、全く分からない。
けれど、一つだけ分かった。
僕は、この子の為に、絶対に無事に戻らなくてはならない、と。
そして、僕と斎藤君、永倉さん、東藤君│(どうやら、慌てて入ってきた彼は、東藤平助であるようだ。元の世界の面影が、ほんの多少ながらもあったのは、それが理由のようだ)の四人で、『変異者』が暴れているらしい場所へと向かった。
-------------------------------------------------
「あそこです!あそこの店の前!」
東藤君がそう叫んだ。ほぼ同時に、女子供の悲鳴が聞こえる。
誰か、斬られたのだ。
「能力は大方………『遅化』といったところだろうな。………それ以外は、能力持ちはいないそうだな。刀の扱いも酷くお粗末な物だ。あれなら、能力使わずとも勝てるだろうな」
「かといって、女子供襲わずともいいでしょうに。………まったく。厄介な話ですよね、ほんっと!!」
斎藤君が先陣をきって飛び出して行った。
僕もそれに続いて、抜刀し、相手の元へと駆けた。
「ん?なんだぁ?ただのガキどもが、大人相手に勝てると………」
「新撰組舐めんなっての!………新撰組一番隊隊長、沖田総司、参るっ!」
僕はそう、名乗りをあげた。それに続いて、斎藤君も、
「『補助系』最高位、斎藤家が長男、斎藤一、参る!」
と叫び、抜刀した。
敵はそうたいして、強くはない。どころか、刀の握り方さえ知らないような、お粗末な物だ。
だからこそ、というのもあるのかもしれない。
武士の魂、といえる刀を、ただの脅しの道具としてしか使えない、腐れ切ったやつが許せないのは。
こちらがしっかりと構えただけで、相手は怯み、逃げ出そうとした。
だが、僕らは決して逃がさない。
問答無用、だ。
「……………切り捨て、御免っ!」
その敵将の首は、あまりにも、あっさりと落ちた。