3章 沖田総司と異質な新撰組
僕が目を覚ましたとき、そこは、白い部屋であった。
白い壁に、白い天井。
どこまで続くか分からないようにか、襖らしき物も見つからない。
そこで、自分は、目の前の相手同様、正座していた。
藍色の髪に、蒼い瞳。
白く、透き通った肌に、整った顔立ち。
長い髪を、馬の尾のように結んでいる。
服装は、新撰組の和装のそれである。
そこにいるのは、「僕」だ。
そう、直感した。
彼は、こう言った。
「驚いたな。キミが此処に来るには少々早すぎる訳だが。まさかあの阿呆め、能力使って脅したわけじゃあるまいな……」
クスクス、と笑い、僕を見つめてきた。
「……アンタは、『沖田総司』か?」
「そう。間違いなく、沖田総司だ。だけど、キミとは違う。僕は、If暦の『沖田総司』だ。キミでいうと……平行世界、と言うべきかな?」
なるほど、やはり僕は『神隠し』にあった、というわけだ。
異常な事態だとは思うが、どうもそこに納得が行っていた。
『僕』は僕に、こう言ってきた。
「申し訳ないね。しばらくの間だけでいい。……僕の代わりを、務めてほしいんだ」
「しばらく、とはどのくらいだ?」
「分からない。でも、キミのいた世界の時間はほとんど進んでないから……戻った時には一刻進んでる程度じゃないかな?」
たかが一刻なら、問題ないか。
そう思って頷こうとしたが、疑問が浮かび上がった。
「アンタは結局、僕にどうしてほしいんだ」
彼は首を横に振った。
分からない、とでも言いたげである。
それじゃあ納得しないのだが。
だが、そんなこともつかの間。頭痛がしてきた。それも、かなり激しい。
「……一君かな、こんな強い『能力』使うのは」
「は…………?」
こめかみを抑え、フラフラ僕は立ち上がる。
「大丈夫。……まぁ、すぐに会うだなんてこと、無いように頼むよ」
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目を覚ますと、そこには、陰陽師のような格好をした少年がいた。
彼は僕が目を覚ましたことを知ると、目に溜めてた涙を溢れさせ、
「ああ!良かった、沖田さん!ほんっとうに良かった!目を覚まさないかと思ったんですよ、俺っ!」
と言い出した。
僕はこの子のことを知らなかった。だが、顔立ちからしたら、恐らく、斎藤一だろう。
それにしては、どことなく幼い訳だが……。
「斎藤君、であってる、かな……?」
僕が恐る恐る確認を取ると、犬か何かのように嬉しそうに、彼はこう言った。
「そうですよ!俺です!斎藤一です!『補助系』能力最高位、『完全治癒』!その斎藤一です!」
「………『補助系』能力……?」
「そうですよぉ~!忘れちゃったんですかぁ~?『能力』の事!」
笑いながら彼は言うが、首を傾げる僕に、どんどん表情が凍りついてゆく。
「ま、まさか、沖田さん………『能力』のこと、忘れたとかありませんよね………?」
「忘れたも何も、知らないんだけども……」
顔をひきつらせて、僕はそう返した。
流石に反応がまずかったのだろうか、斎藤君は、座り込んでしまった。
「あー、なるほど………そこまで酷かったんですか……」
目を反らして、彼はそう言った。
いや、酷いも何も、本当に知らない訳だが。
すると彼は、考え込むような格好をして、黙ってしまった。
「あ、あのー……?」
「うーん、今、あの人達居ないしなぁ……。かといって、頼れそうなのっていたっけなぁ……」
ぶつぶつと、こちらに対して気を止めることもなく、斎藤君は考え込んでいた。
「……………」
「うーん………それなら……あの人に任せるべきかな……」
「………」
彼がぶつくさ独り言を呟いている間、僕は、自分の刀を探した。
偶然にも僕の愛刀は、自分が眠っていた場所のすぐ右隣にあり、やろうと思えばすぐ抜刀も可能であった。
だが、今はそんな気になれなかった。
今、目の前にいる人が、敵とは思えなかったのだ。
「…………分かった、じゃあ、能力のことも含め、永倉さんに頼もう……!」
嬉しそうに、手をポンっと打ち、彼はそういった。
「永倉さん?」
「永倉さんは永倉さんだよ。永倉新八さん。能力調査においては、この新撰組においてずば抜けているんだ。まともに彼が分からないのは、土方さんの能力だけじゃないかな?」
永倉新八。彼もまた、新撰組の隊士の一人だ。
まさかここにもいるとは思わなかったが、どのような姿になっていることなのだろうか。
「永倉さんは、今、どこに?」
「そうだねぇ……」
僕が問いかけると、考え込んで、彼はこう言った。
「そのうち、来ると思いますよ。あの人のことですし」
その時、からり、と音をたて、扉が開けられた。
そこに立っていたのは、異国の者の着るような、軽そうな服と、眼鏡をかけた青年であった。黒い服で、赤目の土方さんが着ていた服とそっくりである。
「ほぅ。起きたのか。まったく。全員に心配をかけたことを反省しろ」
冷たく言い放つ彼は、僕をチラリと見た後、斎藤君に視線を移した。そして、
「一!!お前、さてはまた『完全治癒』を使ったな!?あれほど無駄遣いするなと言ったじゃないか!」
と、怒鳴った。
「うぎゃっ!ごめんなさーい!」
軽そうに斎藤君は謝るものの、その表情はどこか楽しそうである。
「えっと……どなたですか?」
僕はそう尋ねた。するとその青年は、こちらを見た。
「記憶が無いとは聞いていたが、相当だな」
「能力についても、すっぽり忘れちゃってるみたいですよ~?そもそも、能力がどんなものなのかーってとことか、すっかり忘れちゃってるみたいで。でも、『記憶封じ』的な物がかけられた気配もなくって。『完全治癒』がまったく効きません」
「そうか………」
斎藤君からそう話を聞くと、黒い服の青年はこちらに向かい、こう言った。
「俺は永倉新八。この新撰組の一員だ。能力は『変異系』能力『属性付与』だ。様々な武器に、木・火・土・金・水の属性を与える、というやつだ。普段は、魔法の研究をしている」
まぁ、忘れたのなら、今からでも思い出せばいい、と彼は言った。そして、息をつくようにこう続けた。
「沖田。お前の状態は知っている。まず、能力について軽く説明するとしようじゃないか」
彼は何処かからか、一枚の紙を取り出し、それを使って説明を始めた。