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第一曲  夜ニ彷徨ウ 6


《で、その黒い化け物にも襲われたんだな》

 部下の声。アキシロアキの証言を黙って聞いていられなくなったらしい。

《そうだよ。……んの化け物、よくもミッちゃんを――》

 状況がフラッシュバックしたのか、アキシロアキの声が震えた。

《魔物に襲われるような覚えは?》

 アキシロアキの貌が上がった。

《……ねぇよ》

 声のトーンがダウン。発汗。嘘だ。

《最初の魔物と黒い化け物の関係は?》

《……らねぇ》

《同一個体の可能性は?》

 アキシロアキの眼が大きくなった。思いもよらないという貌だった。

《別個体だと考えた場合、おまえ達はわずか十分足らずの間に二体の魔物に襲われたことになる。これは異常な遭遇率だと言わざるを得ない。あの公園は特に魔物が現れるホットスポットというわけではない。ならば、同一個体という仮説も成り立つ。おまえ達は人型の魔物と何らかのトラブルを起こし、その後、獣化したその魔物により止めを刺されそうになった――違うか?》

《違うよ》

《違うと言い切れる根拠は?》

《だって、一緒にいたしぃ――》

《二体が?》

《だよ》

《二体は仲間か》

《……らねぇよ》

《そうは見えなかったという意味か》

《……らねぇ》

《もう一度訊こう。何があった》

《……らねぇってば》

《――追及しますか?》

 別回線で部下が訊いてくる。言外に暴力の許可を求めている。メンタルモードは未だにレッドイエロー。撫でるだけでも少年の貌は腫れ上がるだろう。

《子供だ。解放してやれ》

《――了解》

 クジは医師に眼を向けた。

《傷口の照合は?》

「ミミヅカミツルの傷口は過去のデータと一致します」

《アキシロアキは?》

「合致率は八十八パーセントです」

《微妙な数字だな》

「はい。同一個体による傷とも別個体のそれとも断定できません。獣人の場合、人型時と獣化時では、同一個体でもこの程度の差異は生じます。ただ、別個体でも同族でしょう。爪の形状は酷似しています」

《猫の爪か》

「猫科の大形肉食獣です。それ以上は特定できません」

《わかった。何か判明したら連絡をもらおう》

 医師の端末に連絡アドレスを刻み込む。

《――カメラ、どうだ》

 医師の部屋を出ながら、防犯カメラをチェックしている部下に問う。

《これまでと同じです。どこのカメラにも映っていません》

《七十二時間の監視体制を続行》

 それ以上は無意味だろう。

 隔離室から出てきた部下が合流した。

《子供達の会話はリアルタイムで監視しろ》

《了解》

 メンタルモードは平常だった。そうでなければ使えない。

 クジは足を止めた。視線を天井に向ける。

 天井付近に設置された監視カメラの上に、カラスがとまっていた。

 小さなカラスだった。形態は成鳥でありながら、サイズが異様に小さい。

《偵察か》

 外部音声に切り換える。

 カラスの眼が細くなった。肯定と捉えた。

《状況は見ての通りだ。三十三人が殺害されながら、未だ有力な手がかりが無い。今はまだ情報統制が効いているが、いずれ噂になる。魔物と人間の争いにしたくなければ、『犯人』を差し出すんだな》

 カラスの眼が青白い光を放った。

《拒否か。――まあ、いい。『あの男』はどうした?》

 カラスの口が開いた。

 声は何も聴こえなかったが、脳は言葉を認識した。


 行方不明だ――


 次の瞬間、カラスの身体は黒い霧と化し、通風孔の中に消えていった。

《隊長。今のカラスは――》

《魔物だ。魔物側も『猫』に関心があるとみえる。連中より先に押さえるぞ》

 部下に言い放ち、クジは出口に足を向けた。

 眼は廊下を見ながら、脳は外部のカメラに接続する。

 夜の空を無数のカラスが飛んでいる。

 一瞬、カラスの群れの中に子供の貌が見えたような気がしたが、解像限界距離だった。

 



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