第三曲 夜ニ踊レ 1
第三曲 夜ニ踊レ
紫色の花が咲き乱れている。
すうっと伸びた茎にぷっくりとした花が幾つもついている。
名前は知らないが、秋によく見る花だった。高原のせいか、季節の移りが平地部より早いようだ。
少女の手が花に伸びた。花を手折り、口許に持っていく。
「ごめんね」
少女の唇が触れると、花は見る間に萎れ、枯れていった。
紫色の眼が透明な光を放ち、白い貌が息を呑むほどに美しく輝く。
ふいに、少女は貌を上げた。
ログハウスの玄関前に男が立っていた。
花の前に少女は坐っていたが、立ち上がると、男に駆け寄って行った。
胸に飛び込んでくる少女を男が抱きとめる。
「どうした」
「痛い」
「怪我をしたのか」
「違う。シアじゃない。オーマの胸が痛い」
「……」
男の眼が少女を見つめる。身長差があるから、男からは少女の頭しか見えないだろう。
「シア。おれから精気を吸え」
少女が貌を上げた。
「花からの精気じゃ足りないはずだ。頼むから。精気を吸って、種を作ってくれ」
大きな眼で、少女は男を見つめた。
表情は変わらない。透き通るほどに白い貌。哀しいほど澄んだ眼。
少しして、
「キスして。オーマ」
飴をねだる子供のように少女は言った。
男は何かを言いかけようとしたが、結局何も言わず、少女の首を支えてキスを与えた。
子供に与えるようなキスではなかった。
少女が立っていられなくなるような、激しいキスだった。




