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第二曲  夜ニ歌エバ 12

 

 からん、とドアベルを鳴らしてドアが開いたが、そこには誰もいなかった。

 蝶番を軋ませながら、ドアが閉じる。

「壁でも床でも通り抜けられるのに、わざわざドアを開ける意味があるのかしら」

 ターニャの眼はカウンターの端に動いた。

 五歳の子供が坐っていた。

 金色の巻き毛。天使の貌。

 美少年だった。

 誰もが溜息を洩らすかもしれないが、気配は子供のそれではなかった。

 高級ブランドのスーツを完璧に着こなし、不遜とも言える空気を纏っている。

「訪問の礼儀だと思ってね」

 言葉使いも子供のそれではない。

 ターニャは肩をすくめた。

「何の用?」

「何を企んでいるか知りたい」

「企む? 人聞きの悪いことを言うわね」

「前科があるからね」

 ターニャは無言で天使の貌を睨みつけた。

「『猫』に関心があるようだね」

「『猫』なんて知らないわ。嘘よ。人間を襲う魔物に関心を持たない魔物はいないわ」

「人を襲う魔物は珍しくない」

「……」

「君が眼をつけるからには、別の理由があるのではないかね」

「だとしたら?」

「手を引きたまえ。あれは危険な存在だ」

「危険――ね」

 ふん、と鼻を鳴らした。

「それを言うなら、あんたこそ何を企んでいるのかしら」

「人聞きの悪いことを言うね」

「あんたは危険因子を監視下に置くか、排除しようと考えるものね。危険な『猫』を放置するとは思えないわ」

 アッシュブルーの眼が無言で睨みつけてくる。

「ねえ。伯爵――」

 その視線を受け止めて、ターニャは蛇のように眼を細くした。

「それよりも、あの『ふたり』のことはどう考えているのかしら」

 伯爵は答えない。

「『猫』よりも危険な状態よね。あの子が枯れれば、オーマは暴走する。それこそ何が起きるかわからない」

 カウンターに手を置いた。爪はすでに伸びている。


 その前に、始末するのかしら。 


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