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第二曲  夜ニ歌エバ 9


 淡い光に眼を開けた。

 小さな天窓に、白い光が宿っていた。

 天井に煙突のような四角い穴があった。穴の先に天窓が設けられている。

 この造りだと陽の光が入って来るのは年に数回、それも限られた時間しかないだろう。

 存在価値が不明な窓だが、今は射し込める柔らかな光がほのかに温かく、心地好かった。


 ……生きて、いるのか。


 意識があるのが意外だった。

 身体を起こそうとして、自分の手が眼に入った。

 獣の前足――は、いいとして、それがやけに小さいことに、あれ? と思う。

 ――あら。起きた?

 女の声に首を捩じった。

 バスルームから出てきたのか。

 開いたドアの前に女が立っていた。

 褐色の身体に白いバスローブを着ている。胸がでかい。頭にはタオルを何重にも巻きつけている。

 切れ長の眼は蛇の眼だった。

 ――あんたは……

 言いかけたが、口から出たのは、猫の声だった。みゃ? としか聞こえない。

 ――あたしはターニャ。

 細長い指で煙管を取り上げ、女は名乗った。

 こちらは名乗ることもできない。

 鼻を動かして、説明を求める。

 ――そうね。何があったかと言うと。とりあえず、出血を止めるために仮死状態にした。

 あたしの眼でね――と蛇の眼を細めて、女が言う。

 強制暗示。邪眼か。じゃあ、あの闇がそうか。

 ――心臓を止めて、血流も止めて。仮死と言うより『石化状態』ね。

 蛇の眼を持つ女。

 タオルの下の髪の毛が何であるか想像がついた。

 ――ただそのままだと死にはしないけど、回復もしない。で、生命力を底上げさせるために獣化させることにした。ま、これは賭けだったけどね。細胞の急激な変化は逆にショック死しかねないから。ああ。そんな貌しないの。生きてんだから。結果オーライということで。

 悪びれもせず、女は手にしていた煙管に火を入れた。

 甘い匂いが漂う。

 ――『石化』を解き、最初の鼓動が開始する前に獣化させた。でも傷は塞がらなかった。心臓が動くと同時に、血が噴水みたいに噴き出しちゃってね。あ、これはまずいかな、と思っていたら……

 ちろり、と蛇のように見つめてくる。

 ――その姿になったのよ。

 視線を落とす。小さな猫の身体が眼に入った。

 ――たぶん本来の姿を維持できるほどのエネルギィだか精気だかが無かったんでしょうね。でも小さくなったせいで傷口が塞がった。よかったわね。そうでなかったら危なかったわよ。

 煙管を口にして、女は、ふ、と紫煙を吐いた。

 何度か瞬きを繰り返したのは煙たかったからではない。なんと言うか、行き当たりばったりだろ、それ――と思ったからだ。たすかったのはたまたまじゃないか。

 みゃあ、みゃあ。

 ――あら。文句を言ってるの? 放っておけば、あんた、死んでたわよ。

 う。

 ――と言うわけで、見返りを要求するわ。

 見返り?

 警戒の唸り声を洩らすと、女は妖艶な唇に蛇のような笑みを浮かべた。


 ――ある男に近づいてもらえるかしら。



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