表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/26

第二曲  夜ニ歌エバ 8


 アスファルトに大量の血が流れていく。

 血が止まらない。傷口からごっそりと精気を吸われた。治癒できない。

 血溜まりに頭が落ちている。頬に触れるどろりとした血溜まりが生温い。流した血の方が温かいと思えるほど、体温が急速に低下している。

(――まずいな)

 意識が遠くなる。気を失ったら、もう一度目覚められるかわからない。

 かつーん、

 かつーん、

 脳髄に響く音は死者の棺を用意する音か。もう何が現実かもわからない。

 ――生きてんの?

 かつん、と音が止まった。

 霞む視野にハイヒールが入った。血に汚れるのを嫌ったのか、血溜まりの縁で足を止めている。

 ――生きて……んように……見えんの?

 ――死にそうに見えるわね。

 首を捩じると、女の身体が眼に入った。すらりとしたしなやかな肢体だった。褐色の肌にオレンジ色のチャイナドレスを着ている。

 切れ長の眼が見下ろしていた。瞳孔が縦に長い。蛇の眼だ。

 ――ま…もの……か。

 ――そうね。あんたと同じ。遺言があるなら聞いてあげるわよ。

 ――……無いよ。そんなもの……

 ――その傷の恨み言でもいいわよ。

 ――それも……無い。やられたのは……僕が甘かった……からだ。

 ――甘い?

 ――ここまで……やるとは思って……なか……た。

 ――相手は知り合い?

 ――僕の半身……

 ――意味深な言い方ね。恋人かしら。

 ――もっと……近い……

 大事な僕の片割れ。おまえ。僕が消えたら泣くか……

 もう答えるだけの力も無い。意識が遠くなる。

 呑み込まれていく闇が蛇の瞳孔のように細長かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ