第二曲 夜ニ歌エバ 8
アスファルトに大量の血が流れていく。
血が止まらない。傷口からごっそりと精気を吸われた。治癒できない。
血溜まりに頭が落ちている。頬に触れるどろりとした血溜まりが生温い。流した血の方が温かいと思えるほど、体温が急速に低下している。
(――まずいな)
意識が遠くなる。気を失ったら、もう一度目覚められるかわからない。
かつーん、
かつーん、
脳髄に響く音は死者の棺を用意する音か。もう何が現実かもわからない。
――生きてんの?
かつん、と音が止まった。
霞む視野にハイヒールが入った。血に汚れるのを嫌ったのか、血溜まりの縁で足を止めている。
――生きて……んように……見えんの?
――死にそうに見えるわね。
首を捩じると、女の身体が眼に入った。すらりとしたしなやかな肢体だった。褐色の肌にオレンジ色のチャイナドレスを着ている。
切れ長の眼が見下ろしていた。瞳孔が縦に長い。蛇の眼だ。
――ま…もの……か。
――そうね。あんたと同じ。遺言があるなら聞いてあげるわよ。
――……無いよ。そんなもの……
――その傷の恨み言でもいいわよ。
――それも……無い。やられたのは……僕が甘かった……からだ。
――甘い?
――ここまで……やるとは思って……なか……た。
――相手は知り合い?
――僕の半身……
――意味深な言い方ね。恋人かしら。
――もっと……近い……
大事な僕の片割れ。おまえ。僕が消えたら泣くか……
もう答えるだけの力も無い。意識が遠くなる。
呑み込まれていく闇が蛇の瞳孔のように細長かった。




