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第二曲 夜ニ歌エバ 7
どれだけ星を見つめていただろう。
首の後ろが痛い。
視線を巡らすと、玄関の前にはまだ男が立っていた。
何も言わず好きにさせていてくれたことに軽い戸惑いを覚える。
「おまえ、名前は?」
男が口を開いた。
「なに? 僕に興味が湧いたの?」
揶揄するように言うと、男は鼻先で笑った。
「たー君と呼ばれていたいなら別にかまわないが」
「カン――」
「半身の名前は?」
「エン」
「円環か」
その通りだった。
男が玄関の扉を開けた。そのまま中に入ろうとする。
何も言われないことに拍子抜けする。
「僕を始末しないの?」
「始末されたいのか?」
男が足を止め、貌だけを向けてきた。
「そうじゃないけど。でもさ――」
「シアの前では猫のふりをしろ」
漆黒の眼。威圧感は変わらない。だが――
「それさえ守れるなら、あとは好きにしろ」
玄関のドアが閉じた。
草の上に坐ったまま、ふう、と息を吐いた。
「とりあえず懐には入れたのかな」




