第二曲 夜ニ歌エバ 6
「誰を呼んでいた」
低い声に身体を起こす。
さんざん叫んだ後で、草の上に寝転んでいたところだった。
ログハウスの玄関に男が立っていた。黒のストレートパンツ。その上に、襟ぐりの広いTシャツをざっくりと身に着けている。髪はまだ乾かしていない。濡れた前髪の間から、漆黒の眼が覗いて見える。
「聴こえたの?」
「あんなに叫んでいればな」
「シャワーの音と彼女の声で聴こえないと思っていたよ」
少しばかり皮肉を込めたつもりだが、男は動じなかった。
「魔物の耳を甘く見るな。――答えろ」
空気が重くなる。
敵を見る眼だった。危険を呼ぶなら、おまえは敵だ――と言っている。
口の中が瞬時に干上がる。
巣を護ろうとするのはオスの本能だ。特に巣穴にメスがいれば、あらゆる危険を排除しようとする。下手なごまかしは命取りだ。
「呼んでいたのは僕の半身だよ」
「半身?」
「誰よりも命よりも大事な僕の片割れ」
「おまえの女か?」
その言葉で、男があの少女をどう思っているかがわかる。
微笑するように眼を細めると、男が自分の発言に気づいたらしく、肩をすくめた。
「女より大事だよ。僕にはね」
「応えはあったのか」
男の声が少しだけ和らいだ。
「無い。前はどこにいても僕の声に応えたのに」
空を見上げた。漆黒の闇に広がる無数の星。
「どこにいてもあいつの心がわかったのに――」
手を伸ばしても、星は輝きを放つだけで、何も答えてはくれなかった。




