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第二曲  夜ニ歌エバ 4

 

 少女の呼吸が穏やかな寝息に変わると、男はベッドから出ていった。

 ベッドに近づき、ひょい、と飛び乗る。二本の尾でバランスをとる。

 少女は死んだように眠っていた。近づいても、ぴくりともしない。

 投げ出された白い腕。白い指先に鼻を寄せ、小さな舌で少女の指を舐めた。

 ぎしり、とベッドが軋んだ。

 人間の身体に変化して、身を屈めた。

 少女の貌に貌を近づける。

「その姿でシアに触れたらぶち殺すぞ」

 弾かれたように入口に眼を向けた。

 男が立っていた。闇のような眼に、ごくり、と息を呑む。

「猫又の餌は死者の魂か、生者の精気だ。シアを餌にする気か」

 ぞっとするほど冷たい声だった。

 反射的に尻を浮かす。

 その瞬間、だん、と床が鳴り、気がつくと、床に叩きつけられていた。

 眼の前に男の貌があった。男の腕が喉に入っている。ほんの少しでも抵抗の意思を見せれば、首を折られると思った。男の眼は殺意を隠そうともしていない。

 声が出せなかった。動くこともできない。

「……答えなどどうでもいいか」

 男が言った。漆黒の眼の奥で闇が広がる。

「危険は全て排除する」

「――っ……」

 みしり、と首が鳴った。

「――オーマ?」

 少女の声。

 びくっ、と男が反応した。男の腕から力が抜ける。

 ベッドの上で、少女が眼を開けていた。焦点は合っていない。寝室は暗く、少女には見えていないのかもしれない。

 男が立ち上がり、少女に近づいた。

 こちらを振り返りもしない。

「ここにいる。どうかしたか」

 ベッドの上に身を屈め、男が言った。

「ぐるぐるしてた」

「眼がまわるのか」

「ううん。シアじゃない。オーマがぐるぐるしてる。何かあったの?」

「……いや」

 静かな声で男が言う。少女の言葉は子供のように舌足らずだったが、男には通じたようだった。

「何も無い。起こして悪かった。眠れるか?」

「うん。たー君は?」

「猫は――」

 いなくなった、とでも言われたら終わりだ。言葉通りにされる可能性がある。

 みぃ、と啼くと、少女が、たー君?、と反応した。

 ベッドに近づくと、男の眼が見下ろしてきた。

 何の感情も表していないのが余計に怖い。足が止まる。男の腕が伸び、首の後ろを掴まれた。心臓が竦み上がるが、そのまま少女に渡された。

「わあ……」

 子供のような声をあげ、少女が、にこり、と笑う。

 少女の胸に抱かれた。ちりちりと背中の毛がざわつく。何かしたら容赦しない、と男が無言で圧力をかけてくる。

 少女が貌を上げた。

「何かしてるの?」

「何もしていない」

 憮然とした声に、少女は小首を傾げた。

「もしかして、猫が嫌い?」

「オス猫はな」

「オンナノコならいいの? 女のひとが好きだから?」

「人聞きの悪い言い方をするな」

「人聞きって?」

「いいから、もう寝ろ」

「眼が覚めちゃった。起きてもいい?」

 男は苦笑するように息を吐いた。

「いいよ」




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