表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/26

第二曲  夜ニ歌エバ 2

 

 猫の声がした。

 樹の根本に、黒い子猫がうずくまっていた。

 完全な黒猫ではなく、頭頂部に金色の毛が混ざっている。

「あー。猫さんがいる――」

 シアが声をあげた。無邪気に駆け寄って行く。

 跪いて白い手を伸ばす。猫に触れる前に、その手を掴んだ。

「オーマ?」

「不用意に触るな。それから、裸足で走るな」

「ごめんなさい。でも猫さんなら大丈夫だよ」

 子供のように謝ってから、にこり、と笑う。

 ドウマは息を吐いて、手を放した。

 笑みを浮かべたまま、シアは猫に向かって両手を広げた。

 おいで、と声をかける。 

 猫は金色の眼でシアの貌を見つめた。

 身体を起こし、小さな舌でシアの指を舐める。

 シアの手が猫を抱き上げた。細い尾が動いた。付け根のところで二本に分かれている。

「だめ」

 取り上げようとしたのを察したか。シアは猫を抱いて、離れようとした。

「ただの猫じゃない。『猫又』だ」

「ねこ、ま、た?」

「日本の妖怪だ。普通は存在しない。だが、現実に存在しているなら、Dウィルスの関与を否定できない。猫にも感染するという話は聞いたことがないが――」

「じゃあ、名前はたー君だね」

 にこり、と笑ってシアが言う。

「……猫又の『た』か」

 説明は素通りだろう。

「まー君もいいけど」

「その理屈だと、ねー君も、こー君も有りだな」

「たー君がかわいい」

「好きにしろ」

 猫はシアの腕に抱かれて、気持ち良さそうに眼を細めている。

「ちょっと貸せ」

 シアの胸から猫を摘み上げた。

「オスか」

 首の後ろを掴まれた猫は、だらり、と両手、両足を垂らしている。

 胸の辺りの毛が乱れていた。指の先で猫の毛を掻き分けると、胸から腹にかけて傷痕があった。受傷時は相当の出血があっただろうが、今はほとんど塞がっている。

 傷に沿って指を這わすと、猫は嫌そうに身をよじった。

「オーマ」

 苛めているとでも思ったか、シアが手を伸ばしてくる。

「連れて帰りたいのか」

「うん。そうしてもいい?」

 子供のように無邪気な貌。

「いいよ」

 猫を渡すと、シアは嬉しそうに笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ