第二曲 夜ニ歌エバ 1
第二曲 夜ニ歌エバ
その少女は、人形のように坐っていた。
樹の幹に背中を預け、白い足を投げ出している。
袖の無いシルクのワンピース。スカートから覗く足は素足だった。
草の上に金色のサンダルが転がっている。
年齢は十六か、七か。それよりも幼いようでもあるし、逆にそれよりも上のようにも見える。
少女はほんの少し首を右に傾け、眼を閉じている。
少し開いた桜色の唇は、花のように瑞々しい。
眠っているようだった。
ほとんど動かないせいか、等身大の人形のように見える。
木漏れ日が草の上にまだらな光を落としているが、少女の身体は完全に影の中にあった。
影の中でも、少女は淡く輝いていた。
それほどに美しい。
月のように白い貌。細い眉。飴細工のような睫毛。
どこかで花が種子を飛ばしたのか、白い綿毛が風に舞っている。
雪のように舞う綿毛が、少女の髪に触れては、離れていく。
腰まで流れる月光色の髪が、蜜のような匂いを放っている。
ぶん、と虫が近づいた。
蜂だった。ぶぶぶ、とホバリングしかけたが、ふいに、ぢっ、と悲鳴にも似た音をたてて、逃げていった。
空気が冷たい。夏なのに。光が凍りついているようだった。少女の周囲に、闇が垂れ込めている。
少女と同じ樹に、男が背中を預けていた。
少女の右手側、九十度ずらして幹に背中を預け、腰を下ろしている。
若い男だった。黒い髪に艶がある。彫りの深い横顔は静かな表情にもかかわらず、空気が重くなるような威圧感があった。
「――ん」
少女が動いた。
睫毛が震え、少女の眼が開いた。紫色の眼が、透明な光を放つ。
ふ、と闇が退いた。
男が立ち上がり、少女に手を差し伸べた。
手を重ねながら、少女が、にこり、と笑う。
少女の手を掴み、男は軽々と少女の身体を立ち上がらせた。少女に手を貸したまま、男は腰の位置で半身を折った。転がっていたサンダルを少女の前に揃える。
隙だらけの背中。
次の瞬間、男が首を捩じった。
闇のような眼。
悲鳴が洩れた。




