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序曲

 


 序曲



 猫は哭いた。

 金色の眼から血の涙を流しながら。

 眼の前に少女の身体が倒れている。首はあらぬ方向に折れ、四肢も壊れた人形のように砕かれていた。人形と違うのは、夥しい血が飛び散っていることだ。

 長い髪は乱れ、少女の貌を覆い、その表情を見ることはできない。

 あの優しい笑みを。

 あえかな眼の光を。

 もう見ることはできない。

 ぁぁぁぁぁぁ――

 すがりつくような声は、やがて、狂気の響きを孕んでいく。

 耳を覆いたくなるような獣の声が、血塗られた月に向かって放たれる。

 街灯に照らされた猫の影が歪み、次の瞬間、巨大な影が月に向かって飛翔する。

 GYYEEEEE――

 降り注ぐ呪いの声は聴く者を狂わせ、その夜、数百人が殺し合ったという。

 親は子を。

 子は親を。

 男は女を。

 女は男を。

 あるいは見知らぬ者同士が刃物を握り、武器になりそうな物を手に取り、無ければ喉笛に食らいつき、血に塗れながら、殺して、殺して、殺して――

 笑い続けた。



 猫は知らない。

 猫が去った後、

 少女がゆらりと立ち上がったことを。

 壊れた足で。

 壊れた腕で。

 折れた首を支えながら。

 白い貌の中で、

 血に濡れた唇が

 みゃあ、と啼いた。




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