救イノ時ヲ待ツ少女 後編
第九夜 狂認怨恨
一度戻ってきた牙とレインは
牙が目覚める間
折鶴とレインの二人で作戦会議をもう一度開くことにした。
「さて、これは想定内じゃな。
この現象にはどこかに
術者がいると予想はしておったが
恐らくそうじゃろ。」
レインはさっきの死体が動いている
現象は間違いなく
術による手段と見ているため
その結果にたどり着いた。
「私もその可能性が一番高いと思うな。
だが、だったら術者本体は何処だ?」
折鶴もその推論に否定はなく
その方向で話を進めているが
これ程大掛かりな術になると相当
強い術式があると思い
聞いた。
「今考えられる術者本体は
あの少女じゃな。
それ以外の気配は感じなかったからのう。」
今まで出会った者の中に
いるとするならやはり
あの少女だろう。
彼女がいったいどういう存在なのかは
調べてみないと分からない状況のため
確信はなかった。
「そうですね。私もある程度の
範囲は見ていましたがそのような気配は
ありませんでした。
ですがあの少女からも特に変わった
気配は感じられませんでした。」
考えられる可能性を今ある情報と
照らし合わせると矛盾が生じる
ため
あまりに情報が足りない状況に
陥ってしまった。
「とりあえずあの町を探索するしかねぇだろう。
気配がねぇなら全員で行って
全力で探すのが得策じゃねぇか?」
いつの間にか起きていた牙の提案に
今の情報不足の対処法があったため
否定する理由もなかった。
「もう起きとったか。
にしても確かにそうじゃな。
その案で間違いないじゃろ。」
折鶴もその案に賛成と言うように
もう術式を
展開し始めていた。
「さて、第2ラウンドといきますか!」
心機一転で心を改め
町に二度目の潜入を行った。
「とりあえず、この町には明らかに
怪しいところが多い!
だから俺達でその探索と元凶を探すぞ!」
二人に町で行うことを伝え
三人はそれぞれ違う方向へと
散っていった。
「誰か来たみたい。
どうせあの三人も私を認めてくれない。
認めさせるために殺そう。」
少女は三人の気配に気がついた。
そして自らに宿る怨恨の力を使い
別れた三人の元へと
三体の傀儡を送った。
「彼等は相当強いみたいだから
私の最強の力で認めさせないと
また同じことになっちゃうからね。」
その少女は町の中心で座り
ひたすらに待つ。
自らを認める者が現れるのを
「にしてもこんなにも広かったかこの町?
全体的に敵も多くなってきたしよ。」
町を進むにつれて傀儡の数も
多くなっていき
その集団は中心部へと誘っていった。
そしてその途中に
奇妙なものを見つけた。
「なんだ?あの古い家は?
他の家からは遠く離れている
ところを見ると恐らく破屋だろうけど。」
少し林の中に入っていくとそこには
小さな古い家があった。
少しの風で壊れてしまいそうな程の
古さだったが
牙にはなにかがあるような気がした。
「とりあえず調べるのが目的だからな。
入ってみるとするか。」
そしてその中には特に目立った物は無く
少しの本が置いてあるだけだった。
「無駄骨かなぁ。
歩いている音の反響音から見ても
地下は無いっぽいしな。」
吸血鬼の力の一つの
五感強化を使って見たが
特に何もなくその場から立ち去ろうと
した時に一つの本が目に入った。
「なんだこの本?かなり、って言うか
相当古い本だな。
少なくとも200年前って位だな。」
その本の内容は
絵本だった。
題名は
「卑劣の少女か。
中々に卑屈なタイトルなこった。
なになに?」
牙はその本を読み進めることにした。
その中にはある事実が隠されていることに
今の牙はまだ気づかなかった。
「なんで儂は二人と離れて行動することを
承認してしまったんじゃ。
怖いんじゃぁ〜。」
震えながら中腰で歩いている
レインはまだ特に何も会ってはいなかった。
「こんな苦労をしてるんじゃ。
何か見返りが無かったら本当に
この村を潰すぞ。」
独り言でキレ気味に話している
レインの元へと大量の影が後ろから
来ていることに
恐怖を押し止めるのに精一杯のレインは
気が付かなかった。
「もう嫌じゃ!こんな怖い思いをして
何を探すんじゃ!
さっさと探してお終いじゃ!
ん?」
何かに掴まれたことに気がついた瞬間に
レインは発狂しそうな程
焦った。
その反応のせいで行動が遅れてしまい
そのまま腕を引きちぎられてしまった。
それと同時にやっと恐怖が無くなり
いつものように戻ったレインは
独り言を話した。
「グウっつ!久しぶりに腕をやられたが
中々に痛いのう。
にしても!人の心に付け込むとは
いい度胸じゃな。
死人如きが儂の機嫌を損ねるなど
身の程知らずもいいとこじゃあ!」
今までの恐怖による怒りを
そのまま傀儡達に向けて
滅多に腰から抜かない刀を
抜き傀儡達を滅多斬りにしていった。
「細かく切り刻んでしまえば
もう復活も出来んじゃろ!
さっさとくたばれやぁ!」
完全にキレて
怒りに任せながら
中心部へと向かっていった。
そのときに
折鶴はさっきの石像の下にある
牢屋の死体を調べていた。
「この死体は少なくとも200年前の
死体ね。
それにこの死体の残り香。
これは想定外よ。」
折鶴はその死体に掛けられている
術式に気がついた。
しかし
「この術式は相当強い術式ね。
解除は無理に近いわ。
この死霊術を解除するなら術を消すよりも
本体を叩いた方がよっぽど早いわ。」
そしてその死体を確認し終わったところで
あることに気がついた。
「そういえばこの死体は
腐敗が進みすぎて
骨しか残っていないから
霊魂の痕跡でしか分からないけど
恐らくさっき牙様達が
見つけた少女ね。」
そこから導き出された答えを
口にして出そうという時に
後ろに
圧倒的に強い気配があることに気がついた。
「ということは牙様達が会った
あの少女はこ...!」
気配に気づき
その方向へと振り向こうとした時には
その気配の正体の傀儡が
剣を振り下ろしていた。
そして残りの二人にも同じことが
起きていた。
「なんだこいつは!
今までの奴らとは明らかに違ぇぞ!
つーかでけぇ!」
その姿は3mはあるだろう巨体の
死体が甲冑を纏いながら両手には
鉄球を抱えていた。
「さっき出口の方向へと向かっていなくて
逆向いて本読んどったら危なかったな。」
牙は出入口のところから来たその姿を捉えた瞬間に攻撃されたが
反応するのに遅れは取らなかったので
避けることに成功はした。
しかし振り回した鉄球によって
古家は崩れてしまった。
そしてその現象は勿論レインにも
起こっていた。
「さて。こいつの相手をするには
怖いだの何だの言ってられないようじゃのう。」
涙目になりながら向かう先の敵を
滅多斬りにしていたレインだったが
途中で謎の巨体に甲冑の死体
で両手には槍が構えられていた
敵に剣筋を弾かれ完全に我に返った。
「儂も少し怖がっていたとはいえ
適当に振り回していたわけではないがのぅ。
そう考えると槍を使うことに関しては相当強いみたいじゃ。
手は抜けんのぅ。」
そう言いながら少し腰を落とし
頭の横に手を持っていき
剣先を相手の方に向け、剣を構えた。
「久しぶりに少し本気をだすかのう。
怖いからさっさと終わらせたいんじゃ!」
そう言いながら傀儡に向かって
踏み込んでいった。
「危なかったですね。
それにしてもあの大きな剣は相当
切れるようですね。」
折鶴は不意打ちの剣筋を
何とか避けること成功して
周りを見回すと
牢屋の鉄格子が全て切れていて
少し広くなった。
「全体的に見ると広さ的には
100㎡位でしょうか。
まぁ戦えますね。」
そんな考察をしている折鶴に
無慈悲に攻撃を繰り出してきた
傀儡の体に
切れた鉄格子が10本程刺さった。
「とりあえずこれでどれだけ効きますかね。
まぁこんな程度では話に
ならないでしょうけど。」
折鶴は影を部屋全体に張り巡らせ
鉄格子を回収してそれを
放出した。
「流石にこの大きさでは私の影には
入りませんからね。
それに死霊術で呼び出された死体はどれ位の生命力か気になりますし!」
折鶴は嗜虐的な笑みを浮かべながら
影を使って応戦していた。
そして三人の戦闘の間
少女は町を覆っている瘴気を自分の所へ
集め始めた。
「もうこの町に固執するのは
やめよう。
一気に遠くまで放出した方が
被害が増えて
私を皆認めてくれるよね。」
少女はただ狂っていた。
周りに理解されず、努力という
無駄な労力に人生を費やし
その成果に結果は付いてくることは無く
他人に貶められ
そのまま認められること無く
死を迎えた魂には
狂気以外の感情は無かった。
幼稚な思考
本能に忠実の思考は
それが元々なのかそれとも
浮き出されたものなのかは
少女にも分からない。
そしてその瘴気の移動には
今瘴気に包まれていた三人一斉が
気がついた。
「なんだ?
瘴気が一帯から消えやがった。
とりあえずもう急がねぇとヤバいかもな。」
もう遊んでいる暇が無いと感じた
牙は拳を構えた。
その型は右手を逆手で肋骨の横へ
左手はそのまま顔の横へと
腰を少し落としながら構えをとった。
牙の構えに少し既視感があった
アルカードは少し頭の中に話しかけてきた。
「その構えは久しぶりにみたな。
お前、どこでその拳術覚えた?」
アルカードはこの拳術を知っているようで
疑問を抱き
その元を聞いて
それに気がついた牙は経緯を教えた。
「この拳術は爺の教えだよ。
言い忘れたけど爺の家は道場開いているし。
それに嫌でも教えられたから
相当身についてるし。」
そして話していることを気にしていたため
敵の動きに少し反応が遅れた。
そのため拳術を打ち込む隙を逃してしまった。
鉄球を振り回しながら振り上げたり
横振りをしながら
休まず攻撃を繰り出している所に
一瞬だが鉄球の動きが止まった。
今度こそ、そこの隙を逃さず
「壊拳術
崩の型!
地割!」
そう言いながら右手を心臓の少し横の
中心部へと平手で衝撃を与えた。
その瞬間体の骨が連鎖的に折れ始め
そのまま倒れた。
そしてその結末を見ていたアルカードは
また話しかけてきた。
「この拳術を見たのは
確かに一世代前。
つまりお前の前の代になるが
まさかお前のジジイじゃねぇか?」
牙には分からないが
アルカードからは考えられる可能性
を話し掛けられたが
その言葉に返答する前に瘴気が集まっている
場所へと走り始めていた。
「この町は相当でかかったから
相当の量の瘴気があったはずだ!
それを一点に集めるってことは間違いなく
いいことは起きねぇ!」
そう言いながら急いで瘴気の通り道を
辿っていった。
そして牙の一撃から少し前に
レインの戦いは終わりを迎えていた。
「もう少し手応えがあると思っておったのじゃが。これじゃ楽しむ暇もありゃせんわ。
鬼血を使うことも無かったしのぅ。」
最初は槍の腕に少し苦戦を強いては
いたが槍が折れると同時に拳へと
変わった後からは泥沼へと変わってしまい
レインは呆れてさっさと
首を切り落としてしまった。
「瘴気が集まっておるのぅ。元凶本体から
誘ってくれるとは中々に粋なことしてくれるのぅ。楽しめるといいがのぅ!」
そしてその亡骸を後にして
瘴気の集まる場所へと牙と同じく
走っていった。
そして折鶴も敵を倒し
そちらへ向かっていった。
「まだ死なれては困るのですがねぇ。
やはり三体に分ければ性能も三分の一になるのでしょうか?」
冷静に分析しながら戦いを続けている折鶴
へと剣を滅茶苦茶に振り続ける
傀儡の右半身はもう存在していなかった。
「牙様に動きがあったのを感じましたので
後々の為もう少し実験したいのですが
さっさと終わらせましょうか。」
そう言うと折鶴の後ろから
黒い手が無数に出現して
傀儡の体を掴み
そのまま折りたたみながら
肉片へと変えた。
「さて、片付きました。
では急ぎましょう。
牙様を待たせるわけにはいけませんので。」
元々人間の思考だった牙だけは焦った
状態だが
こういう場は慣れているレインと折鶴は
冷静だった。
自らの力を相当使った傀儡が
こうもあっさりと殺られてしまった
少女は相当焦っていた。
「私の力が通じないなんて。
こんなんじゃまた誰も見てくれない。
誰も認めてくれない。
私が私でいられなくなる。」
そう言いながら頭を抱え
焦りを隠せない見た目になりながらも
ふと何を思ったのか
隠れた顔からは笑みが零れた。
そしてその笑みは高笑いへと変わり
明らかに狂気の形相だった。
「ヒャハハハハァー!
他に頼るからいけなかったのよ!
上手くいかないのよ!
やはり私一人であの三人を殺す!」
そしてその高笑いが止まって前を向くと
そこには三人の姿があった。
「来ましたねぇ!私を否定する者!
私を認めてくれない者!
そんな者達は殺す!コロス!
苦しみを与えながら殺してやる!」
殺すという明確な殺意を隠す気もない
少女の姿と形相は文字通り
鬼へと変わっていった。
その変化に驚くよりも
決意を固め戦闘体勢をとった。
そして二人に決意を言葉に出して伝えた。
「さて、二人とも!
幽霊はびこる
昼のバケモノ狩りの終止符を打ちますか!
ついでに村も救って英雄になってやろうぜ!」
そしてこの町の最終決戦の
火蓋が切られた。
まだ続きます。
今回は前編、中編、後編、終編と四部構成
となっております。