新年
明けましておめでとうございます!!
年が明けた記念に、結婚後のサラとジークで新年のお話を書いてみました。
ジークと結婚してから、初めて年を越す事になった。
やはりこの世界でも、新しい年に変わるのは国を挙げてのお祝い事であったのだ。
私は朝から王太子妃として様々な公務をこなし、あっという間に夜になってしまった。
そして最後の公務である夜会を終えると、ヘトヘトになりながら部屋に戻ったのだ。
「サラ、お疲れ様」
「・・・分かってはいたけど、やっぱり王族は色々面倒な事多いね」
私に労いの言葉を掛けてくれたジークと一緒に、長椅子に並んで座りうんざりした顔で私は大きなため息を吐く。
ちなみに部屋へ入る前から、ジークはずっと私の腰に手を回したままでいて、長椅子に座った今もその手を離してくれないでいた。
「まあ新年の行事が、一年の中で一番忙しいからね」
「・・・王族辞めたくなってきた」
「俺は、絶対離婚しないから!」
そうジークは捲し立てると、腰に回していた手の力を強め私を引き寄せてきたのだ。
「も~!大丈夫だから!私も、ジークと離婚する気無いから安心してよ」
「・・・良かった」
ジークは心底安心した顔になり、私をギュッと抱きしめてきた。
私はそんなジークに苦笑しながら、安心させるようにポンポンと背中を軽く叩いてあげる。
そうして暫く私達は抱き合っていたのだが、さすがにそろそろ離れて欲しいと思い始めていた時、急にジークが私を長椅子に押し倒してきた。
「ジ、ジーク!?」
私に覆い被さるように見下ろしてくるジークの瞳には、明らかに劣情の炎が宿っている。
「・・・ねえサラ、新しい年になった事だしそろそろ俺達にも、新しい命が欲しいよね?」
「そ、それって・・・」
「そう。俺達の子供だよ。だから・・・良い?」
「良いってって・・・こ、ここで!?」
「うん、もう俺我慢の限界だからさ」
「い、いやいやいや!せめて寝室にーーーー!!」
「それはまた後でね」
「んん!!」
そう楽しそうにジークは言うと、あっという間に私の唇を奪ってしまう。
私はなんとか抵抗しようと、ジークの胸を叩くが全くビクともしなかったのだ。
そうして私はジークの激しい口付けに翻弄され、体の力が抜けてくたりと長椅子に身を沈めていると、私の唇を解放したジークが唇に付いた唾液をペロリと舐めとり、そして妖しい微笑みを私に向けながらゆっくりと私の首元に顔を埋めてきた。
私はその様子を呆然と見つめながら、もう諦めて大人しく目を瞑る。
「こんな所で何をされてるんですか!!」
「そうですわ!サラお姉様から離れて下さい!!」
突然聞こえたその二人の声に、私は目を大きく見開き急いでジークの下から抜け出す。
しかしジークは私に覆い被さった状態のまま、とても苦々しい表情になっていた。
私はなんとかジークから離れると、乱れてしまったドレスを急いで整え、声のした方に顔を向ける。
するとそこにはアンナさんとクラリスが、凄い形相でジークを睨み付けながら立っていたのだ。
私は二人に見られていたのかと思い、とても恥ずかしくなって俯いてしまったが、私の横でジークが開けた胸元を直しながら鋭い視線で二人を睨み付けたのだった。
「・・・せっかく良い所を、何故邪魔する」
「邪魔するつもりはありませんでしたよ?ただ、こんな所でされると後を片付ける私達が困るので」
「・・・それが君達の仕事だろ?」
「ええ、そうですね。ですが・・・私達の仕事で一番重視しているのが、主人であるサラ様の体調です!」
「そうですわ!ただでさえ、サラお姉様は今日一日公務で大変お疲れだった筈ですのに、さらに夜のお務めまで強要されるだなんて・・・サラお姉様がお可哀想」
「俺はべつに強要などしてない!!」
そう三人はお互い言い合い、火花が散っているような錯覚に陥る程だったのだ。
私はそんな三人を見てすっかり恥ずかしさが無くなり、代わりに呆れた表情でこの言い合いが終わるのを、じっと見守る事にしたのだった。
なんとか三人が落ち着いてくれ、私はアンナさんにお茶をお願いし、クラリスにはそのアンナさんの手伝いを頼む。
そうして再び私とジークの二人っきりになったが、さすがにすぐ戻ってくる二人の事を考えると、もう先程のような甘い雰囲気にはならなかった。
「はぁ~本当は今頃・・・」
「まあまあ、それはこの際良いじゃない」
「・・・分かった。続きは後でな」
「・・・っ!」
ジークのまた熱のこもった言葉に、私はこの後にあるであろう状況に思わず顔が熱くなってしまったのだ。
「それに明日は一日公務がお休みだから、今日は夜遅くまで起きてても問題無いからな」
「そ、そう言えばそうだったわね・・・」
ニヤリと笑ってくるジークを見て、私は頬を引きつらせる。
私・・・今夜は寝かせて貰えるんだろうか・・・。
そう思うと、今度はこの後の事が少し恐ろしくなったのだった。
しかしそこでふと、転生前の日本人であった時の年明けの様子を思い出し、私はある食べ物が頭に浮かんだ。
「・・・お雑煮食べたい」
「え?『オゾウニ』?」
「あ、そうか・・・ここには、そもそもお餅が無かったんだよね」
「『オモチ』?」
「う~ん、何て説明すれば良いのか・・・」
「サラ?」
「そうだ!!」
ジークが怪訝な表情で私に声を掛けてきていたが、私はそんなジークに気が付かず、暫し思案した後ある考えが頭に閃いた。
そしてさっそくそれを実行しようと、勢いよく長椅子から立ち上がる。
「ごめんジーク!私、用事思い出したから、ちょと行ってくるね!あ、多分今夜は部屋に戻って来れないから、私の事を待たずに寝てね!」
「え?あ!ちょっ!サラ!!」
ジークが驚いて引き止めようとする声が聞こえてきたが、私はそんな事よりも今頭に浮かんでいる事を早く試したくて、急いで部屋から出て行こうとしたが、入口でアンナさん達とばったり出会す。
「サ、サラ様!?一体どちらへ?」
「あ~アンナさん、せっかく用意してくれたのにごめんね。私ちょっと用事思い出したから、私の分もジークに入れてあげて」
「え?サラ様?」
「サラお姉様!宜しければ、わたくしもお供致しますわ!!」
「ごめんねクラリス、私一人の方が色々都合が良いの。だから、私の代わりにジークの話し相手になってね」
そうクラリスに言うととても嫌な顔をされたが、私は敢えてそれ以上何も言わず、さっさと部屋から出ていったのだった。
私が向かったのは、城の中で今は使われていない空部屋である。
だが使われていないとは言え、掃除はしっかりと行き届いているのでとても綺麗であった。
私はその部屋の中にある大きめの机に向かい、そして机の上に調理場から借りてきた大きめの鍋といくつかの容器を置くと、机の手前にある椅子に座って一度大きく深呼吸をする。
そしてドレスの袖を捲り、掌に意識を集中させる事にした。
すると掌に光が集まりだし、段々形が成形されていく。
そうしてある程度掌で成形出来たある物を、一気に机の上に置いておいた鍋の中に入れる。
それはザラザラと音を立てながら、鍋一杯になるまで入っていったのだ。
とりあえず鍋一杯まで入ったので、私は成形するのを止めその山盛りに入った物を一掴み手に取る。
そうしてその物をじっくり見て、問題無いかじっくりと確かめた。
「うん!上出来!!」
私は一人満足しその掴んでいた物を再び鍋に戻すと、次なる容器を目の前に用意しそして再び掌に集中しだしたのだ。
そうして、色々な物を錬金術で作り上げ容器に詰めると、私はそれら全てを持って調理場に向かったのだった。
ちなみに何故こんな部屋で作業をしたかと言うと、あまり錬金術は他の人に見せたく無かったからだ。
だからこの部屋には目隠しの魔法を掛けてあり、誰もこの部屋を見付ける事が出来ないようにしてあったのだった。
私は調理場の担当から許可を得て、誰もいない調理場を貸し切る。
そして持ってきた鍋や容器から材料を取り出し、黙々と作業を進めたのだった。
次の日の朝、私はホカホカに湯気が上がっている料理をワゴンに乗せて、ジークと一緒の部屋である自室に戻っていく。
多分まだ寝ていると思いながら、ゆっくり扉を開け静かに中へ入って行くと、不機嫌な顔で長椅子に座っているジークと目が合った。
「・・・おかえり」
「ジ、ジーク!?もう起きて・・・いや、もしかしてその顔は、寝てないの!?」
「・・・君がいないのに、寝れる訳が無いだろう」
「いやいや、さすがに私がいなくても寝てください!!」
「・・・それよりも、一体何処へ?それにそれは?」
「それよりもって・・・まあ良いや。え~と、ちょっとお雑煮作ってみたから食べて貰えるかな?」
「ああ、昨日の夜に言っていた『オゾウニ』の事?」
「うん、そうだよ!ついでに余ったお餅で色々作ったから、それも食べてみてね」
そう言って私は、ワゴンに乗せていた料理をどんどんジークの目の前にある机に並べていく。
実はあの錬金術で作っていた物は、餅米だったのだ。
さすがにこの世界には、お米はあっても餅米が無かったので、錬金術で作ってみたのだった。
さらにお雑煮や磯辺焼き、おはぎなどお餅料理に必要な他の材料も錬金術で作り上げていたのだ。
私の料理を見た料理長は驚き、そしてこのレシピと材料の入手先を凄い形相で聞いてきたが、さすがに転生前のレシピと錬金術で作った材料だったから、絶対教える事は出来ないと言ってなんとか料理長の質問攻めから逃げてきたのだった。
そんな事を思い出しながら机の上に料理を全て置き、本当は箸で食べて欲しいがさすがにこの世界には無いので、フォークやスプーンで食べて貰う事にする。
私が見守る中、ジークはお雑煮が入ったスープ皿を手に取り、スプーンで汁をすくって口に運んだ。
それをドキドキしながら見つめていると、ジークは驚愕の表情で目を見開きながら汁を飲み込む。
「お、美味しい!」
「本当!?」
「ああ、今まで食べた事の無い味だが、味に深みとコクがあり凄く美味しいよ」
「良かった~!口に合うか心配だったの!じゃあそのお餅・・・えっと、その白い物も食べてみて」
「・・・これが『オモチ』か」
そう不思議そうに餅を見ながら、スプーンからフォークに持ち変えてお餅にフォークを突き刺し持ち上げようとする。
しかし餅が伸びるとは思っていなかったようなので、戸惑いながらその伸びる餅を見つめた。
そうしてなんとか悪戦苦闘しながらも、餅を口に含む事が出来たジークは、再び驚愕に目を大きく見開いたのだ。
「こ、これも美味い!!」
「やったーー!!」
予想以上に高評価だった事に、私はホッと胸を撫で下ろす。
そうして私もジークの隣に座り、一つずつ料理の説明をしながら一緒にお餅料理を堪能したのだった。
ジークが全ての料理を完食してくれた事に喜びながら、私は食べ終わったお皿をワゴンに戻していると、突然視界がぐるりと回り気が付いたらジークに横抱きで抱えられていたのだ。
「ジ、ジーク!?」
「美味しい料理ありがとうね」
「い、いえ、どう致しまして・・・それよりもこの体勢は?」
「せっかくだから、これからデザートも頂こうと思って」
「へっ?デザート?」
「うん。サラと言う、甘い甘いデザートをね」
「なっ!!」
「結局昨日の夜はお預けを食らったから、今からたっぷりと甘い時間を過ごそう」
「え?いや、もう朝だし・・・」
「大丈夫、今日一日は誰もこの部屋に近付かないように言ってある。勿論、あの二人の事は他の者に頼んであるよ」
「そ、そんな事言われても・・・」
「さあ約束通り、寝室で一杯甘い時間を過ごそうね!」
「そ、そんな約束した覚え無いよーーーー!!」
そうジークの腕の中で叫ぶが、ジークは全く気にする様子もなくニコニコと楽しそうに私を抱いたまま寝室に足を進める。
結局そのジークの言った通り、その日一日は部屋から出る事が出来なかったのであった。