第五章 真相⑥
世梨花は独自に、母親の事故のことを調べ上げていた。
あの日、確かに脇道から出て来た車はあった。
うろ覚えだったが、車は一旦止められ、雨の中、人影が近づいて来て、大丈夫ですかと必死の呼びかけを聞いたような記憶がある。その声を制止するように、別の声。
「瑞樹ちゃん」
確かにそう呼んでいた。
右手の掌にほくろと、名前しか分からない。心もとない手がかりだけを頼りに、世梨花は妹尾瑞樹に辿り着いたのだ。
それは偶然だった。
ファーストフードで食事を摂る世梨花の横に座った、中学生たちが話している声が聞こえ、世梨花は耳を済ます。それは仲間内の話らしく、甲高い声は遠慮なく噂話に、花を咲かせていた。
どうやら友人の一人が、恋人が出来た話らしい。しかもその子は、妊娠までしてしまったという話だった。ヤバいとかヤバくないとか議論を投じたあと、結局下ろさせられたらしいという、悲惨な結末で話しは閉じられる。
問題はこの後だった。
「で、その彼氏って、超金持ちらしいよ」
「まじ?」
「なんか財閥の坊ちゃんだって。しょっちゅう女変えて遊んでいるらしいよ」
「ゲー、最低」
「はいはい。私、その人の写真持っている」
「何で、あんたが持っているの?」
「なんか亮子がさ、いい男と歩いてたもんだから、つい出来心で。ほらこの人」
「ええどれどれ、良く見えない」
そんな会話の後、携帯がうっかり世梨花の足元へ落とされてしまう。
世梨花はそれを拾ってあげ、息を飲みこむ。
その顔に見覚えがあった。
薄れて行く意識の中、確かにこの顔が、呼び掛けていた。
それを確かめるべく行動をとった世梨花は、瑞樹の掌のほくろを見つけたのだった。
生きる目的。それは瑞樹への復讐。
すべては、あの事故に原因があると思い込んでしまった世梨花は、瑞樹のことを調べ上げた。好みの女性像や趣味。そしてそれをすべて兼ね備えるべく、努力を惜しまずするようになり、そして乃ノ美と出会ったのだ。
このクラスで一番目立たない奴。そんなちんけな理由で、世梨花は乃ノ美を選び近寄って行った。
常に瑞樹を意識し、緊張を続ける世梨花にとって、普段着のような存在がどうしても必要だった。そして何より、あのヒカリが興味を持った女というのも、理由の一つだ。中学の時から、人にあまり興味を持たないヒカリが、話した相手はほんのわずか。数少ない一人が、世梨花だった。世梨花は思い上がっていたのだ。ヒカリは、てっきり自分に興味があり、それを弄んでいると。だがそれは違っていた。その事実を知った世梨花は、痛恨の思いで乃ノ美を見ていた。
そして、執拗に自分をアピールするため、乃ノ美から離れようとしなかったのだ。
しかしそれは、完璧に世梨花の敗北だった。




