表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/35

第五章 真相④

 店は暖かく、世梨花の顔が自然と綻ぶ。


 ホットコーヒーが二人の前に運ばれてきて、先に口を付けた世梨花が、美味しいと笑って言う。

 「ね、のん、覚えている?」

 複雑な表情浮かべた、乃ノ美はそう言う世梨花を見つめたまま、瞳を揺らす。

 「瑞樹との婚約が決まって、二人で食事した時があったでしょ。ワインをあの日、私結局二本空けちゃって、翌日の式場の打ち合わせなんて最悪で、ドレスに着替えていても気持ち悪くて、何回もトイレに駆け込んじゃってさ」

 紙ナプキンを幾重にも折りたたみながら、世梨花は話していた。

 「本当はねあの日、のんに相談するつもりだったんだ」

 乃ノ美は、大きく目を見開く。

 「私ね、本当は瑞樹のこと、好きじゃなかったの」

 「どういうこと? あんなに幸せそうにしていたじゃない」

 そっと目を上げた世梨花は、寂しそうに笑う。

 「そういう風に見えていたら、私って女優になれたかもね」

 肩を竦めてみせる。

 「のんが、私を嫌っているのも、実は知っていたんだ」

 「嫌っているって」

 「良いわよ隠さなくても。私もあまり、自分のこと好きじゃないもの」

 「そうなの?」

 コクンと頷く世梨花を見て、思わず昔のようにまたまたと言ってしまい、乃ノ美は恥ずかしさで、目を伏せる。

 店の扉が開く音がして、血相を変えたヒカリが入って来る。

 二人の姿を見つけ、つかつかと進み出たかと思うと、乃ノ美の頬を強く叩いた。

 「バカヤロウ。本当にお前は、どんだけ俺に心配をかけんだ。今度こんなことしたら、縄で縛って、家から一歩も外に出さねーぞ」

 「椎野君、怖い」

 世梨花に冷やかしを入られ、ヒカリは椅子にどさっと座り、乃ノ美の前にあった水をがぶ飲みをする。

 頭から湯気が出ていた。どうやら旅館からずっと走って来たらしい。そんなヒカリを世梨花は眩しそうに、目を細めて見る。

 「変わっていないね。椎野君はのんのことになると、いつも必死だよね」

 乃ノ美からおしぼりを受け取ったヒカリは、顔をごしごしと拭き出す。

 「いつもそうだった。三階の窓から乃ノ美のことを追いかけていたのよね」

 「え? それは違うでしょ。ピカは世梨花を撮っていたのよ」

 「あら? のんって、椎野君が撮っていた写真を一度も見たことがないの?」

 「うん」

 乃ノ美は、ヒカリに目をやりながら頷く。

 明らかに目を逸らされ、戸惑う。

 「一年の時だったよね。私もてっきり、自分が撮られているもんだと思って、椎野君を捕まえて言ったの。あなたが撮っている写真を見せなさいよって。中学の時からずっと、椎野君を気になっていたから、いいチャンスだと思ったのに、何よこれって思わず言っちゃったわよ。渋々見せてくれた写真、全部のんばかりだったのよ」

 「嘘」

 「嘘なんか言わないわよ」

 「超ムカついたから、一枚だけ没収してやったんだから。それ、今でも実家の部屋に飾ってあるのよ。のんも見たことあるでしょ」

 そう言われ、乃ノ美は世梨花の部屋を思い出す。

 確かに机の上に、乃ノ美と世梨花が肩を組んで笑っている、写真が飾られているのを思い出した。体育祭か何かの写真だった。体操着姿で、どこから撮ったんだろうと思った気がする。

 「椎野君、のんが撮りたくて、広報委員に立候補したんだって。もうそれを聞かされたら、身を引くしかなかったわよ」

 小声で、乃ノ美はそうなのとヒカリに訊くが、目を逸らして答えてもらえなかった。

 「ずっと、のんが羨ましかった」

 「世梨花が、私を?」

 「そうよ。いつもピカ、ピカって、椎野君と楽しそうにしていたじゃない。身を引いたと言っても、やっぱりね、複雑よ。卒業しても変わらなくてさ。、のんの為ならどんな時でも駆けつけちゃってさ。だから少し、意地悪してやろうと思って登山に誘ったのよ。絶対、のんの誘いなら椎野君も来ると思ったから」

 世梨花はコーヒーを飲み干し、ため息を漏らす。

 「私も、そんな人が欲しかった」

 「妹尾さんがいたじゃない?」

 「瑞樹か」

 そう言うと、世梨花は目線をテーブルに落とし黙りこむ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ