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第五章 真相②

 久しぶりの再会。

 想像していた以上に穏やかなものだったのは、自分の大きくなったお腹に目を落とした乃ノ美は、この子のお陰ねと呟く。

 ヒカリは連日の深夜の仕事で、よほど疲れが溜まっていたのであろう。椅子の上で転寝をしてしまっていた。

 乃ノ美はヒカリに掛布団をそっとかけると、旅館の近くを散策に出かける。

 紅葉しきった山間を眺め見、うっとりした気分のまま川べりを歩く。

 「真ちゃん」

 そう呼ぶ声に、乃ノ美は足を止める。

 幼い子が、嬉しそうに振り向く先に世梨花の姿があるのを見つけ、乃ノ美は顔を引きつらせる。

 「何をしていたの?」

 「おさかなさん、見ていた」

 「そう、でもここは危ないから、一人で来てはダメよ」

 世梨花がその子を抱き、振り返る。乃ノ美と目が合い、しばらくの沈黙が二人を包む。

 「その子は?」

 青ざめた乃ノ美に聞かれ、世梨花は一瞬躊躇いを見せてから、私の子ですと答える。

 「真ちゃん、ご挨拶をして」

 「鶴見真一です。三歳です」

 「鶴見って」

 「私、結婚していないの」

 「どういうこと?」

 乃ノ美は、世梨花が抱く子をじっと見る。

 遠くの方から名前を呼ばれ、一礼してそのまま立ち去って行く世梨花を目で追う。

 

 「お騒がせしました。居ました」

 「真ちゃん、もう心配したじゃない」

 仕事仲間らしき人と、笑顔で話している世梨花から目が離せずに、乃ノ美はその場に立ち尽くす。

 疑ってはいけない。

 そう自分に言い聞かせるが、年齢的にも考えると、身が震える思いは、どうにも止められないまま、夜を迎えていた。 

 乃ノ美は気分がすぐれないと言って、露天風呂へ誘うヒカリを断り、一人部屋に残っていた。

 布団を敷きにやって来た仲居に、乃ノ美はさりげなく話しかける。

 「世梨花さんて、子供がいたんですね」

 「ああはい。真ちゃんね。お母さんに似て、かわいいでしょ。お客さん、鶴見さんとはお知り合いですか?」

 「ええ。高校の同級生なんです。卒業してからずっと会っていなくって」

 「そうでしたか」

 「ここへは、いつからですか?」

 「かれこれ三年ですかねー。ふらりとやって来て、働かせて欲しいって」

 「あの子は、ここで誰かと知り合って、出来ちゃったのかしら。世梨花って、高校の時はしっかり者さんで、どちらかというと、そういうことを軽はずみにする子じゃなかったから、驚いちゃって」

 「いや違うみたいですよ。もうここに来た時には、入っていたみたいですよ。おかみさんに正直な話していたみたいだし。うちも人手不足だったしね。多少難があっても、それはそれ。それにセリちゃん、語学が堪能で、前は大手会社で秘書をしていたらしくって、気は利くし、あの容姿だから客受けも良くって、大助かりしているんです。詳しい事情は何も話してはいないらしいんですけどね~。あら嫌だ。ごめんなさい私、長話なんかしちゃって。この話、私から聞いたって言わないで下さい」

 「もちろんです。良かったらこれ」

 「いえ、こういうのは受け取れません」

 「お茶菓子代ぐらいだから、それに世梨花さんのこと教えてくれたお礼です」

 「そうですか。それじゃあ遠慮なく」

 ふっくらしたその仲居は、愛想を振りまきながら部屋を出て行く。


 椅子に揺られながら、乃ノ美は親指の爪を噛む。

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