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第二章 記憶③

 世梨花の部屋を訪れた乃ノ美は、溢れんばかりの瑞希からの贈答品を見て、苦笑いをする。

 「凄いわね」

 「困っているんです」

 ベッドに腰掛けた乃ノ美は、フーとわざとらしくため息を吐く。

 「その後の進展は?」

 ドアがノックされ、お茶を運んで来た世梨花の母親が、話に交じろうと親しげに話しかかけてくるが、世梨花の表情を見て、諦めるように部屋を出て行く。

 「まだ何も思い出せないの?」

 世梨花はドアの方に視線を送ったまま、首を竦める。

 「母親とかは、絶対的な存在だと思ったのに、全然思い出せなくって。なんか向こうも気を遣っているみたいで、父に関しては皆無。腫れ物に触らないようにしているみたい」

 「そうなの?」

 重っ苦しい空気が漂い、二人は自ずと無口になる。

 

 ――二人の沈黙をかき消す様に、世梨花の携帯が鳴る。


 「誰から?」

 察しをはついていたが、乃ノ美はそう尋ねながら、世梨花が差し出す携帯画面を覗き込む。

 「妹尾さんか」

 「毎日、何通もくれるけど」

 「思い出せないの?」

 コクンと頷いて見せる世梨花へ、乃ノ美は同情の視線を注ぐ。

 「母からも、話を聞かせてもらったんです。妹尾家にふさわしい女性になる為、早めに会社を退職をしたらしいのですが、どうしても思い出せないんです」

 「そっか。じゃあこれも無理?」

 乃ノ美はバックの中から、同窓会のはがきを世梨花に見せる。

 「同窓会?」

 「うん。昔の友達とかに会えば、何か思い出せるんじゃないかなと思って」

 浮かない表情を見せる世梨花に、乃ノ美は止めを刺す。

 「椎野君も来るらしいよ」

 「椎野君?」

 「そう、あなたの元恋人。もし良かったら、彼から連絡させてもいいかしら? 実は白状するとね、だいぶ前から、よりを戻したいからパイプ役をしてくれって、頼まれていたんだ」

 舌を出して乃ノ美はおどけて見せてから、言い繋ぐ。

 「彼、見かけによらず律儀で、あなたが婚約者が出来たと分かって、一旦は身を引いたんだけど、どうしてもあなたの思いが断ち切れないらしいの。そもそもどうして別れちゃったのか、私としては謎なのよね。彼曰く、自分は相応しい人間じゃないと思ったからと言うんだけどさ、健気と言うか何と言うか、不憫に思えちゃって」

 「彼……、椎野さんは本当に……」

 動揺しきった瞳を向ける世梨花に、乃ノ美は当たり前じゃないと力強く答えた。

 「私、乃ノ美さんとは本当に親友だったんですね」

 アルバムを捲る世梨花の言われ、乃ノ美は、自分の鼓動が伝わらないか、冷や冷やしながら、盗み見る。

 「うんそうだよ。高校入ってすぐに気があっちゃって、私にだけには隠しごと出来ないって教えてくれたんだ。今と同じ。あからさまに出来なかったあなたたちのために、私がいろいろと、間を取り持ってあげたのよ。それも覚えていないの?」

 乃ノ美は、大袈裟に嘆き悲しむ様子を見せる。

 「ごめんなさい」 

 「ううん。私こそごめんなさい。つい言い過ぎちゃって。でもこれだけは信じて。私はどんなことがあっても、世梨花の味方だから。ピカ……、椎野君も本気で心配しているの。半端な気持ちじゃないみたい。本当、世梨花が羨ましいよ。妹尾さんといい、椎野君といい、皆、あなたのことを本気で思っている」

 

 世梨花は複雑な顔を上げ、一人捲し立てる乃ノ美のことをじっと見つめていた。

 

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