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「ナインに……神に見放された……」ぶつぶつとこぼす。「俺には生きている価値なんてない。生きている意味なんてない」


 彼は私の方を向き、殺意がすっかり消えてしまった虚ろな目で剣を首にあてる。


「それだけは……!」


 止めようとするが、身体が上手く動かない。


「団長を止めろ!」


 全力で叫ぶ。団員が走り出す。でも間に合わなかった。


 鮮血が私の顔に飛び散る。言葉が出てこない。目の前でイーニアスが剣を落とし、膝から崩れ落ちる。全てがゆっくりに見えて、時間が止まったようだった。


 団員が叫びながら彼に駆け寄り、もう一人が私の下に来る。

 だが、あまりにも衝撃的な場面に、私はそこで気を失った。大雨の音が雑音のように私の耳にこびり付いていた。






 意識を取り戻したのは、あの日から三日後の事。


 私とイーニアスは治療室に運び込まれたらしいが、残念な事に、その時には既に彼は息をしていなかったそうだ。蘇生措置も行ったが、彼が息を吹き返す事はなかった。


 この事件は内密に処理され、イーニアスは病気により退職したという扱いとなった。皮肉な事に私は団長に昇格。彼の跡を引き継いだ。


 イーニアスの死後、ナインは一度も現れなかった。黒の仔猫を見かけたという情報もなく、事件を知る私達は夢でも見ていたのかと思った。


 だが、死者が出ている辺り、そう簡単に片付けるわけにもいかない。私は上に訴えたが、すっかり気味悪がってしまい、深入りしないよう念入りに命令を受けた。


 命令されては手も足も出ないので、私はなるべく触れないように努めた。他の団員達も、新入りの者には何も言わなかった。イーニアスについて聞かれても、彼は病気という事以外は口にしない。時には強く質問してくる者もいたが、半分脅しのようにして口を閉じるよう言う事もあった。



 事件から一年。


 私は団長の職務をこなせるようになり、いつもと同じく城下町を見回っていた。

 昼間だったので人も多く、その間を縫うように歩いていたところ、ある会話が私の耳に届いた。


「隣のエドワード王子が、精神をおかしくしたらしいのよ」


 慌てて私は、それを口にしていた年配の女性に話しかける。


「それは本当ですか?」


「あら、ユアン団長。いつもご苦労様です。ええ、そうみたいですよ。何やら猫を拾ってから変になったとか……」


 私の背筋に悪寒が走った。






     END

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