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このままでは本当に危険だったので、痛みを我慢し、右足でイーニアスを蹴飛ばした。彼は大きくよろめきながら後退する。
「団長……ナインは神の使いではありません!」
私は左手で剣を拾い、できるだけ早く立ち上がった。
「神が人を殺せなんて仰るでしょうか? あなたは人を殺すのではなく、守る立場の人間なはず。そんなあなたに、神は酷いお告げはしません!」
「ナインは神の使いだ」自分に言い聞かせるように声を張り上げる。「神の言葉は絶対だ!」
その後、私は傷をかばいながら慣れない左手で剣を振ったが、そんな状態で彼に勝てるはずもなく、イーニアスの猛攻に圧倒されて敗北の道を辿る破目になった。
必死に戦ったものの、それは報われない。
押し倒され、イーニアスは私に跨って両手に握った剣を振り上げている。側では、表情を変えないナインが鎮座していた。
ああ、殺される。
死ぬと確信した時だった。ある声がイーニアスの気を引く。
「団長! 何をやってるんですか!」
どうやら、団員が心配になって追いかけて来たようだ。二人の部下の姿にイーニアスは手を止める。
「今すぐ剣を捨ててください!」
予想にもしなかった展開となり、イーニアスは何かをためらっているようだった。
だからと言って、殺意が失せたわけではなさそうだ。剣を握る手に更に力が込められて震えている。
「団長!」
一人が叫んだ時、突然、ナインはどこかへ走り出した。鳴きもせず、一瞬のうちに森の中へ姿を消す。
「ナイン……? ナイン!」
不安そうな声でイーニアスが呼んでも、ナインが戻って来る気配はない。ただひたすら、大きな水の粒が降り注いでいるだけだ。
「そんな……俺は神に見放されたのか……?」
ふらふらと私から離れ、頭を抱えながら独り言を呟く。
「副団長! 大丈夫ですか!」
私は左手を上げた。胸を深く切られていて、正直言うと大丈夫ではなかったのだが、部下には弱い自分をあまり見せたくなかった。
そこでイーニアスが奇声を上げる。