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「団長、一体どうしたんです? 何があったんですか?」
真剣に聞いたが、イーニアスは狂ったかのように笑い始めた。
「ユアン、聞いてくれ。ナインは神の使いだったんだ」
そこで私は何かを察した。
「ナインはお前を殺すよう言っていてな」
彼は剣を抜く。
「死んでくれないか」
刃先を私に向ける。
様子がおかしい事は知っていたが、まさかここまで悪化しているとは考えてもいなかった。
恐らく、ナインが原因だった。あの仔猫と出会ってから、明らかにイーニアスはおかしくなり始めている。神の使いではない。あの猫は、そんな平和的なものではない。
「団長……」私も抜刀した。「あなたに何があったかは知りません。ですが、訓練以外で団員に剣を向ける事は違法です。副団長の権限により、あなたを処罰します」
この状況で冷静に職務を全うしようとする自分自身が怖かった。
仲間がおかしくなっているというのに、声も荒げず、心配もせずに、淡々としている私。まるで本能がもう助からないと悟っているようだった。
私が構えをとった時、ナインが短く鳴いた。殺せ、と言ったように聞こえた。途端にイーニアスの目の色が変わり、凄まじい殺気を放つ。
イーニアスが走り出す。私も剣を握り、ぬかるんだ地面を蹴る。実力はほぼ互角。どちらが負けるか予想はつかない。
剣が交わろうとした直前、突如としてナインが目の前に飛び出して来た。
ナインを切るつもりはなかったので、慌てて振り下ろした剣を止めようとしたが、体勢を崩し、更には雨を吸った地面に足を取られてしまう。
彼がその瞬間を見逃すはずがなかった。
思い切り体当たりされ、私は背中を強く打って倒れる。雨で重たくなった身体では、すぐには立ち上がれず、次の攻撃を防ぐのは無理だった。
氷のような刃が私の右腕に突き刺さる。鋭い痛みと衝撃で剣を手放してしまった。
「次は首だ」
彼はそう言いながら、更に剣をめり込ませてくる。肉が切り裂かれ、雨と共に血液が流れ出していた。とても冷たかった。