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その一件があって以来、イーニアスは完全に腫れ物扱いされていた。
精神も不安定で怒鳴る事も多くなり、時には意味もなく激怒して団員に手を上げる事もあった。
だが、ナインには猫撫で声で話しかけ、意図してナインに近づいたわけでもないのに、それすらも嫌な顔をするようになっていた。
ナインがやって来てから六日目。
当日は朝からどしゃ降りの雨で、ほぼ兵舎で待機するか、城内の警備をするしかなかった。
そんな中、私は兵舎待機をしていて暇を持て余していた。同じような団員と言葉を交わし、早く雨が上がるよう願っていた。
イーニアスが休憩室に戻って来たのは、それから少し経ってからの事。
勢い良くドアを開け、大股で歩いて来る。途端に皆、口を閉じて彼と目を合わせないように顔を下へ向ける。
「ユアン」
名を呼ばれ、また私は何か気に障るような事でもしたのかと考える。喉から心臓が飛び出してきそうだった。
「はい」
「少し散歩に付き合え」
開いた口が塞がらなかった。この大雨の中を散歩? この人は何を言っているのだろう。
困惑して返答に困っていると、彼に強く右腕を掴まれ、裏口から力づくで放り出された。私は尻餅をつき、状況が把握できずにイーニアスを見上げる。
「先に行け」
「いや、でも……」
「早く!」
怒鳴られ、急いで立ち上がった私は、すごすごと歩き始める。
バケツをひっくり返したような雨の中では、イーニアスの足音は聞こえなかった。だが、足を止めて振り返る勇気はない。私はただ、暗い森の方へ足を進める事しかできなかった。
どれくらいの時間が経過したかわからないが、しばらく歩いた後に突然、背中を強く押されてよろめいた。
何事かと振り向くと、そこにはずぶ濡れのイーニアスが無表情で突っ立っていた。足元にはいつもと変わらないナインが立ち止って私を見ている。毛はたっぷり水を含んで重たそうだった。