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「仕方ないな」
イーニアスは仔猫を抱き上げた。
「ユアン、お前も来い」
そう言われ、私とイーニアスは兵舎に向かった。
すれ違う団員達は、彼が仔猫を抱いている事を不思議そうな目で見ていた。無理もない。あの動物嫌いのイーニアスが、嬉しそうな顔で猫を持っているのだから。
兵舎の休憩室。隅に動物用の古いケージを置いて、簡易のトイレと寝床を設置。仔猫を中に入れて鍵をかける。
「やけに詳しいな」
「ええ。小さい頃、猫を飼っていたものですから」
「そうか。なら、猫の世話係を頼むぞ」
「私がですか?」
そう聞いた時には、彼は休憩室を出て行こうとしていた。だが、私が実際に世話する事なんてほとんどなかった。
仔猫が兵舎にやって来てから五日が経った。
イーニアスは仔猫を「ナイン」と名付け溺愛し、訓練の時にも側には猫。仕事の時にも猫がくっついて歩いていた。
動物が嫌いな人間がこうも変わってしまうと、逆に気味が悪いものである。
あまりの溺愛ぶりに、私は何か嫌な予感がしていた。
具体的な理由はないのだが、何となく胸騒ぎがするというか……他の団員にその事を打ち明けると、数人ほど私と同意見の者がいた。
ある昼間の休憩中。丁度、休憩室にイーニアスがいたので、気になっていた事を話そうと近寄った私。
「団長、一つよろしいですか?」
話しかけた時、彼はナインと猫じゃらしで遊んでいて、返事はしたもののこちらには顔すら向けてくれない。
「休憩中などは構いませんが、さすがに仕事の時まで猫を連れ出すのはどうかと思いまして……」
「だからどうしたっていうんだ?」
大声を出して私を睨むイーニアス。こんな返事をされるとは予想もしていなかったので、私はつい怯んでしまった。居合わせた団員達も驚いてこちらに注目している。
「い、いや……ですから、立場上、そういった事は控えて――」
「黙れ!」
身体が震えた。イーニアスは立ち上がって私を威圧する。
「二度と口を出すな」
「はい……申し訳ありません……」
強い権力を持たない私は、黙って従う他なかった。