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今思えば、ナインは本当に悪魔だったのかもしれない。
ナインと出会ったのは、十一月の上旬。私は、とある小国の騎士団・副団長として、国を守るという任務を日々こなしていた。
警備は交代制で、その日の私は夜勤明け。仮眠を取り、城の敷地内にある演習場で鍛練に向かった。
演習場にいたのは私を含めて六人。その中には、我らが指揮官であるイーニアス団長の姿もあった。真っ直ぐ見つめ、黙々と剣を振り続ける。彼の体幹は全くぶれず、体勢は本当に美しかった。
「ユアンじゃないか」
イーニアスは私の存在に気付き、手を止めた。
「精が出ますね」
「その顔は夜勤明けだな?」
「ええ。酔っ払いが店で暴れていると通報を受けて戦って来ましたよ」
私の話を聞いたイーニアスは、大声を上げて笑った。
「そうか、そうか。それはご苦労だったな。お前が酔っ払いと戦う姿をこの目で見たかったよ」
「面白いものではありませんよ。取り締まっただけですし」
「そう硬くなるな。お前には――」
彼が言いかけた時、猫の幼い鳴き声が上がった。二人で声が聞こえた方へ顔を向けると、真っ黒で黄色の目をした仔猫がそこに立っていた。また一度鳴き、イーニアスに歩み寄って顔を足に擦り付ける。
「親とはぐれたのか?」
イーニアスは仔猫を両手で持ち上げる。片手で持てるほど身体は小さい。
「でも、この辺りで猫は見かけませんよね。どこから来たのでしょう……」
「困ったな。こんなに小さいと放って置くわけにもいかない」
お互い深く考え込む。
イーニアスは気付いてないだろうが、この子猫には不審な点が多い。雌猫が子を産むのは大体、春頃である。現在は冬に入る直前だし、春に産まれた仔猫は、もっと大きくなっているはずだ。
目の色も、この体格ならもっと濁っているのに黄色がはっきり出ている。だから、このサイズの猫は不自然だった。
「野良にしては毛並みが綺麗ですね。飼い猫でしょうか?」
「わからんが、とりあえず保護して貼り紙を作ろう」
「了解です」
彼から仔猫を渡される。そのまま兵舎に連れて行こうとすると、仔猫は私の右頬を強く噛んだ。
つい手放してしまうと仔猫は軽やかに着地し、駆け足でイーニアスの下へ向かう。どうやら仔猫は彼を気に入ったようだ。