捨てる神あれば拾う神あり?
更新リクエストが一番多かったので、これでプロローグが終わりです
目の前に黄金の海原が広がっていた。
どこまでも続く広い大地、そしてそこに植えられた小麦が風に揺れている。
(ああ、ここは爺ちゃんの小麦畑だ…懐かしいな)
前世の故郷は北海道、俺は札幌生まれだけど、父方の祖父が美瑛町で小麦を作っていた。
そういや、爺ちゃんの家で食べたパンがうまくてパン職人を目指したんだよな。
(あの頃は爺ちゃんの小麦で世界一うまいパンを作って消費を拡大してみせるって息巻いていたんだよな)
結局、世界一うまいパンどころかオリジナルのパンさえ作れずに前世を終えてしまったけど。
小麦畑が消えたと思ったら一人の少女が俺を心配そうな顔で見ていた。
(香子?…生まれ変わってまで夢をみるとはね)
佐藤香子、前世の幼馴染みで最初の彼女。
特別可愛い訳じゃないけど、ホンワカとした性格で何時も笑っている奴だった。
可愛いパグ犬って言って怒られた事さえ懐かしい。
餓鬼の頃は何時も一緒に遊んでいて、俺は自然に香子の事を好きになっていた。
(公園のベンチに二人で相合い傘を書いたりしたな)
あの頃は香子とずっと一緒にいれるって思っていたっけ。
(一流のパン職人になったら内地から帰ってくる。そしたら結婚しようって約束したんだけど…間に合わなかったんだよな)
流石に何年も待ってくれる訳もなく、香子は二十七才で他の男と結婚した。
(香子、二十七まで待ってくれたんだよな…俺が刺された話を聞いて泣いてくれたかな?…)
妙に懐かしく甘酸っぱい気持ちになる。
しかし、それは直ぐに終わった。
「ぐぅおっほ!!」
突如、腹に痛みが走り俺の懐かしい夢は消え去る。
驚いて目を開けると、そこには今の幼馴染みが仁王立ちで立っていた。
「人が心配して電話をしても出ないし、来てみれば爆睡してるし…かこって誰よ!?」
どうやら、俺を起こしたのは琴美お嬢様の怒りの鉄拳制裁らしい。
「逆にかこって誰だよ…学校の夢でうなされていたのは覚えてるけど」
かこ…学校、咄嗟だったけれども我ながらうまく誤魔化せたと思う。
部屋に無断で入ってきて腹パンをした暴挙を突っ込みたいが、今の琴美に逆らうのは危険だ。
何より琴美は泣いていたらしく目が腫れている。
「ふーん、まぁ良いわ。お父様が呼んでいるから迎えに来たのよ。さっさっと着替えなさい」
「お父様って志知勇会長が?」
姫星志知勇、姫星財閥の会長で琴美と琴理ちゃんの父親。
四十三才なのに三十才の時の俺より若く見えるイケメンさん。
滅茶苦茶忙しい人だから娘の琴美でさえ、滅多に会えないらしい。
(あれか?退学になる様な馬鹿は娘に近づくなとか言われんのか)
「そう、だから早く着替えて…服はそこに出して置いたから。着替えたら下に降りて来てね」
(これで着て行く服がないって言い訳は出来なくなったな)
財閥の会長様なんて緊張するだけだから会いたくはないんだけど。
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落ち着かない、もの凄く落ち着かない。
今、お迎えの車に乗っているんだけど車内が広い上にシートは革。
快適なんだけれども庶民な俺は緊張してしまう。
(しっかし、相変わらず展庭の皆様はお顔が整っていらっしゃるね)
すれ違うのがイケメン、美少女、ダンディな紳士、セクシーな美女とみんな平均を遥かに越えている人しかいない。
「茂さん、これからどうされるのですか?」
運転手さんがいる所為か、琴美はお嬢様モードになっている。
「働くかしかないだろ?県外でも良いから働けるパン屋を探すよ」
これ以上周りに心配は掛けれないし。
「働く以外の選択肢がありましたらお考えになられますか?」
「そりゃな。大学を出でも就職が難しい時代だから、何より朋子が落ち込んでいるし」
朋子は色々とショックだったらしく、まだ部屋で塞ぎ込んでいる。
「琴理もずっと泣いてます。みんな心配なんです…当の本人は呑気に爆睡してたけどね」
琴美お嬢様が俺にだけ聞こえる小声で嫌味を言ってくる。
そんな中、車は石造りの門を通り抜け、私有地の林を走っていた。
姫星家の敷地は広大で、車を使っても門からお屋敷まで三分は掛かる。
「しっかし、いつ来ても広いお屋敷だよな」
「あら?茂さんは我が家にあまり来られないじゃないですか」
いや、どう考えても気軽に来て良い所じゃないし。
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姫星のお屋敷は観光名所に出来そうなくらいに広い。
観光バスが十台は停めれる庭に百人は入れそうな建物。
玄関だけで前世のアパートが収まりそうだ。
「茂君、良く来てくれたね。さぁ、上がりなさい」
俺を出迎えてくれたのは端整な顔立ちの青年…いや、青年に見える中年。
姫星志知勇さんだ。
イケメンの上に外国の有名大学を首席で卒業した頭脳の持ち主。
見た目は春風の様に爽やさがあるが、中々のやり手らしい。
(財閥の会長自らお出迎えだと…あぁ、そう言う事か。会長自ら出迎えしなきゃいけない事が発覚したんだな)
「会長自らのお出迎え…噂は本当だったって事ですか?」
「君も知っていたのかい?」
「知りたくなくても大声で自慢されていましたから。ケンカと一緒で虚勢を張る為の嘘だと思っていたんですけどね」
琴美は何の事か分からずにキョトンとしている。
普段なら俺を問い詰めるんだろうけど、志知勇さんがいるから控えているんだろう。
噂、それは雲知の悪行。
昨日の女も強引にやってやったとか騒いでいた。
世間にバレたら姫星財閥も無傷では済まないだろう。
「そこまで分かっているなら話は早い。茂君、星空に通う気はないか?」
「残念ながら金がありませんよ。何より星空で退学者を受け付ける訳がないじゃないですか」
「昨日、琴美や朋子ちゃんと一緒にいたのは星空学園の理事長のお孫さんなんだよ。お金は姫星で出すから心配はいらないさ」
俺が星空に通う金よりも、馬鹿の悪行が世間にバレた時の損失額の方が何倍も大きい。
「少し、考えさせてもらえますか?あそこに庶民が行くと大変そうなので」
「頼むよ。昨日、七竹さんからも電話が来てね”息子が入院患者を殴りに行きかねないから早く話をまとめて下さい”って言われたよ」
この辺で一番大きな病院は有詩の家でやっている七竹総合病院だ。
雲知の性格だから治療を受けながら喋りまくっただろうし、親も歪曲させまくって話たと思う。
当然、有詩の親父さんは有詩に確認をする。
有詩は琴美に確認をして真相が分かって有詩がキレたと。
(琴美の前じゃヘタレな癖に、こんな所で男気をみせんじゃねえよ)
ただ、言えるのはイケメンだろうが金持ちのお坊っちゃまだろうが、有詩は俺の大切な親友だ。
「分かりました。お世話になります」
一瞬、琴美の顔が輝いたのは気のせいだろうか?
「そうか、後は私に任せてくれるかい?」
任せるも何も下手に首を突っ込んだら大火傷をおいかねない。
「ええ、琴理さんにも宜しくお伝え下さい」
「分かったよ。星空には七月七日から通えると思う」
七夕に来る転校生か。
感想お待ちしています
次回、七夕に三人の転校生?
どんな世代や人に受けているから分からない恋愛小説になってきました