秋の終わり、そして終わりの冬へ
覚悟は決まった。俺は大切な人達を救う為なら、この命を投げ出しても構わない…具体的に何をすれば良いのか分からないけど。
ただ、一つだけ分かっている事がある。
「あの神様、公時行きのバスってまだありましたっけ?」
そう帰りの足がないのだ。自転車は学校の駐輪場だし、序でに俺は内履きである。
「そんな堅苦しい呼び方は止めて下さい。私は小粋でお茶目な占い師ロッキさんですよ。気軽にロッキさんとかチャーリーロキロキって呼んで下さい」
算盤を持つ人と可愛いを売りにしてる人の、どっちに重点を置くんだろうか。
「いや、神様には敬意を払わないといけません。増してや、俺は願いを叶えて頂く立場なんですし」
確か神様のお名前を人が口にするは無礼に当たる筈。神様自身が許可したからと言って、気軽に名前なんて呼んで良い訳ない。
「私は呼び捨にてされた位で、ヘソを曲げる様な器の小さな神じゃないですよ。蒲田茂さん…堅いかからカマちゃんて、呼ばせてもらいますね。世界は、どうやって出来上がったか分かりますか?」
性のマイノリティーを差別するつもりはないが、その呼び方は勘弁して欲しい。
「…普通に茂とかで、お願いします。確か小惑星や彗星とかがぶつかって一つになったのが始まりだと聞いてまいすが。でも、神様がいらっしゃると言う事は、神様がお作りになられたのですか?」
「どっちも正解ですよ。切っ掛けは、私達神が作るんです。まず、生物が育ちやすい様に惑星の距離を調整します。そして予定した空間に小惑星や彗星を引き寄せるんですよ。生き物が住める環境になったら原始的な生命体を送り込んで、タイミングを見計らって進化の切っ掛けを与える。一気に作り上げる事も出来ますが、どうしても不具合が生じますからね。地道な積み重ねが大切なんですよ。今は新神様のスターターキットもありますけど、手作りの世界の方が愛着や味がありますからね」
スターターキットって、パソコンやネトゲじゃないいんだから。
「でも、この世界の星空は地球と一緒ですよ」
全く同じ配列の天体なんてあるんだろうか。
「良い所に気が付きましたね。それではロキさんの気になるニュースを開講します。簡単に言えば、この世界は手抜きして作られた世界なんですよ。だから多くの矛盾を持っている。ゲームを参考にするのは、良いアイディアだったんですけどね。丸パクリはいけません」
やっぱり、この世界はゲームと関係があったんだ…やっぱり、琴美や有詩はゲームのキャラクターなんだろうか。
「琴美達も、造られた存在なんですか?」
「その辺はまた今度お教えます。でも、これは忘れないで下さい。彼女達は生きて自分の意思で動いています…ロキマクパソコン、ロキマクパソコン。順番をとばされたウィ○ドウズ9の立場にもなーれ…転移っ」
気が付くと俺は廊下にいた。教室から廊下に行くまでの、僅か数秒間に路亀神社に行ったんだろうか。
(今のは夢?にしては、リアルだったよな…痛っ、玉砂利だ。まじかよ…)
足に痛みを感じたので見てみると、靴の底にに玉砂利が挟まっていた。
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茂が隣にいてくれて凄く嬉しいのに、少し寂しい。二人の距離は凄く近いのに、心の距離は友達のまま。
茂は一番親しい他人だけど、まだ恋人にはなれていない。好きって一言伝えれら良いだけなのに、臆病な私は冗談で誤魔化してしまう。
路亀神社の秋祭りの帰り道、私は茂と二人で夜道を歩いている。お祭りでは有詩と雪香ちゃんは恋人らしくて手を繋いでいたし、蘭も佐藤君に甘えまくっていた。
「秋も、もう終わりだな。琴美の家で、今年もパーティやるのか」
家では毎年クリスマスイブに盛大なパーティを開いてる。華やかなパーティだけど、私はお嬢様の仮面を被って愛想笑いでやり過ごす。肝心の茂は、派手なパーティは苦手だって言って一回も来てくれない。
「あれも付き合いだからね。茂も今年は顔を出してよ。あんたが居れば虫除けになるし」
馬鹿だ、クリスマスだから近くにいて欲しいって言えば良いのに。茂に断られるのが怖くてふざけてしまう。
「俺スーツもタキシードも持ってないぞ。スーツの赤山でも怒られないんなら参加するよ」
一瞬、自分の耳を疑ってしまった。今まで、どんなに粘っても参加してくれなかったのに。
「大丈夫だと思うけど、心配なら買ってあげようか?」
私なら茂の魅力を存分に引き出す事が出来る。何より、姫星の店で買えば自分好みに茂を仕上げる事が出来るのだ。
「遊びに行くんだから自分のバイト代から出すよ。でも、似合わなういから笑うなよ」
茂の性格からして、おじさんやおばさん…お義父さんやお義母さんに余計な負担を掛けたくなかったんだと思う。しかし、茂改造計画を簡単に諦める気はない。
「それなら姫星デパートで買いえば良いでしょ?パーティには空先輩のご両親も来るのよ。朋子ちゃんに恥を掻かせたら不味いでしょ」
茂のファッションセンスはシンプルイズベスト、値段オッケーサイズオッケー色オッケーで10分も掛けずに決めてしまう。
「…だよな。でも、姫星で売ってるスーツは高いんだろ?それに俺はスーツの良し悪しなんて分からないぞ」
「茂にファッションセンスがないのなんて知ってるわよ。私が注文しとくから安心しなさい。お代は分割でも良いし。朋子ちゃんが、爽青家に嫁いだら良いスーツは必需品よ」
茂の教育の賜物か朋子ちゃんは爽青家の人達に可愛がれているそうだ。それに朋子ちゃんは琴理や礼緒ちゃんとも仲が良いし、家の両親や有詩の家族から可愛がれている。
事実、家のお父様や有詩のお父さんは爽青大臣に“くれぐれも朋子ちゃんの事を頼みます”と電話をしたらしい。
「俺の貯金から、払うから加減してくれよ」
「しょうがない。社割りを使ったげる」
姫星本家の力で大幅に割り引かせてみせる。
「助かるよ。しかし、涼しくなったよな。虫の声も聞き納めか…秋の虫の音は一人で聞くと物哀しいけど、二人で聞くと風流だよな」
うん、親父臭い。まあ、茂の中身はおじさんなんだけど。
「なに、人恋しいの?手繋いであげようか」
「前世で晩秋になっても、一匹で鳴いてる虫を自分と重ね合わせていた時期があったんだよ。周りにパートナー候補がいなくなっても、必死に鳴いてる声が独身中年の心に響いたんだろうな」
残念ながら茂君、君はもう私の虫籠の中なのだよ。一匹になれると思ったら大間違いなんだから。
「親父、臭っ。でも、今日は楽しかったね。それに神主さんの祝詞凄く神々しかったし」
「ちょっとな、琴美色々ありがとな。今日と過ごせて嬉かしかったよ」
茂はそう言うと何故か寂しげに笑った。その顔は、どこか一匹で鳴いてる虫を思わせて私は思わず茂の手をギュッと握りしめた。大好きな茂がどこにも行ってしまわない様に。
予定では後二、三話で終わりです
 




