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体育祭後編~誓いの二人三脚

 皆の協力で無事(おもらしなし)サスケもどきはクリア出来たけど、重大な問題が発生した。これはマジでヤバい、正直姉さんピンチです…琴美達にこのネタ通じないよな。


「蒲田、早く降りろ。後ろがつかえてんだぞ」

 夜鬼先輩の容赦ないプレッシャーが俺を追い詰める。でも、そんな事は百どころか千も万もがってん承知の助だ…どうやら、恐怖の余り、俺の親父スイッチが入った模様。


(早く行かなきゃ。でも、この階段は…無理だ、怖すぎる)

 サスケもどきに付いていた階段は急な上に手摺が腰位までの高さしかなかった。なんとか降り様と試みるも、足が震えて動かない。恐々と下の段に足を着けてみる…爪先が触れた途端、バランスが崩れてしまう恐怖に襲われて直ぐに足を戻してしまう。都合四度はこれを繰り返している。


「シゲ、どうした?…はっはーん、お前怖くて動けなくなった。夜鬼さん、シゲの背中を突つけば面白いリアクションをしますよ」

 ドS王子(ゆうじ)がニヤニヤしながら、とんでもない事を言いやがった。いや、夜鬼さんは常識人、真に受ける訳がないと…信じたい。


「有詩っ!!夜鬼先輩、今のは冗談ですから信じちゃ駄目っすよ」


「夜鬼さん、押すな押すなのお約束ですよ」

 俺はダチョウさんかっ!!さっき助けてもらった手前、あまり強気には出れない…何より俺にはこの後、有詩に頼まなきゃいけない事がある。


「まあ、押すのはヤバいけど突つく位なら蒲田も平気だろ」

 …なんか嫌な言葉が聞こえてきた。そして背中に伝わってくる微かな衝撃。


「ギャッー!!落ちるー、マジで落ちるー」

 俺は恥も外聞も忘れ、手摺にしがみ付いた。頬を涙が伝っていく。


「か、蒲田大丈夫か?」

 夜鬼先輩、大丈夫じゃないっす。


「夜鬼さん、シゲは餓鬼の頃から高い所が大っ嫌いなんですよ。しっかし、相変わらず良いリアクションだな…シゲ、ゆっくり降りてこい」

 有詩は俺にぶつからない様に体をそらしながら脇を通り抜けて行く。ヤバい、このままじゃ有詩が行ってしまう。


「有詩、いや有詩さん。頼むから手を繋いでくれ…マジで頼みます」

 こんな急な階段を一人で降りろなんて無茶振りである。最悪、階段に腰掛けながら一段ずつ降りていくか。


「いつもの落ち着いている蒲田とは別人だな。俺も先に降りてるから覚悟が出来たら降りてこいよ」

 夜鬼さんは爽やかに微笑んだと思うとスタスタと階段を降りていった。 


「シゲ、飯になるから下で待ってるかぞ。しっかし、中身はオッサンなのにガキみたいだな」


「オッサンでも怖い物は怖いんだよ…あれ?有ちゃん、行っちゃうの?おじさん、マジ泣きしちゃうよ。有ちゃーん、カンバックー!!」

  いや、もう目が潤んでるですけど。手を伸ばして有詩を引き留めたいが、怖くて柵から手を離せない。


「流石に学園中の視線が集まってんのに、野郎と手を繋ぐのはパスだよ。シゲ、朋子ちゃんも見てるぞ」

 有詩も肩越しに手を振ると、スタスタと階段を降りていった。そして残されたのは俺一人。 


(下を見るな、見たらアウトだ…でも、足元を確認しなきゃ降りれないし)

 学園のみんなの視線が痛い。でも、足がピクリとも動かないんだって。


「高い所に来るとヘタレになるわね。さっ、手を貸して上げるから、一緒に降りるわよ」

 上でビビりまくっている俺を見兼ねたかの琴美が迎えに来てくれた…琴美さん、まじ女神っす。


「琴美、すまん。マジに助かるよ」


「はいはい、早く降りるわよ…早くね」

 そう言うと琴美はニヤリと笑った。嫌な汗が背中を伝っていく。


「あの琴美さん、出来たらゆっくり降りたいと思うんですけど」


「私はお腹が空いたの。さっ、行くわよ」

 琴美はそう言うと、俺の手をしっかりと握り締めてくれた…そして軽やかに階段を駆け降りて行く。


「琴美待て、話せば分かる…マジで駄目だって!!」

 もつれそうになる足を必死に動かす。でも、琴美の手を離す勇気はない。


「怖いんなら早く済ました方が良いでしょ。あんたが居ないとお弁当が食べれないんだから…さっ、着いたわよ」

 琴美は地面に着くと同時にパッと手を離した。


「着いた?…やったー!!地面だ、やはり人間は地に足を着けて生きるべきなんだ。琴美、ありがとうな」


「別に良いわよ。それより午後の二人三脚を頑張ろっ」

 北海道から帰って来てから、ますます琴美に頭が上がらなくなった気がする。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 それは壮観な風景だった。学園中の将軍と姫が殆んど勢揃いしている。(レビィ姫薬鳴コンビは諸事情により棄権)


「さあ、茂優勝するわよ。私に着いて来なさい」

 気合い全開の琴美が微笑み掛けてくる。二人を結ぶ紐が妙に照れ臭い。


「ああ、俺は汚名返上しないとな」

 俺のイメージが、無愛想で怖い外様から、ヘタレで泣き虫外様にダウンしたらしい。

 

「だよねー。中等部の子達からも笑われてたし」


「特に薬鳴ファンからは罵倒されたよな」

 逆に有詩ファンや夜鬼先輩ファンは、フォローしてくれたとの事。

 

「でも朋子ちゃんが本気で怒ってくれたから良いでしょ」

 朋子は¨僕の兄貴の事を何にも知らない癖に止めてっ¨って言ってくれたらしい。


「ああ、琴理ちゃんも怒ってくれたしな」

 琴理ちゃんだけじゃなく礼緒ちゃんも怒ってくれたとの事。将軍と姫の殆んどが俺の味方?と知り、嘲笑は沈静化したとの事


「二人共、茂の事をきちんと見てるのよ…私が一番見てるんだけどね」

 琴美がゴニョゴニョと何かを呟く。


「ありがたい話だよ。それじゃサクッと優勝して恩返ししますか」

 菊谷さんの話では、二人三脚には相性や仲の良さが影響するとの事。それで行くとライバルは有詩と白鳥さんコンビ…空さんと黒岩さんコンビが優勝したらどうしよう。

 結果的には俺と琴美がぶっちぎりで優勝した。琴美いわく俺の狂いまくりのリズムに合わせてくれたとの事。

 何より驚いたのは、琴美と触れ合っていた時にドキドキより、妙な安心感を感じた事だ。

 高嶺の花を掴みに行く努力を始めてみよう。

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