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幕間来部さんとアントハンター琴美

 久しぶりのオフだけど、今日は何時もよりかなり早起きをした。メイクもお洒落もバッチリ決まっている。


(うー、ライブ前より緊張してきた…やっぱり、孝ちゃんの事を意識し過ぎなのかな)

 今日は琴美の家で二人三脚の練習をする。練習に参加するのは、僕と孝ちゃん、それに琴美と蒲田君の四人。琴美の家はセキュリティーが万全だから、マスコミを気にしなくても大丈夫。


(孝ちゃんと人目を気にせずにお話を出来るのは遊園地以来なんだよね…うぅー、緊張してきたー)

 僕が孝ちゃんの事が好きだって、気付いたのはつい最近。多分、ずっと意識しない様にしてたんだと思う。

 でも、琴美の近くには蒲田君がいて、蒲田君の近くには孝ちゃんがいた。

 当然、顔を会わせる機会やお話をする機会も増えたんだよね。何より夏祭りや遊園地で、孝ちゃんが隣にいてくれて分かったんだ。

 僕は、子供の頃からずっと孝ちゃんを好きだったんだって…でも、僕は恋愛禁止のアイドル。恋人を作る訳にはいかない。

 そして琴美(しんゆう)に相談したら、こう言われた。


「ファンに遠慮して、幸せを逃してどうすんのよ。あんたはアイドルの来部蘭である前に、一人の女なのよ。バレてアイドルを引退したら姫星財閥(うち)で雇ってあげるから、心配しなさんな」

 そう言われても、琴美みたいに押せ押せにはなれない。最近、琴美は暴走しまくっていて、蒲田君を引き摺り回している感じだ。

 チャイムが鳴ったので、玄関に降りていくとスーツを着た男性が立っていた。


「来部様、お迎えにあがりました。お連れ様もお待ちですよ」

 ふと見ると、孝ちゃんが真っ赤なリムジンの中でガチガチに緊張している。広い座席の上で、小さく縮こまっている彼が困ちゃう位に愛おしい。


「孝ちゃん、おはよ。今日は頑張ろっ」

 孝ちゃんの顔を見ただけなのに、自然に笑顔が溢れてしまう。


「ら、蘭ちゃんおはよ。なんか凄い車で落ち着かないよ」

 

「あれ?蒲田君は?」

 てっきり、蒲田君も一緒に乗ってくるって思ってたんだけど。


「蒲田君は自転車で行くんだって。高い車は落ち着かないって言ってたけど、今

なら蒲田君の気持ちが分かるよ」

 

「蒲田君らしいね。姫や将軍とあんなに仲が良いのに、利用する気ゼロだもんね」

 そんな蒲田君だから、みんなも安心して話せると思う。


「うん、本当に不思議な人だよ。僕も蒲田君と知り合わなきゃ、蘭ちゃんとこんな風に話せなかったと思うよ。なんか、蒲田君と話をしてると、ウジウジしている自分が馬鹿らしくなるんだ」

 でも、変わったのは孝ちゃんだけじゃないと思う。僕も変わったと思うし、伊庭先輩は硬さが取れて優しい顔をする様になったし、早乙女君らはオドオドした態度が消えて男らしい顔になった。

 それだけじゃない、海会長、空副会長、山本君、夜鬼先輩…みんな変わっていってる。

 でも、一番変わったのは琴美と七竹君だと思う。

 蒲田君と知り合う前の琴美は自分の意思を見せないお人形さんだったし、七竹君は他人を見下す高慢な性格だった。僕達は親に決められた役割を果たす様に育てられてきた。

 だけど、今は決められた役割(プログラム)を乗り越えて、自分達の意思で動いている。 

 

「ここが姫星さんの家?凄いね」

 流石は天下の姫星財閥。家の庭で二人三脚の練習が出来るんだから。

 孝ちゃんとの二人三脚の練習は凄く楽しかった。楽しくて嬉しくて涙がじんわりと浮かんでしまう。孝ちゃんが隣にいるだけなのに身体中で幸せを感じれる。

 …なんで、あの頃は薬鳴に、ときめいていたんだろう。


______________


 視覚はたまに残酷だ。どうしようもない現実をむざむざと見せつけてくれる。それは二人三脚の練習の合間の事。琴美が誇らしげな顔をしながら語りだした。


「二人三脚は私と茂さんの優勝で決まりですわね。幼馴染みだから息がぴったりですし…」


「そんなのは分からないじゃん。僕と孝ちゃんの息も合ってきてるんだよ」

 来部さんが不満気感じで抗議をする。当の佐藤は来部さんと体が密着する度に顔を真っ赤にしていた。


「でも、私達は息だけでなく歩幅も同じなんですわよ。背の高さは違うのに不思議ですわよね?ねぇ、茂さん」

 琴美と俺の身長は頭一つ位違う。違うのに、足の長さは殆んど変わらない。


「俺は日本人体型で足が短いの!!琴美、お前分かっていて言ってるだろ」


「あら?私も日本人よ。同じ日本人なのに、こんなにも足の長さが違うなんて不思議ねー。やーい、やーい、短足ー」

 琴美はわざとらしく口に手を当てるとオホホと笑ってみせた。佐藤は、そんな琴美を驚いた顔で見ている。


「なんか、学校にいる姫星さんと別人みたいだね」

 そりゃそうだ。琴美は普段化けの皮ならぬお嬢様の皮を被ってるんだし。


「あれが本当の琴美なの。正確には蒲田君といちゃついてる時の琴美ね」

 来部さんに言いたい、あれは俺を弄って楽しんでるだけなんだと。


「くっ、かこが相手ならチビ助扱い出来たのに」

 モデル体型の琴美に何かを言っても、倍にして返されるのがオチだ。小声で呟いたつもりだったんだが、琴美はしっかりと聞いていたらしい。


「あれ?茂、足に虫がいるわよ。蟻がね…」

 どう見ても俺の足には蟻なんていない。すると、琴美は俺の脛毛を丸めだした…


「おい、それやると抜かなきゃいけなくなるんだぞ…待て、ちょっと待て」

 琴美の手がワキワキと不振な動きを見せている。逃げようにも、琴美の足と紐で繋がっているから逃げれない。


「蟻さん、今逃がしてあげますからねっ!!」

 琴美は丸まった俺の脛毛を一気に引き抜いた。


「痛ってー!!琴美、何すんだよ!?」


「私は蟻を逃がしてるだけよ。カコを引き摺りまくってる誰かさんの足にいる蟻をね」

 教訓、琴美の前でかこの話は厳禁。

 

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