幕間菊谷さんと琴美
私の前世の名前は馬次芽子。小学生の時につけられたアダ名は真面目っ子。
名前の読み方を変えただけじゃなく、本当に前世の私は真面目だった。
前世の親は二人とも教師で、私の教育にも力を入れた。
お洒落より勉強、遊びより勉強、恋より勉強…私は両親の期待に応えようと、必死に頑張った。
中学受験を勝ち抜き難関高校にも入れた…でも、私に残ったのは机の上の知識と分厚い眼鏡だけ。
本当は友達とも遊びたかったし、恋もしたかった。
でも教科書には友達の作り方は書いていないし、辞典は恋の仕方を教えてくれない。
高校に入っても相変わらず勉強の毎日。私のそれまでの記憶には色が着いていないモノトーンの世界だった。
そう、彼と出会うまでは。
あの日、参考書を買いに入った本屋さんで私の人生は変わった。
あどけない顔の少年が真剣な眼差しで私を見ていた…胸が高鳴り顔が熱くなっていくのが分かる。
それが星空の恋人達と言うゲームだと分かると、何冊かの雑誌を購入して彼に着いて調べた。
彼の名前は早乙女翔太、早乙女ホビーの一人息子で身長は150センチ、悩みは童顔で中学生と間違えられる事。
私は調べ終えると、直ぐ様にゲームを購入。
そして私は星恋にはまりまくった。
でも、いくら恋い焦がれても翔太きゅんは画面の中。
そんな時、私の携帯に一通のメールが
届いた。
送り主不明のメールにはこう書かれていた”星空の恋人達の世界へ貴女を招待致します”と。
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そして気が付けば私は星空の恋人達の女主人公になっていた。
男女問わず殆んどのキャラを攻略していたけど、私の本命は翔太きゅん。
だから幼年期は七竹有詩を避けまくった。
これで七竹フラグが建つ事はない。
残る障害はただ一つ女主人公の最大の恋敵姫星琴美。
姫星琴美、星空の恋人達のメインヒロイン。
絵に書いた様な大和撫子で、一途で惚れた男に尽くし浮気やハーレムにも寛容。
私の姫星琴美に対する印象は、男の都合だけで作られた綺麗なお人形さん。
お人形だから自分の意思をみせない。
親に逆らわず男主人公に逆らわず。
男主人公とデートを約束している日でも、親が進めてきた縁談を断れずに泣いて救いを待つだけ。
ちなみに女主人公の時は、そ知らぬ顔で男性キャラを落としていく。
だから星恋のキャラは殆んど好きだけど、姫星琴美だけは好きになれなかった。
でも、この世界の姫星琴美は違った。
見た目はゲームと同じ黒髪の美少女で、一途な所も変わらない。
「お見合い?お父様に興味ないから、全てお断りしますって言ってあるわよ。お見合いをする暇があったら琴の練習をしてる方が何倍もましよ」
ちなみに今は琴美ちゃん達とガールズトークの真っ最中。
女だけの会話が、こんなに楽しいと分かったのも転生してからだ。
「ちなみに蒲田君との約束がある日にお見合いを進められたらどうする?」
この世界の姫星琴美は、何故か見た目も才能もモブな男に惚れている。
男の名前は蒲田茂、しかも私と同じ転生者で姫星琴美を変えた張本人。
「そんなの断るに決まってるでしょ。でも、そんな事になったら茂の家に押し掛け女房をするかもね」
「今更?週ニで蒲田君の家でご飯を食べてる癖に?」
蘭が呆れたらしく溜め息を漏らす。
ゲームでは姫星琴美と来部蘭は仲が悪く、同時攻略はかなり難しい。
でも、この世界で二人は親友。
「癖に?週ニ回しか茂のご飯を食べれないのよ。むしろ少な過ぎて不服なんだから」
「そう言えば、琴美ちゃんって何で蒲田君を好きになったの?」
確かに蒲田君は良い人だ、中身がおじさんだけあって考え方もしっかりしている。
でも、完璧お嬢様姫星琴美がここまでベタ惚れになるのは不思議で仕方がない。
「晴夏ちゃん、聞きたい?聞きたい?むしろ聞いて!!」
「晴夏、覚悟しなさい。この話は長いから…僕はライブの練習があるので、先におさらばじゃ!!」
蘭は脱兎の如く逃げて行った。
そしてワクテカ状態の琴美ちゃん…どうやら、私は地雷を踏んだらしい。
「家って礼儀作法に厳しいのよ。お父様やお母様はそうでもないけど、分家のおじさんやおばさんが、姫星の娘はお淑やかにしてろってうるさいのよ。私に求められたのは姫星琴美じゃなく、姫星家のお嬢様に成りきる事」
「酷い話だね。それじゃ、まるでお人形さんじゃない」
だから、ゲームの姫星琴美は自分の意見を持たないお人形さんになったんだ。
「あの頃は姫星お嬢様のお面を被っているうちに、本当の自分が分からなくなっていたんだよね。でも、それは私だけじゃなく妹の琴理も一緒。むしろ琴理の方が大人しかったわ…でも、ある日琴理がバスケをしたいってお父様に泣きながら訴ったえたの」
琴美のお父さんと母さんは了承してくれたそうだ。
むしろ、初めて自分の意思をちゃんと出した事を喜んだらしい。
「バスケって事は、もしかして蒲田君の妹さん絡み?」
蒲田君の妹さん、朋子ちゃんは蒲田君と全く似ていない。
それでも兄妹仲は良く、蒲田君のシスコン振りは星空でも有名になっている。
「そ、たまたま朋子ちゃん達がバスケをしている所を通り掛かって誘われたんだって。ちなみに琴理を焚き付けたのは茂よ」
「へー、それが切っ掛けで蒲田君と知り合ったんだ」
蘭が逃げた理由が分かる、琴美ちゃんは何かを言いたいらしくうずうずしている。
「それがって言うか、そのうち琴理が茂の家でご飯をご馳走になる様になったの。琴理はそれまで食が細くて好き嫌いも多かったんだけど、食欲も増えて好き嫌いも減ったの」
琴美のご両親は、最初蒲田君の家でご飯を食べる事を快く思ってなかったそうだ。
でも好き嫌いはなくなるし、食欲も増えるわでむしろお願いをする様になったとの事。
ちなみにだ琴美ちゃんと蒲田君は出会っていない。
「へー、それで琴美ちゃんも、蒲田君の家でご飯を食べる様になったんだ」
「うん、でも私が得たのは美味しい食事だけじゃないの。私は茂と出会えて本当の自分を手に入れたの」
そう言うと琴美はお茶をグビリと飲んで、喉を湿らせた…これはマジで長くなるな。
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そして次回である意味本作の一番の謎、琴美が茂に惚れた理由がでます
はたして作者に乙女心が書けるのか?




