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カコと琴美2

 キュンキュンと独特の音を構内に響かせて、地下鉄が滑り込んで来る。

 違う世界の筈なのに、何故か地下鉄の音は一緒だった。


「マジで行くのか?観光スポットでもなんでもないんだぞ。第一、あるかどうかも分からないんだぜ」


「私が見てみたいの。文句ある!?」

 琴美に札幌で見てみたい場所は、俺の実家。

 なんでも、前世で俺が過ごした場所を見たいらしい。


「文句か?…俺が楽しくない!!何が悲しくてあるかどうかも分からない実家を見に行かなきゃならないんだよ」


「あるかどうか分からないから確かめに行くの。それと、あんたと香子さんの思い出の場所にも行くわよ」

 香子との思い出の場所か。

 パッと思い付くのは、家の近くにある公園。

 もっと詳しく言うと、公園にあるベンチ…相合い傘が消えている事を切に願う。


「もし、実家があったらどうするんだ?」

 もう一人の俺の仏壇に手を合わせるって言うんじゃないだろうな。


「うーん、茂の恥ずかしい過去と聞いてみたいな。あんた、馬鹿は言うけど黒歴史みたいのはないでしょ」

 そりゃそうだ、俺は良い年した大人なんだから黒歴史なんて作る訳がない。


「誰にどうやって聞くんだよ?転生したお宅の息子さんの知り合いですとか言うのかよ」


「はっ?あんた誰に物を言ってるの?姫星グループのエージェントは一流なんだからね」

 こいつ、プロを使うつもりか。

 姫星グループののエージェントには、元刑事や元スパイがいるらしい。

 本気で仮面ラ○ダーになれると信じていた事や、キャ○ン翼の真似をしてオーバヘッドキックをしたら骨折をした事がばれると言うのか?


(いや、ここは前世とは違う世界だ。第一、俺が二人もいる訳がない)

 

―――――――――――――――

 実家が近付くにつれ、俺は不思議な郷愁に包まれていた。

 全てが懐かしい、見る物全てが過去を思い出させる。

 新しく出来た家や変わってしまった店もあったが、間違いなく俺がそこは生まれた町。


「茂、手つなぐよ…大丈夫、私が着いててあげるから」

 琴美はそう言うと、俺の手をギュッと握り締めてくれた。


「悪いな…ははっ、マジかよ。全部一緒だ」

 空いた手で潤るんだ目を強引に拭う。

 建物だけじゃなく、立ち話をしているおばさんにも見覚えがある。


「茂、そこの公園で一休みしようか?」

 琴美が指差したのは例の公園だった。


(そうだよな、ここは前世と似てるだけの世界。マジかよ…)

 公園の造りも全く一緒だった。

 あのベンチも変わらずに公園の片隅にあった。

 少し、古びているが思い出のベンチに間違いない。

 そしてベンチの背もたれには俺とかこの相合い傘が書かれていた。

 薄くはなっているが、それは間違いなく俺の文字である。


「茂、これって…」


「参ったな…ちょっと顔を洗って気持ちを落ち着かせてくるよ」

 さっきから頭が笑える程に、ぐるんぐるんと回っている。


―――――――――――――――


 顔を洗いに行った茂とすれ違いで一組の親子がやって来た。


「ママー、ママのベンチに知らないお姉ちゃんが座ってるよ」


「香織ちゃん、あのベンチはママのベンチじゃなくみんなのベンチよ。すいません、いつも私がこのベンチに座っているので」

 優しい雰囲気を持った母親が私に微笑み掛けてくる。


「いえ、大丈夫です。私は人を待っていただけですから…はい、香織ちゃん、どうぞ」

 私が離れると親子はゆっくりとベンチに腰を下ろした。


「わざわざ、すいません。もしかして内地の方ですか?」


「ええ、もしかしてベンチの相合い傘は?」

 それは予感、でも茂の話してくれた香子さんと目の前の母親は似ていた。


「見たんですか?恥ずかしいな…幼馴染みとの思い出なんですよ」


「ロマンチックで素敵な思い出じゃないですか。私の幼馴染みなんて鈍感だしロマンチックの欠片もないんですよ」

 そう、腹が立つ位に鈍感だ。


「素敵じゃないですよ。私が待てなかったばっかりに、あいつは殺されちゃったんです…私だけ幸せになって恨まれてますね」

 香子さんは涙ぐみなからそう話してくれた。

 私の知ってる茂なら香子さんを恨んでないと思う。


――――――――――


 思わず現実逃避をしたくなってしまった。

 琴美とかこが、あのベンチで話をしていたのだ。

 ついつい何を話しているから気になり、かこの背後に回り込む。

 丁度、木の影に隠れる場所があった。

 話題はどう聞いても俺の事だ。


「素敵じゃないですよ。私が待てなかったばっかりに、あいつは殺されちゃったんです…私だけ幸せになって恨まれてますね」

 そう言ってかこは泣き始めた。


(やれやれ、母親になっても手が掛かるな)


「おい、へちゃむくれ。なーに言ってんだよ」


「し、茂?嘘、幽霊?」

 どうやら、この世界の俺も同じ声の様だ。


「ったく、パクが泣いたら余計にしわくちゃになるだろうが」


「誰がパグよ!!私のお肌にまだ張りがあります」

 相変わらす弄りやすいと言うかなんと言うか。


「まだだろ?おい、へちゃむくれ、母親になった癖に泣いてどうするんだ?かこが過去の事で泣いて子どもに心配を掛けましたなんて駄洒落にもならねえぞ。お前は母親なんだろ?餓鬼の為に微笑わらっているのが仕事だ」


「うるさいわよ…私に謝らせないで逝った癖に」

 振られて謝られても惨めなだけなんだけど。


「悪かったよ。俺もお前の笑顔が好きだった様に娘さんもお前の笑顔を好きだと思うぞ。だから、俺の事は忘れて娘さんと旦那さんの為に微笑わらってろ」

 これは俺のカコとの決別。

 今の俺は違う蒲田茂なんだから。


――――――――――――――


 香子さんは少し泣いた後、お日様みたいな明るい笑顔で笑った。


「不思議な事もあるんですね。はー、幽霊に叱られちゃった」

 幽霊じゃなく木の影に隠れた不審者なんだけど。


「香子さん、私は負けませんからね」


「うん、貴女は幼馴染みの彼氏と幸せになってね」


「はい、何があっても離しません。強引にでも近くにいてやります」

 とりあえずはこそこそと逃げ出した不審者の確保に向かうとしますか。

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