カコと琴美
俺が今住んでいる世界は、星空の恋人達ってゲームの世界だと信じ掛けていた。
前世と似ているけど、全く違う世界なんだと。
いや、ゲームの世界だから前世を真似して作られた世界なのかも知れない。
でも、そうだとしたら今の状況の説明が着かなくなる。
この世界の札幌が、前世の札幌と全く同じなんだから。
新しく出来た店もあったけど、俺が前に里帰りした時と殆んど一緒。
時計台は相変わらず小さいし、大通り公園には鳩が沢山いた。
今はバスに乗ってるから細かい所は確認出来ないけれども、ここは間違いなく俺の知ってる札幌だ。
幸い、姫と将軍は違うバスに乗っているか俺の態度を怪しむ奴はいなかった。
正確には誰も俺に関心を持ってないだけなんだけど。
サッカー部の試合は明日だから、今日は自由行動になる。
(こうなりゃ、自分の目で確かめてみるか)
ホテルから速攻で抜け出せば誰にも気付かれないと思う。
有詩はサッカー部で動くし、琴美や朋子と近い部屋になる可能性は少ない。
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俺が泊まるのはprincesstarホテル。
早い話が姫星財閥で経営してるホテルだ。
驚く事に個室を宛がれている。
ホテルが建っているのは月寒公園の近くだった。
前世でなら月寒公園の敷地内に建っている事になる。
当然、俺の知ってる月寒公園にはホテルなんか建っていない。
(やっぱり、俺の知ってる札幌とは違うのかもな。さてと、琴美に捕まる前に出掛けるとするか)
出掛ける準備をしていたら、突然ドアが開いた。
「茂、観光に出掛けるわよ」
ドアを開けたのは琴美。
「まず、どうやって入って来たか教えてもらおうか」
「知らないの?ホテルにはマスターキーがあるのよ」
いや、マスターキーは知ってるけど、それを使わせるか?
「七志世会長にチクるぞ」
「残念ながらお父様には報告済みよ。茂の様子がおかしいから心配だって言ったら許可してくれたし」
まあ、俺の部屋以外は開けないから許可したんだと思う。
北海道に来てから動揺しまくっていたし。
「観光?俺は北海道に来た事がないから案内なんて出来ないぞ」
「誰が茂に案内して欲しいって言った?私は観光に行くとしか言ってないわよ」
墓穴を掘ったな…なんとか誤魔化せるだろうか?
「どうせ、お前は下調べとかしてないんだろ?だから、俺に期待してんのかなと思ってさ」
我ながら苦しい言い訳だ。
ふと、琴美を見ると泣いていた。
零れ落ちる涙を拭いもせずに、じっと俺を見ている。
「茂、何を隠してるの?有詩には言えても私には教えてくれないの!?ねえ、教えてよ。私は信じられないの?」
「信じていてるから、知られたくない事だってあるんだよ」
有詩は同性のダチだから俺との距離が変わらなかったんだと思う。
「そんなのただの誤魔化しじゃない!!嫌だよ、茂にそんな風に誤魔化されるの。茂だけは本音で接してくれるって信じてたのに」
琴美の綺麗な顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。
琴美は美少女でお嬢様だ。
当然、調子の良い事だけを言って近付いてくる奴は数え切れかない位いる。
確かに、俺は琴美に本音で接する数少ない人間だろう。
(言って嫌われても仕方ないか…)
「言っても良いけど変に思うだけだぜ。俺には前世の記憶があるんだよ、この世界と少しだけ違う世界のな。それで前世の故郷が札幌だったんだよ」
案の定、琴美は白い目で俺を見てきた。
「前世?嘘をつくならもう少し上手くつきなさいよ!!」
「嘘じゃないつーの。俺の前世はパン職人の蒲田茂。30才の時に通り魔に刺されて死んだんだよ」
そこから俺は事細かに前世の事を話した…星空の恋人と香子の事を除いてだけど。
「それ本当なの?」
「本当だつーの。だから、パンも一人で作れるんだよ」
なんとか、このまま押し切ろう…色々知られたくない過去があるし。
「ふーん、それで前世で彼女はいたの?30才まで誰とも付き合わなかったなんて言わないわよね?」
まだ、大丈夫だ。
まだ追求から逃れる事が出来る筈。
「そりゃいたさ。まっ、死ぬ前は一人者だったけどな…ここの札幌は俺が知ってる札幌と似てるから案内するよ。さっ、行くぞ」
バッグを持って出口に向かう。
これでミッションコンプリート…。
「へー、その人はかこって名前なんだよね」
出来なかった、恐るべし女の勘。
そこから琴美の尋問が始まった。
出会いから別れまでしっかりと喋らせられた。
「はっ?27歳まで香子さんを北海道に残していたの?馬鹿じゃない!!愛想を尽かされて当然」
そして尋問終了と同時に説教が開始。
「いやいや、振られたのは俺なんだぞ!?浮気もしてないし」
「あのね、香子さんはあんたが迎えに来てくれるのを待ってたの!!給料が安くても二人で働ければなんとかなったでしょ」
ぐうの音も出ない…確かに変な見栄や意地を張らずにかこに内地に着いて来いと言えば何かが違ったのかも知れない。
「だけど、最終的にかこは幸せなったんだし…」
「本当に救い用のない馬鹿ね。幼馴染みのあんたを振っただけでも辛かったと思うよ。それに茂が殺されたって聞いたら、香子さんはなんて思ったか考えた事ないの…自分が待ってれば茂は死なずに済んだかもって、自分を責めてるわよ!!」
そして俺は今琴美に責められていると。
「大丈夫だよ。優しい社長の旦那さんが着いてるし。それにかこの事は昔話。前世は前世。俺にとっては過去より今が大切なんだし」
そう、今はかこより琴美の方が大切なんだし。
――――――――――
茂の話はショックだった。
でも、茂に前世の記憶があるなら色々と納得が出来る。
昔から変に落ち着いていたし、妙な事に詳しかったし。
そして茂は前にこう言った。
恋人と離れても待っていれるかって…。
(決めた…家の事は考えない。茂の中から前世の記憶を消してやる)
今の茂は私の茂なんだから。
琴美って男性より女性に好かれるキャラだと思います




