不思議な夏祭り
夏祭りは白鳥さんにきれられるという波乱の展開で幕を開けた。
「よお、お前は相変わらず巻き込まれ体質だな」
話し掛けてきたのはフツメン三人衆の一人山本三平。
いつの間にか俺と山本と佐藤孝はフツメン三人衆と呼ばれる様になっていた。
「あんなに怒ってる白鳥さんは初めて見たよ」
白鳥さんの剣幕に驚いたらしく佐藤はいまだに唖然としている。
恐ろしい事に馬車の中は、俺達フツメン三人衆と文朗以外はイケメンと美少女ばかりになっていた。
「今回も蒲田は色んな意味で台風の目だな。下手な選択をするとまた怒られるんじゃねえか?」
「夏祭りで選択を悩むっていったらくじ引きくらいだろ?」
しかし、俺はいきなり選択を迫られる羽目になった。
(やべ、どこに座りゃ良いんだ?)
馬車はバスの様に二人掛けの座席が二組づつ並んでいる。
しかし、殆んどの既に席が埋まっており、誰かの隣に座るしかない。
何時もなら有詩の隣は座るんだけど白鳥さんが座っていた。
次に座りやすい空さんの隣には海会長が座っている。
断れる可能性が低い早乙女の隣には菊池さん、朋子の隣には琴理ちゃん。
一人で座っているのは琴美、来部さん、夜鬼先輩、伊庭先輩の四人。
安牌なのは夜鬼先輩なんだけど、目線で拒否された。
男は隣に来るなって事なんだろう。
伊庭先輩の隣は文朗に残しておきたい。
(うん、後ろに四人掛けの椅子があるじゃないか。フツメン三人衆+文朗でぴったり四人。決まりだな)
さっきの今で琴美の隣は選びにくいし。
「佐藤君、蘭の隣が空いてますよ。伊庭先輩、こないだの渡辺君覚えてますよね。隣に座らせて上げてもらえますか?」
いきなり仕切りだしたのは琴美。
「来部さん隣良いかな?」
「た、た、た、孝ちゃん…うん、良いよ。僕も孝ちゃんとお喋りしたいし」
来部さんは顔を真っ赤にしながら佐藤を迎えいれる。
二人共、久しぶりに話をするらしく藤が座るなり会話を始めていた。
「渡辺、何をしてる。早く座らないて馬車が動かないだろ」
「はっ、はい。失礼します」
来部さん以上に顔を赤くする文朗。
こっちは文朗が緊張しているのか、会話もどこかぎこちない。
「茂さん、早く座らないと馬車が動きませんよ…あら?夜鬼先輩、隣が空いてますね。山本君を座らせて上げてもらえますか?」
「分かったよ。山本、早く座れ。蒲田もボサッとしてないで座れよ」
俺に残された選択肢は四人掛けの椅子に一人で座るか琴美の隣に座るかしかない。
(四人掛けに一人で座るのは痛いし、琴美の隣もある意味で針の筵。どっちに座るのが正解なんだ?)
「しげるー、なーにしてるのかなー?早く座りなさい…お座りっ!!」
「俺は犬かっ!?」
前世も入れれば俺の方が人生経験も精神年齢も上の筈。
なのになんで琴美の尻に敷かれてしまうんだろう。
幸いな事に、有詩は白鳥さんとの会話に夢中らしく俺達のやり取りを見ていない。
「おや?蒲田君、顔が赤いですね?もしかしなくても私の浴衣姿に見惚れたのかな?」
琴美の浴衣は藍色の朝顔模様。
髪をあげていて真っ白なうなじが艶かしい。
(いやいや、相手は高校生だぞ、高校生。でも綺麗なんだよ…)
「悪かったな。浴衣、似合ってるよ」
まあ、俺も照れ隠しで誤魔化す様な餓鬼ではない。
「し、茂がデレた?」
「素直な感想だっての。おっ、馬車が動くみたいだぞ」
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何故だ?何故、誰も疑問に思わないんだ?
(馬車が車を追い抜いてる?それに、なんで揺れないんだ?)
馬車は軽どころか普通車も軽々と追い抜いていく。
それなのに馬車は一切揺れない。
夏祭りの会場はもっと異様だった。
(なんだ?この賑わいは?近くに駐車場はなかったよな…)
それにも関わらず夏祭りの会場は大賑わい。
ワニガメ掬いや塩綿飴にも人だかりが出来ていた。
「茂、なにボーッとしてるの?置いてくよ」
「いや、ちょっと呆気にとられてんだよ。他の連中は?」
残っていたのは琴美・伊庭先輩・文朗・佐藤・来部さんの五人。
「有詩は雪香ちゃんと一緒に行ったみたい。夜鬼先輩はナンパかな?山本君は海会長達や琴理達と一緒に行ったわよ」
「そっか、まずはお参りをして出店を見て回るか」
軽く見回して見ると、普通の出店もあるし。
ちなみに塩綿飴にはグレーの胡麻塩・緑の抹茶塩・真っ赤な唐辛子塩・黄色いウコン塩があるらしい。
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動けば動く程、夏祭りの異様さが見えてくる。
ワニカメ掬いの素手で挑んでいる小学生、同じ店に何度も並ぶ浴衣の女性。
でも誰も疑問に思っていない様だ。
「茂、くじ引きがあるよ。やってみて」
「くじ引きか、夏祭りって一等が入ってなかったりすんだよな…って一等がダイヤの指輪?」
ちなみに二等が銀のバレッタで三等は風鈴、四等はのど飴らしい。
他には赤マムシならぬ黒ドラゴンエキス配合の栄養ドリンクや巨大ホタルのぬいぐるみなんてのもあった。
(おいおい、狙ったかの様に女性陣が好みそうなラインナップだよな)
バレッタは琴美、和風の物を好む伊庭先輩には風鈴、歌を歌う来部さんにはのど飴 …まるでゲームの様に都合が良い世界だ。
しかも、それが当たってしまうから怖い。
もし、誰かに都合が良い世界としたら、ここは誰の為の世界なんだろうか。
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不思議な事は重なる物で夏祭り会場で有詩達に会う事はなかった。
それどころか花火会場に着いた途端、人混みの所為で文朗達とはぐれてしまい琴美と二人になってしまった。
「綺麗な花火だね…ねえ、私とどっちが綺麗?」
花火と女性の美しさは違うと思うんだけど、それを突っ込むのは野暮。
「花火は一瞬で消えるけど、誰かさんはどんどん綺麗になっていくから花火じゃ追い付けないだろ…いや、引いたんなら笑うか突っ込んでくれない?」
「似合わないけど花火に免じて許してあげる。折角だからゆっくり見てよ」
琴美はそう言うと、腕を組んできた。
ただ、花火の音だけが頭に響いていた。
ザコ≧勇者を読んだ人以外はスルーして下さい
「お父様、いつまで馬の姿でいれば良いんですか?私には仕事があるんですよ」
「スレイプ、馬だからって漏らしちゃ駄目ですよ。ボロだけに襤褸がが出たから困りますから」




