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路亀様?

 その男と再会したのは、バイトからの帰り道。

 昼は快晴だったけれども、バイトが終わった頃には日が沈み、辺り一帯は既に薄暗くなっていた。

 それでも夏の日差しで暖められた空気は、充分過ぎる程に暑く不快な汗が額を滴り落ちていく。

 一刻も早く家に帰ってひとっ風呂浴びたい所なんだけれど、満員電車並みの湿度を保っている空気が体や髪にまとわりついてきて俺の歩みを遅らせる。 

 前世ならビアガーデンか居酒屋に突撃し、キンキンに冷えた生ビールで喉を潤していた事だろう。

 ビールを飲みたいが、流石に家には買って行けない。


(仕方ない、コンビニで炭酸を買うか。次いでにお握りも買って…最近のコンビニ商品は侮れないからな…)

 何気ない言葉なのに、胸に言い知れない不安が押し寄せて来る。


(確か、前世で殺される前にも同じ事を思ったよな)

 違いと言えばビールがコーラに代わった位だ。

 前世で俺はコンビニの帰り道で出会った、変な外国人占い師に凶悪犯に殺されて転生するって告げられた。


(考えすぎだよな。外国人の占い師なんて滅多にいないし、もし居てもあんな変な奴に会う事はもうないな)

 俺は胸に去来する不安感を拭い去るか様に、足早に曲がり角を曲がった。


「私みたいなグレイトな紳士に対して変な奴扱いをするなんて暑さで頭が茹であがったんじゃないですか?」


 そして曲がり角を曲がった先にそいつはいた。

 茶色い毛髪に頬から繋がっている顎髭。

 ハリウッド俳優並みに整った容姿。

 そして…

(このくそ暑い時におでん柄のジャケット?ってか、どこでそんな趣味の悪いジャケットを売ってるんだよ?)

 そこにいたのは、確かにあの時の外国人占い師。

 占い師は大根、はんぺん、じゃがいも等おでんの具がプリントされたジャケットを着ていた。


「蒲田茂さん、お久しぶりですね。ちなみに、このジャケットは特注品ですよ。でも、チ○太のおでんは版権の関係で無理でしたけどね」


「あ、貴方は一体…」

 早くこの場から、逃げ去りたいが足が石になっかの様にピクリとも動かない。

 

「私はただの紳士な占い師ですよ。ちゃんとここに書いてるじゃないですか」

 占い師の指差す先に書いてあったのは


(みち)(がめ)神社出張占い・明日の貴方が蚊に刺される場所をピタリと当てます。


「いや…それだけですか?」

 この人は、ジャケットを着た外国人の神主なんだろうか。


「残念ながら私は神主ではありませんよ。路亀神社の関係者なのは確かですけどね。それと他にも占えますよ。例えば貴方の友達の恋の結果とかをね…立ち話もなんなんで座って下さい」

 …この男は何者なんだろう。

 俺の考えを読むだけでなく、話してもいない文郎の事が分かるなんて。


「結果も何も火を見るより明らかですよ。竹槍一本で最新鋭の戦車に立ち向かう様なもんです」


「何を言ってるんです。異性の好みは千差万別なんですよ。第一、貴方は伊庭弓美じゃないでしょ。才能や生まれが違うから幸せになれない?ちゃんちゃら可笑しいですね。幸せになれるのは自分の幸せをきちんと知ってる人なんですよ。貴方は本当の幸せを分かってますか?」

 占い師が嘲る様な表情で話し掛けてきた。

 

「本当の幸せですか?それこそ千差万別なんじゃないですか」

 そんなのはどう答えても否定されるに決まっている。


「そんなの当たり前じゃないですか。餓えた者は一欠のパンに無上の喜びを感じ、凍えていた者は僅かな暖かさにも生の感謝を見出だす。でも、それはやがて当たり前となり忘れてしまう。大切な家族が元気でいる事、大切な誰かと笑える事。そんな当たり前の幸せを忘れずに守れる人間だけが幸せになれるんです…逆に聞きます、今の貴方が失いたくない幸せはなんですか?」

 俺が失いたくない人…父さんや母さん、姉ちゃん、朋子。

 有詩、早紀さん、琴理ちゃん、文郎。

 そして…琴美。


「自分が幸せなれると誰かを幸せに出来るのは違いますよ」

 自己満足では相手を幸せに出来ないのは痛い程分かっている。


「それを知っているなら答えは簡単ですよね。貴方も貴方の友人も大切な女性を幸せにする努力を忘れなければ良いんですよ。そうすれば振られても別れても何かが残りますから。そしてそれは次に出会う誰かを幸せにする為の実となるんです」

 文郎は伊庭先輩に振られる確率はかなり高い。

 伊庭先輩との仲を取り持つのは難しいが、文郎が何かを学べる様に協力する事は俺にも出来る。


「分かりました、ありがとうございます」

 俺は占い師に頭を下げて家路に着いた。


(とりあえずは琴美に相談してみるか)

 俺は伊庭先輩の連絡先も知らないし、何が好きなのかも知らない。

 何より自分の気持ちに向き合う良い機会になると思う。

 

―――――――――――――


 茂を見送った後、占い師が呟く。

「そして、それが貴方の大切な人を守る道でもあるんです…何しろ貴方はこのふざけた世界に私が送り込んだコンピュータウィルスなんですから」

 占い師はそう言って、ニヤリと笑うと闇に消えていった。


―――――――――――――――


 何回も掛けている電話なのに妙に意識をしてしまう。


(琴美も忙しいから、五回コールして出なきゃ諦めるか…)


「茂、どうしたの?もしかして私の声が聞きたくなったとか?」

 琴美が三コールと言う速さで出てしまった。

(落ち着け、落ち着け。変に慌てたら勘繰られちまう)


「正解って言うか、琴美に相談があるんだよ。ほら、こないだ俺と一緒にいた文郎っていただろ?」

 そこから俺は文郎が伊庭先輩に一目惚れした事を琴美に伝えた。


「ふーん、それで茂はどうしたいの?」


「どうするも俺にはどうしようも出来ないから、お前に相談してんだよ。ほら、俺は伊庭先輩の連絡先を知らないし」

 琴美が伊庭先輩から、この間の感想を聞いて、今の時点でアウトを告げられるかも知れない。


「そっれっでっ!!伊庭先輩の連絡先を教えろって言うの!?」

 琴美は耳がキーンとする程の大声で返事をしてきた。


「お前、声がでかいっての…いや、またダブルデートでも出来たら」「分かった、任せて!!だから茂は素敵なデートプランを考える事。良いわねっ」

 出来たら少しは進展がと言った瞬間に琴美が食い気味で返事をする。


「素敵なデートプランね。分かったよ、文郎と相談してみる」

 文郎が気後れをしない庶民(おれたち)のテリトリーで考えていこう。

路亀様の読み方を変えると

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