展庭でナンパ?傷つかない方法(いきかた)
相変わらず恋愛小説らしくない展開です
不味い、かなり不味い…不味いを通り越してヤバいかもしれない。
付き合いで入ったキャバクラの嬢が彼女の知り合いだった時位に不味い。
俺逹が入ったのは、展庭で人気のパンケーキ専門店。
メニューを見てビックリ!!
値段がとてもパンケーキの値段とは思えない。
あんなに生クリームやベリーを乗せていたらパンケーキの味が分からなくなると思うんだけど。
でも一番不味いのは俺の隣に座っている友人。
伊庭先輩を見る目は完璧に恋する乙女ならぬ恋する少年。
恋をするのは自由だと思う。
しかし、勇気と無謀は似ている様で全然違う。
(傷が深くなる前に諌めておくか)
文朗はダチだし良い奴なのは分かっている。
相手がニコの女子なら応援もするし相談にも乗った。
しかし、相手は星空の姫。
これは奇跡が起きなければ叶わぬ恋だ。
そして奇跡が起きても文朗が傷付いて終る恋でもある。
「うーんと私はDXベリースペシャルにしようかな」
琴美は、俺の悩みを知ってか知らずか一番お高いメニューをセレクト。
「俺はコーヒーかな」
勝負に勝てても確実に金が返ってくる確証はないんだし…それでも一杯千円のコーヒーなんて庶民の飲み物じゃないと思う。
「私はビターチョコにする…やっぱり、お金は自分で払うよ」
流石は伊庭先輩、メニューも答えも大人だ。
「だ、大丈夫です。ご馳走させて下さい。支払いは奴等にさせるんで大丈夫です」
文朗、この二人の小遣いは俺達のバイト代を軽く凌駕してるんだぞ。
「あっ、そんな事をしなくても良いですわよ…ナンパなんてする馬鹿は少し痛い目にあえば良いのよ」
そう言って俺をジト目で見る琴美。
「確かに馬鹿げた話だよな。琴美、付き合ってくれてありがとな」
今の琴美に逆らうのは不味い。
「そ、そうよ。感謝しなさい…でも本当にナンパに成功したの?展庭にそんな軽い女の子はいないと思うんだけど」
琴美の言う通り、展庭のお嬢様方は厳しい躾をされている。
何より展庭にはイケメンが溢れているから男を見る目が肥えている筈。
「展庭で遊んでいるのは展庭市民だけじゃないだろ。実際にナンパされたのが展庭のお嬢様なら私設の警備員が黙ってないだろうし」
「シゲさん、私設の警備員なんているの?」
文朗が目を丸くして驚く…まあ、庶民の感覚なら当然なんだけど。
「展庭には盗撮やナンパを防ぐ為に私設の警備員が配置されてるんだよ。俺だって琴美の知り合いだから、スルーされただけなんだぜ」
お嬢様とは言え人の子、昔はナンパされて人結婚した人もいたらしい。
でも幸せになれたのは、本の一握り。
生活の格差を埋められなかったのだ。
恋は醒めても生活は続く。
お嬢様は昔の仲間との生活格差を嘆き、男は展庭の男と収入を比べられて不満を溜める。
そこに待っているのは離婚。
「ニコの奴等は大丈夫なの?」
「琴美が展庭でナンパされる女はいないって言ったろ。何回もチャレンジして厳重注意をされてるんじゃないか」
それか展庭のイケメンを見て自信喪失しているかだ。
「まあ、ナンパなんてする軟弱な男には良い薬になる。蒲田も友人を大切にするのは良いが断る事も大切だぞ」
流石は伊庭先輩、軟弱な男と来たのか。
今の一言で文朗が諦めてくれたら有り難いんだけど。
俺達は店を出て直ぐに生活の格差を実感する。
琴美と伊庭先輩にお迎えの車が来ていたのだ。
「それでは茂さん御馳走様でした。次に店の前でナンパなんかしたら覚悟して下さいね」
琴美の口元には笑みが浮かんでいるけど目は笑っていない。
正直、怖いです。
「渡辺、友達の幸せを守ろうとしたのは偉いが、次からはやり方を変えた方が良いぞ…まあ、私は美味しいパンケーキを食べれて嬉しかったから、感謝をしてるけどな」
そう言ってふわりと微笑む伊庭先輩。
あの微笑みは不味い。
隣を見ると文朗が顔を真っ赤にしながら頷いている。
これは…文朗が伊庭先輩に惚れてまったやろー。
文朗は俺と別れる直前まで夢見心地と言った感じだった。
「シゲさん、俺、恋しちゃった…」
それは言わなくもお前を見れば分かる。
「文朗、現実を見る事は大切だぞ」
「分かってる、俺と伊庭さんじゃ釣り合わない事は分かってるよ。でも、好きになっちゃったんだ…シゲさん、どうしたら良いかな?」
答えは簡単、諦めろだ。
でもそれは大人には通じても、文朗には通じないだろう。
「努力だ、先ずは伊庭先輩に認められる位の男にならないとな。伊庭先輩は真面目な性格で文武両道なんだぜ」
「分かってる。でも振られても良いから気持ちは伝えたいな」
…振られても良いから気持ちを伝えたいか。
そんな真っ直ぐな気持ちは、いつの間にか忘れていた。
子供は何回も転んで歩くのが上手くなる。
俺は何回も人生で転んだから、傷つかないで済む生き方を覚えてしまったんだろうか。
―――――――――――――――
機織川の土手に座っりながら考える。
文朗の恋を応援すべきか諌めるべきか。
文朗は伊庭先輩の連絡先すら知らないから俺を頼ってくる確率は高い。
つまり、俺次第で文朗は傷つかないで済む。
川が答えてくれる訳もなく、ただ俺はボーッと煌めく川面を眺めていた。
「茂、ボーッとしてどうしたの?とうとう琴美ちゃんに振られた?」
「姉ちゃん…なんでそうなるんだよ」
話し掛けて来たのは姉の蒲田小夏。
「あー、ゴメンゴメン。告る勇気もないチキンは振られもしないよね」
「なんで俺が琴美を好きって決めつけるんだよ。俺は自分の事をちゃんと知ってるって」
俺じゃ琴美と釣り合わない事は分かっている。
「ふーん、つまり自分の気持ちを分かっているけど傷つかない様に誤魔化していると…あんた、ダサいわね」
「ダサくて結構。俺が悩んでるのはダチの事だし」
俺は今日あった事を姉さんに伝えた。
「別に好きになる位は良いんじゃないの?」
「振られるのが分かっていて橋渡しは出来ないよ。もし上手く付き合えたしても長続きはしないだろうし」
前世の友達で金持ちのお嬢様と結婚した奴がいたけど、ギャップを埋められずに離婚した。
自分は普通の会社員だけど、嫁の友達の旦那や男友達の殆んどが会社役員や若社長。
最初は何とも思わなかったらしいが、段々とコンプレックスを感じる様になったらしい。
「そんなのは余計なお世話。第一、あんたは考え過ぎなの。歩く前から転ぶ心配をしてたら前に進めないでしょ。夢には貪欲に進む癖に恋愛は本当にヘタレね。どんなに叶わない恋でも、振られなきゃ前に進めないのよ」
前にか…俺は自分の気持ちを誤魔化して進んで後悔しないんだろうか。
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