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夜道の二人

 胆試しに付き物と言ったら、その地に(まつ)わる怪談である。

 雰囲気を盛り上げる為に、主催者が他の怪談の固有名詞だけを変えて話しているのが殆んどだ。

 海会長も御多分に洩れずに、怪談参加者に向けて青少年センターに纏わる怪談を披露している。


「数年前の事だそうです。青少年センターに私達と同じ高校生が合宿に来ました。その中の一人の少年、仮にA君としておきましょう。A君は合宿中にセンターで一枚の古めかしいお札を拾ったんです」 

(なんでセンターに古いお札が落ちてんだよ!?てか、そんなの普通拾わないだろ)

 俺は怪談やUFOの類いは基本的に信じていない。

 胡散臭い話が多すぎるらだ…転生した人間に言われたくないとは思うけど。

 

「にいに、僕と手を繋いで」

 雰囲気を壊さない様に心で突っ込みを入れている俺と違い、この手の話が苦手な朋子は本気で怯えている。

 

「し、茂が怯えない様に隣にいてあげるから感謝しなさいよね」

 琴美も怪談は得意な方じゃない…ってかなんでツンデレになるんだ?

 いや、デレてないかただのツンか。

 

「青少年センターの管理人に聞いたら所、お札は近くの路亀(みちがめ)神社の物でした。A君は管理人にお札を神社に届ける様に言われましたが、A君は友達と遊ぶ事を優先してお札を自分の枕の下に仕舞ったんです」

(なんで?枕の下?あり得ないだろ)


「その夜、A君は誰かに呼ばれて目を覚ましました。でも、同じ部屋の友達は誰も起きていません。寝ぼけたと思ったA君は寝直す事にしました。そうしたら枕の下から声が聞こえて来たんです。お札を返せ、お札を返せと」

(枕の下から声?スマホが枕の下にあったら目覚ましでも聞こえにくいのに)


「にいにー、怖いよー」

 涙目になっている朋子が擦り寄ってくる。


「し、茂、お札が喋ったの?ねえ、そうだよね?」

 お札に発声器官はないと言いたいが、流石にそれを言うのは野暮だと思う。


「A君は一人で神社にお札を返しに行く事にしたんです。不思議な事にA君が部屋を出ても友達は起きる気配すらありません。センターのドアの鍵も外れており、A君はそのまま闇に飲まれていきました。それ以来A君の姿を見た人はいないそうです」

(お、もう少しリアリティを持たせろよ…)


「にいに、僕、胆試しに行かない!!神社に何かいるんでしょ」

 既に朋子は俺に密着状態、琴理ちゃんも朋子にへばりついている。


「茂、私を途中で置いていったら一生恨むからね」


「あのな、誰もA君が部屋を出たのに気付いていないのに、何で神社に行った事やお札から声が聞こえたのが分かるんだ?つうか俺は毎日公時新報を読んでるんけど、そんな騒動はなかったぞ。早い話が作り話なんだよ」

 第一、そんな騒動が本当にあったのなら爽青家が合宿を許す訳がない。

 

「そうか、そうだよね。流石は兄貴」

 泣いた子供がなんとやら、朋子は既に笑顔になっている。


「茂、早く神社に行くわよ。モタモタしていたら置いていくからね」

 琴美は勢い良く立ち上がるとスタスタと歩き出した。

 あいつは後ろで来部さんがニヤニヤしているのに気付いているんだろうか。


――――――――――――――――


 路亀神社は青少年センターから道なりに進んだ所にある。

 一本道と言っても外灯もなく懐中電灯で足元を照らさないと転びそうになってしまう。

 先程迄の勢いはどこへやら、琴美は外灯が途切れると、あからさまに歩幅を縮めはじめた。


「茂、なに一人でスタスタ歩いてるの?女の子の歩くスピードに合わせるのがマナーでしょ」


「俺は早く帰って明日の仕込みをしたいんだって。怖い怖いと思うから駄目なんだよ」

 俺から言わせてもらえれば殺人犯が歩いてるかもしれない町中の方が怖い。


「っな、誰も怖いなんて言ってないでしょ!!こういう時は黙って手を繋いでくれるんじゃないの?」

 それをしたら高確率でセクハラ扱いになるんだけどね。


「胆試しだって思うから怖くなるんだろ。天体観測にでも行くと思えば良いんだよ。俺じゃ役者不足だと思うけど恋人と星を見に行くと思えば平気だろ?」

 そう言って琴美に手を差し出す。

 繋ぐかとどうかは琴美次第だから、セクハラ認定はされないと信じたい。


「天体観測か…天の川見えるかな?」

 琴美はそう言うと俺の手を掴む。

 小さくスベスベとし手だ。


「天の川か…お前は恋人に一年に一回しか会えなくても平気か?」

 物語と違って現実は物理的な距離が遠くなれば心の距離も遠ざかる…俺と香子みたく。


「織姫と彦星?それは嫌だな。私なら彦星の所に押し掛けるか彦星を呼び寄せると思う」

 

「彦星は仕事場が離れた所にあったんだぞ。呼び寄せるのは無理だろ?」

 

「あら?私は織姫じゃなく姫星琴美ですわよ。相手の会社を買収して展庭に呼び寄せるかも知れなくてよ」

 確かに姫星財閥の財力があれば可能だと思うけど。


「随分とアクティブな織姫様だな」


「私の彦星は放っておくと一人で道を進んじゃう人かもしれないでしょ?」

 琴美はそう言うと手をギュッと握り締めてきた。



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