見た目は大人、中身は?
ニコのダチから聞いたんだが、ネット小説では転生物が流行っているらしい。
そして転生物にはチートとハーレム物が主流との事。
実際に転生した俺の場合はどうだろう?
チート…運動神経は並の上、頭脳は並の並、容姿は並みの下、前世から引き継いだ能力はパン作り十年の経験。
どう考えてもチートではないな。
それならハーレムはどうか?
確かに前世では縁がなかった美少女と親しくしている。
しているが…この状態はハーレムになるんだろうか?
俺達は合宿で使う食材を買いに公時市にあるスーパーに来ている。
面子は俺、朋子、琴美、琴理ちゃん、来部さん、星空さんの六人。
確かに俺は凄いレベルの美少女に囲まれている。
正確に言うと俺が押すカートを囲んでいるんだけど。
「兄貴、プリン買ったら駄目?それとパンケーキ食べたいからミックス粉を買っても良いかな?」
「どっちも作った方が安く済むだろ?」
「うん、だから兄貴作ってよ」
そう言ってにっこりと微笑む朋子、このおねだり上手め。
お兄ちゃん、頑張っちゃうぞ。
まず、朋子は妹だから除害。
もし、朋子をハーレムに入れようとしている男がいたら問答無用でしばく。
「朋子ちゃん、良かったね。はい、茂これをお願い」
そう言って大量の納豆を籠に入れる琴美。
しかも、ご丁寧に数種類の納豆を選んでいた。
「お嬢様つかぬ事をお伺いしますが、この納豆をどうするつもりですか?」
「それは茂が決めて良いよ。でも納豆炒飯は絶対に作ってね」
そう言ってたおやかに微笑む琴美。
「俺は合宿でパンを焼きたいんだよ!!パンと納豆は合わせ辛いんだぞ」
「はっ?あんたは日本人でしょ?米を主食にしなさいよ」
琴美にハーレムなんて言ったら罵詈雑言の嵐になるだろう。
それ以上に幼馴染みからランクアップ出来る可能性が低すぎる。
「私は茂さんが焼いてくれるパン大好きですよ」
琴理ちゃんがすかさずフォローをいれてくれた。
「琴理ちゃん、ありがとう。ちょっと考えている事があるから楽しみにしていてね」
「はいっ、楽しみにしています」
琴理ちゃんにとって俺は親友のお兄さん。
仲は悪くはないけど、二人で話す事は滅多にない。
でも琴理ちゃんみたいな美少女に喜んでもらえるのはパン職人冥利につきる。
「なーに、ニヤケてんのよ。琴理はパンが好きなんだから勘違いしないでよねっ」
すかさず、ジト目で突っ込んでくる琴美。
「するかっ!?俺がいくらモテなくても、それ位の自覚はあるつーの」
ちくしょう、俺には一瞬の癒しも許されないのか?
「はー、本当に素直じゃないんだから。なんで”私の方が琴理より茂の料理を好きなの。だって私は”むっぐっ!?」
来部さんは伊達眼鏡にウィッグで変装中、芸能人って大変だ。
「オホ、オーッホッホッ。そう言えば納豆炒飯に入れる具材を買っていませんでしたわ…行くわよっ、蘭!!」
琴美は来部さんの口を塞ぎながら走り去って行く。
「あの蒲田先輩はどんなパンでも作れるんですか?」
星空さんが遠慮がちに聞いてくる…俺が怖いんだろうか?
「うーん、どうかなホテルや高級店みたいなパンは無理だよ」
流石に合宿に天然酵母を持って行く訳にもいかないし。
「わ、私メロンパンが食べてみたいんです。お願い出来ますか?」
うん、分かった。
ハーレムじゃなくお嬢様方に庶民生活を伝えているだけなんだ。
動物園で珍しがられているパンダと一緒なんだね。
――――――――――――――
青少年センターまではバスで行くらしい。
「兄貴…あのバスかな…?」
朋子が唖然とするのも当たり前。
待ち合わせ場所にあったのは高級感たっぷりなバス。
真っ白で大きな車体、大きな窓には高そうなカーテンが着いている。。
そして何かを確認したのか深々と頭を下げてくる運転手さん。
車体には何も書かれていないから観光会社の物ではないと思う。
「らしいな…マイカーならぬマイバスかよ」
中は更に別世界で、広い室内にはゆったりとした皮のシートがあった。
足元に敷かれた絨毯もフカフカだ。
――――――――――――――――
俺の記憶が正しければ今回の参加者に幼児はいない筈。
バスは俺達を乗せた後、将軍や姫を自宅までお迎えに行っていた。
有詩と琴美の家までは普通だったんだけど。
「お坊っちゃま、無事に合宿を終えられる事を爺は祈っております」
執事服を着た白髪の老爺の目には涙が浮かんでいる。
「爺は大袈裟だな。それじゃ行ってくるよ」
そんな老爺に対して爽やかに答えてみせる夜鬼先輩。
「相棒よ、これは何の儀式なんだ?
「お見送りの儀式かな?餓鬼の頃は普通だったんだけど、こうして見るときついな」
隣に座っている有詩が苦笑いを浮かべる。
そりゃそうだ、夜鬼先輩をお見送りするメイドや執事が神妙な顔でお見送りしてるんだから。
しかし、それも何度も繰り返されれば慣れてしまう。
流石に全員が号泣していた早乙女君の時はドン引きしたが。
(あの神妙な顔、どっかで見た事があるよな…ああ、本社の社長を見送る時だ)
グランシャリオにも忘年会や新年会があった。
本社の社長は決まって途中退場する。
それを社員全員でお見送りするのが慣例となっていた。
執事やメイドの神妙な顔は、あの時の俺達とそっくりだったのだ。
(あの人達も仕事だからしてたんだな)
「そういや、次は誰の家に行くんだ?これで終わりだったっけ?」
「次は酒納先生の家だよ。酒納先生は生徒会の担当だから知ってるんじゃないか?」
先生が最後なのかよ。
「ほら、俺は呼ばれた時以外は生徒会室に行かないから」
「シゲ、覚悟しておけよ。あの人は疲れるぞ」
やがてバスは大きなお屋敷の前で停まった。
「ヤッホー!!みんな元気にしてるかな?先生は凄く元気だよ」
乗ってきたのはライトブラウンの髪を肩まで伸ばした女性。
見た目は二十代前半といった所、ただし爆乳。
でも言動が残念過ぎる。
「おい、あの見た目は大人、中身は中学生な人は誰だ」
「酒納艶美。酒納文具の長女で星空のOG、元姫だ」
酒納先生は、それなりに人気があるらしくバス内がざわつき出す…主に男子生徒が。
「先生、特別ゲストを連れて来ちゃいました。二人とも、入って」
そしてバスに入って来たのは薬鳴と菊谷さん。
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