ホスト系な先輩登場
不安だ、俺は転校初日から星空に通う自信をなくしていた。
大き過ぎる校舎に広すぎる教室。
今、案内してもらっているのは音楽室なんだけど。
(おいおい…なんだよ、このピアノは?どうみても学校に置いて良い物じゃねえだろ?)
音楽室に来てみれば素人でも、お高いと分かるピアノが普通に置かれていた。
いや、ピアノだけじゃなく高そうなバイオリンやサックスも普通に置かれている。
「音楽は選択授業だけど、シゲは選らばない方が良いかもな。お前、音楽はからっきし駄目だろ?」
有詩の言う通り俺にはリズム感が皆無。
「最初から選択肢にもいれてねぇよ。いくら俺でもバイオリンやサックスに混じってカスタネットやトライアングルを叩く度胸はないって。選択授業か、まだ決めてなかったな。他には何があるんだ?」
ちなみに星空の音楽では得意楽器を選ぶ所から始まるそうだ。
しかも殆んどの人がマイ楽器を持っているとの事。
縦笛やハモニカにも参加権を認めて欲しい。
「茂さん、音楽の他には茶道・華道・家政学・書道・美術・社交ダンスがあるんですよ」
技術系がないのに茶道とか華道はあるんだ。
「どうすっかな。家政学に野郎は少ないだろうし体育はタルいし」
まず書道や茶道は無理だ…俺は静寂な空間に耐える自信がない。
美術…俺が書くと全てが前衛芸術となってしまう。
社交ダンス…リズムはとれないが笑いならとる自信がある。
興味があるとすれば店内のディスプレイに役立つ華道か惣菜パンを作る時に役立つ家政学。
「あら?茂さんは女性が苦手なんですか?」
琴美は意外なのか驚いていた。
確かに、今の俺の周りには女性が多いから意外に思うかも知れない。
「苦手じゃないけど男が多い方が気楽なんだって。それに学校が違っていたから知らないだろうけど、俺は知らない異性と気軽に話せるタイプじゃないんだよ」
女性との会話は仲良くならない限りは最低限で済ませる様にしている。
前世で良かれと思って話し掛けていたバイトの高校生に、陰でキモいとか言われていた経験からの自衛策。
お陰でマイナス査定がついてボーナスが減ったんだぞ。
「まぁ、ナンパな男よりは好感が持てるな」
伊庭先輩はニコリと微笑んでくれるが勘違いしてはいけない。
古風な伊庭先輩が嫌うナンパ男よりは、マシってだけなんだし。
「私は家政学を選択していますから、茂さんもお選びになったらどうですか?」
ニコリと微笑む琴美お嬢様たが、目は笑っていない。
(これをどう受け取る?一・幼馴染みだからって馴れ馴れししく同じ選択をするなと言う警告、二・俺が星空に馴染めそうもないから気を使ってくれている、三・周りがお嬢様やお坊っちゃまばかりだから気楽に話せる相手が欲しい…三だな)
「ちなみに今まで何を作ったんだ?」
「舌平目のムニエル、ガレット、鯛の塩焼きにすまし汁、ホウレン草のクリームパスタですよ」
何…そのお上品過ぎるメニューは。
「蒲田、家政学では裁縫もあるから忘れるなよ」
「弓美ちゃん大丈夫だよ。シゲちゃんは裁縫も上手なんだから」
上手にさせられたと言った方が正確だけど。
「姉さんに衣装作りを手伝わさせられてますからね。他の人の意見も聞いてから決めますよ。次はどこを案内してくれるんですか?」
出来たらお嬢様やお坊っちゃまが少ない選択授業が嬉しい。
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そいつは突然現れた。
一人の少年が、琴美達女性陣の行く手を遮る様に壁に右手を着く。
学校でカベドンをする人を初めて見た。
「まさかこんな所で三人のプリンセスに会えるなんて…神様の粋な計らいに感謝だね」
後ろ髪を一本に束ねた少年はそう言って爽やかに微笑む。
そしてあいている左手で前髪を直した。
(おーおー、大人振っちゃって可愛いもんだねー。シャツを第二ボタンまで開けてワイルドアピールしてら)
高校生ぐらいの時って、無駄に大人振りたくなるんだよな。
「夜鬼、邪魔だ。私達は転校生を案内してるんだ」
「弓美ー、そんなつれない事を言うなよ…転校生って、そこにいるダサい外様か?プリンセスなんだから、外様じゃなく俺様と遊ぼうぜ」
この少年の自信は、若さ故の無知なる自信ってやつだろう。
(有詩、あのチャラいのはなんだ?)
(二年の夜鬼光牙さん。ジュエリーヤギの一人息子さ、少しでも可愛い子がいると、直ぐに口説くらしいぜ)
ジュエリーヤギ、セレブ御用達の高級宝飾店。
「夜鬼先輩、彼は私の大切な幼馴染みです。茂、あんな風に言われて悔しくないの?」
あっ、琴美のお嬢様の皮が剥げてら。
それより有詩がきれかかっていて不味い。
「俺は格好つけのお坊っちゃまの言葉を真に受ける程、ガキじゃないよ」
「おい、外様。格好つけのお坊っちゃまって誰の事だ?」
さっきまでの微笑みを消して睨み付けてくる夜鬼君。
「服装チェックの後にわざわざボタンを外してワイルドアピールしている人の事ですよ。夜鬼先輩」
星空では毎朝服装チェックがされている、つまり夜鬼君は服装チェックをパスした後にわざわざボタンを外した事になる。
「シゲ、相変わらず細かい所見てんな…プッ、服装チェックをパスしてからのワイルドアピールって」
さっきまでの怒りはどこにやら有詩は腹を抱えて笑っていた。
「意外と髪を結わえているゴムの色も朝の占いで決めてたりしてな」
「ちげーし、俺は占いなんて気にしないつーの!!」
これは触れない方が良かったのかもしれない。
「いや、宝飾品を扱っているんなら占星術の知識は邪魔にはならないと思いますよ。あっ、今日星空に転校してきた蒲田茂です。よろしくお願いします、夜鬼先輩」
今は年下なんだから、きちんと頭を下げて挨拶をする。
「変な外様が転校してきたな…友達の為に怒る将軍と友達を庇う為に将軍に噛みつく外様か…こっちこそよろしく頼むぜ」
夜鬼先輩は、毒が抜かれた様な顔で後頭部を掻いている。
「夜鬼さん、シゲは去年柔道で県大会の準決まで行ったから護衛代わりに使えますよ」
「おう、準決で瞬殺されたけどな。先輩、良かったら星空を案内して下さいよ。将軍が二人いてくれたら外様は腰巾着にしか見えないでしょ?」
ここまで来るまでの間、大分睨まれていたし。
「シゲ、腰巾着はあんなにでしゃばらないと思うぜ」
「腰巾着ってより、笑い袋の方が近いんじゃねえのか」
「ちょっ先輩、せめて頭陀袋にして下さいよ」
唖然とする女子をおいて盛り上がる男子…昔の有詩と一緒で夜鬼君も本音で話せる相手が欲しかったんだろう。
意外と姫や将軍は不便な立場なのかもしれない。
でもこの二人といたらフツメンからブサメン降格されそうで心配になる。
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