凛々しい先輩は弓道少女
ヤバい、絶対にヤバい。
このままじゃ、昼飯を一人で食べる事になる。
今のところ、まともにコミニュケーションがとれたのは佐藤くんと山本だけ。
しかし、その二人は食堂派らしい。
このままじゃ、気合いを入れまくって作ったいなり寿司弁当を一人で食べなきゃいけなくる。
しかも琴美に食われる事を想定した二人前の弁当。
このままじゃボッチな食いしん坊と思われてしまう。
星空はタブレット端末を使えるから校内でスマホは使えない…つまり有詩に助けも求める事が出来ない。
(あの状況じゃ琴美も有詩も俺と飯を食べる可能性は低い…昼休みに学校案内をされない転校生って寂しすぎだろ!?)
しかし、無情にも昼休みを告げるチャイムが校舎に鳴り響てしまった。
(頼む、みんな食堂に行ってくれ。外で弁当を食べるのもうまいと思うぞ!!)
俺の願いも虚しくクラスの大半は教室に残っている。
琴美と有詩は相変わらず取り巻きに囲まれているし。
(ない、俺に飯に混ぜてって言える勇気はない)
そんな時、教室の扉が勢いよく開けられた。
「シゲちゃーん、一緒にご飯食べよ」
教室に入ってきたのは有詩の姉の早紀さん。
突然やってきた金髪の美少女を見て教室がざわめきだした。
早紀さんも星空の姫の一人らしい。
いや、今の俺にとっては救いの女神だ。
「早紀さん、わざわざ来てくれたんですか?」
「小夏ちゃんから”茂は星空の事を分かっていないと思うから、一緒にご飯を食べてやって”って言われたんだ」
姉さん、グッジョブ!!
「さ、早紀さん。蒲田君はこのあと私が学校を案内しますから大丈夫ですよ」
いつの間にか琴美が俺の机に自分の机をくっつけてきている。
「うーん、私は小夏ちゃんに頼まれたんだよね。それにシゲちゃんに会いたいって人も来てるし」
まさかのモテ期到来?
そんな妄想していたら、いつの間にかざわついていた教室が水を打った様に静まりかえっていた。
「早紀、そいつが例の転校生か?ふむ、噂と違って大人しそうで安心をした」
そこにいたのはキリリとした顔立ちの少女、黒髪を結ってい凛々しい雰囲気の持ち主。
「シゲちゃん、紹介するね。私のお友達の伊庭弓美ちゃん。弓美ちゃんは風紀委員をしていて弓道部の部長さんもしているんだよ」
「蒲田と言ったな、よろしく頼む。確かに早紀の言った通り風紀を乱すタイプには見えないな」
ケンカをしてニコを退学になった転校生を風紀委員長がチェックに来ただけのね…俺がモテるわけないし。
「伊庭先輩も心配性ですね。蒲田君は”私”の幼馴染みですからなんの心配もいりませんから。さっ、蒲田君一緒にご飯にしませんか?」
琴美はそう言うが取り巻きの方達の目がめっちゃ痛い。
「ふむ、天気が良いから中庭でご飯を食べたらどうだ?ただし、私は食事は静かに食べたいタイプだ」
つまり、取り巻きは来るなって事だろう。
事実、琴美の取り巻きも有詩の取り巻きも波が引いた様にいなくなっている。
どうやらお嬢様お坊っちゃまは伊庭先輩の迫力に恐れをなしたらしい。
「それじゃお願いします。有詩お前も行くだろ?」
有詩は琴美がいれば着いて来る。
そして有詩には俺の防波堤になってもらう…姫二人と外様が飯を食べていたら荒波が来るだろうし。
教室を出る時、薬鳴君が
「弓美先輩は夏休み明けじゃないと出ない筈なのに…」
とか言ってたけど、同じ学校なら教室に来てもおかしくはないと思うぞ。
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有詩を巻き込んで正解だった。
どうやら伊庭先輩も姫の一人らしい。
実家は老舗の呉服店だそうだ。
「蒲田は料理をするのか」
「うちは両親が共働きだし、姉妹も忙しいですから」
姉さんは早紀さんとは児童劇団で知り合い、今は同じ歌劇団に所属している。
ちなみに姉さんは男役で中々人気があるそうだ。
「今日も五人分作ったのか?よくやるな。いなり寿司一つもらうぞ」
有詩と早紀さんの弁当は例のメイドさんが作ったらしい。
「いなりとかなら一人分も五人分も手間はそんなに変わらないんだよ。昨日、油揚げを煮て味を含ませておいたし、酢飯も作っておいたんだよ。良かったら伊庭先輩も食べませんか?」
琴美は俺が勧める前から食べて三種類をコンプリートしている。
「折角だからもらおうか。種類は何があるんだ?」
「紅生姜と胡麻と葉ワサビです」
「お勧めは葉ワサビだよ。でもシゲちゃんが一番得意なのはパン作りだよね。星空にもパンを作る専門の人がいるから案内してあげるね」
学校専門のパン職人ってどれだけセレブな世界なんだよ。
職人はどこかのベーカリーから出向してるんだろうか。
そして何故か無口になる琴美お嬢様。
受け狙いでこれを作っておいて安心した。
俺は一つのいなり寿司をそっと琴美に手渡す。
(琴美、これお前専用のいなり寿司。納豆入りだから後から歯を磨けよ)
納豆を酢飯を混ぜたやつをいなり寿司に入れてある。
途端に笑顔になるお嬢様。
「そう言えば有詩達のクラスにシゲちゃんの他にも転校生が来たんでしょ?あの二人どこかで見た事があるんだよね」
早紀さんが不思議そうに呟く。
七夕に戻ってくるって話どこかで聞いた事があるな。
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ピカピカに磨きあげられた広い廊下。
誰一人廊下を走っていないし、大声でダベっている生徒もいない。
備品一つとっても高級感が溢れまくっているそれが星空学院。
口に手を当てて笑う人やスカートを摘まんで挨拶をする女子生徒を初めて見た。
「ここが食堂、シェフが作ってくれるから美味しいよ」
メニューを見て驚いた。
「カツ丼もたぬきウドンもない?なんで鴨肉のソテーとかパスタがあるんだ?値段は良心的だけど、本当に学食かよ」
サラダやスープが何種類もあるし、俺の知っている学食とは大違い。
「茂さん、ここがベーカリーコーナーですよ。見た感じはどうですか?」
そこに置いていたのは一流ホテルで出てきそうなパンの数々。
見ただけで腕のある職人が厳正された素材を使って焼き上げたのが分かる。
…正直負けた、ヘコむ…確実に負けた。
「凄いな、手間隙かけた良い仕事だよ」
やっぱり、ここは俺が住む世界とは違う。
ちなみに星空のキャラは星にちなんだ名前がついています。
琴美は織姫の星が琴座だから琴美、有詩は牛とアークイラ鷲、早紀さんは織姫と牽牛を結ぶ鵲から、
それで今回出てきた伊庭先輩は射手座の読みを変えています
ちなみに茂の姉妹は蒲田行進曲からです




