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プロローグ 転生の薦め

川の向こうは恋愛ゲームな世界の連載になります

主人公の名前以外は変えました。

初のファンタジー以外の小説になりますので楽しんでいただければ幸いです

 小学生の頃は夢が叶えば幸せになれると信じていた。

 中学生の頃は一人の女性(ひと)だけを、ずっと愛していられると思っていた。

 高校生の頃は、大人として生きていくのは簡単だと高を括っていた。

 子供の頃からの夢だったパン職人になれたけど、幸せかと問われると素直には頷けない。

 何人かの女性と愛を交わしたけれど、未だに独身だ。

 三十才になったけれども、生活を維持していくのに四苦八苦している。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 県内に六店舗を構えるチェーン店のベーカリーショップ グラン・シャリオが俺の職場。


「シゲ、お前明日は休みだろ?もう上がっていいぞ」

 パン屋の朝は早い、仕込み担当の時は朝四時には出勤となる。 

 だから俺は寝れる時にはガッツリ寝ておく習慣がついた。


「店長、お先します。あまり無理しないで下さいよ」

 店長つまり管理職は残業代が出なくても長時間働かなくてはいけない。

 まぁ、管理職には程遠い俺にも残業代は出ないんだけど。


「おう、シゲお疲れさん。ゆっくり休めよ」

(田所さん、きつそうだな)

 店長をしている田所さんは俺にパン作りを一から教えてくれた恩人だ。

 田所さんはパン作りの腕が抜群だけれども、慣れない店長業務の所為で疲労が溜まっているだろうから心配になる。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 アパートに着く頃には、日がとっぷりと暮れて夜になっていた。

 今どき珍しい金属製の階段を上ると闇夜に靴音が響く。

 築四十年のぼろアパート、その一室が我が家である。

 

「ただいまー」

 侘しい独り暮らしだから返事が返って来たら怖いんだけれども、ついつい口に出てしまう。

 ワンルームの狭い部屋にはベッドとテレビ、そしてパン関連の本が並べられた本棚だけ…殺風景だけども、寝るだけの部屋だから充分だ。

 餓鬼の頃には当たり前だったけれど、ご飯仕度をして帰りを待ってくれている人がいるのは凄く幸せな事だと思う。

 パン職人に憧れて、故郷を出て十二年になるけど、このままじゃ故郷に錦の旗を飾れない。

 それどころか、人生の白旗を上げてしまういそうだ。

 蒲田(かまた)(しげる)、三十才独身彼女なし。

 仕事はベーカリーショップ グラン・シャリオのパン職人…給料安し。

 趣味は無し、趣味に掛ける時間も金も無し。

 早い話が将来に夢や希望なんてなし。

(現実逃避にはテレビが一番だよな)

 餓鬼の頃はゲームにも熱中出来たが、いつの間にやらハードが何世代も交代していて流行りに着いていけなくなって久しい。


『携帯恋愛ゲーム、星座の恋人達。七夕の日に再会する幼馴染み、そして燃え上がる恋心』

 テレビを着けると、携帯ゲームのCMが流れ始めた。


『僕だけのレディ。もう君を絶対に離さない』

 真っ赤なブレザーを着た金髪のイケメンがテレビ目線で囁く…絶対に、こいつとはダチになれないだろう。


『ずっと貴方様だけをお慕いしておりました』

 真っ白なセーラー服を着た長い黒髪の大和撫子が呟く…重すぎて俺なら逃げてしまう。

 そして何人ものイケメンや美少女が現れては消えていく。


(しっかし、CMを見るだけでも何かこっ恥ずかしいよな)

 もう学生のキャラには感情移入がし辛い年だから遊ぶ事はないと思う…本部のお偉いさんから招待が来なければだけど。


『携帯ゲーム星恋、七夕に再開した恋人達の運命は!?』


(運命は?って…プログラムされた通りだろ?勝ち組のイケメンを負け組のおじさんがプレイしても虚しいだけだよな)


 そんな事よりも俺には冷え冷えの発泡酒の方が大切だ。

 ビールなんて贅沢は言わない、発泡酒から芋焼酎の水割りの至福の流れ。

 摘まみはチーズか缶詰めで充分。 

(マジかよ…一本もなしか。高いけどコンビニに行くか)

 冷蔵庫を開けてみると、俺の腹と同じくらいに空っぽだった。


(ついでにお握りでも買ってくるか…最近のコンビニ商品は侮れないからな)

 デザートなんて下手なケーキ屋よりも旨いのがある。

 サンドイッチもお手軽な値段で、あの味を出されては冷や汗ものだ。


(日々精進あるのみ。その為には先ずは腹ごしらえだな)


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 コンビニの帰り道に奇妙な物を見つけた…いや、正確には奇妙な人間を見掛けた。

 派手なスーツを着た外国人の中年男性が街灯の下で占いをしていたのだ。


(上下真っ赤なスーツが似合うのは外国人だけだよな。俺が着たら猿回しの猿にしか見えないと思う)

 外角ギリギリストライクなフツメン、それが俺。


「そこの方、少し私の話を聞いて行きませんか?もし聞いてくれたら素敵なプレゼントを差し上げますよ」

 占い師は揉み上げから続く立派な髭を生えており、悔しいがハリウッド俳優並みに格好良い。

 何よりも嫌とは言わせない威厳があった。


「プレゼントってなんですか?出来たらキンキンに冷えたビールが良いんですけどね」


「例えば新しい人生なんてどうですか?希望と夢に満ち溢れた新しい人生なんかどうです?」

 …俺は一目見ただけでも、不遇な人生を送ってる様に見えるんだろうか?


「遠慮しときますよ。確かに他人様から見たら冴えない人生かもしれませんが、それなりに頑張ってますので」


「良いですね。やはり、貴方に目を着けたのは間違いじゃありませんでした。蒲田茂さん、貴方にはもうすぐ死んでもらって違う世界に転生してもらいます」

 占い師がニヤリと笑う、それだけなのに背中に冷たい汗が流れていく。


「何で俺なんですか?俺より才能がある奴や不幸な奴なんて五万といますよ」

 俺は幸せだと胸を張っては言えないが、自分が世界一不幸だなんて思う程、世間知らずではない。


「不幸だから転生?馬鹿を言っちゃいけません。そんな事をしたら飢餓やテロで苦しんでいる国の人を全員転生させなくちゃいけなくなりますよ。貴方が必要だから転生させるんですよ。言っておきますがトラックにも牽かせません、運転手さんが不幸になりますからね。どうせなら貴方の命をきちんと活用する為に、警察署の前で指名手配の殺人犯に殺されてもらいます」

 確かに、このまま行けば警察署がある。

 でも、初めて会った人間に死んでもらいますなんて言われる筋合いはない。


「ふざけんな!!」

 興奮の余り、思わず男の胸ぐらを掴んでしまう。


「暴力を振るいましたね…二十一時三十分神務執行妨害で逮捕、繰り返します。蒲田茂三十才、神務執行妨害で転生確定」

 占い師は何処からか取り出した煙草のセロハンをずらしながら話をしていた。


「そのネタは柳沢しん」「それ以上は危険ですから止めて下さいね。あっ、私に会った記憶や今の人生の記憶は必要な時に蘇りますので…それではグッドラック」

 呆然とする俺を尻目に占い師が両手を回しながら去って行く。


「ちょっと待てよ、俺は死ぬ気なんてないからな…あっ、すいません」

 占い師を追い掛け様としたら、誰かの肩とぶつかった。

 

「顔見たね!?」

 街灯の光を反射して男の手元で何かが煌めく。


(あれはナイフ?マジに殺人犯と遭遇かよ?警察署まで逃げ切ってやる)

 警察署の前に着いたと思った瞬間、背中が熱くなった。

 薄れゆく意識の中で、警察と男の怒号だけがやけにはっきりと聞こえていた。


感想お待ちしています

後、パン屋で働いた事がある人はあるあるやご意見を聞かせて下さい

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