天地創造
『創造の始まり』
「ヤハウェ、その庭どうにかしろよ」
「ん?」
ごろんと寝ころんでいたヤハウェ。
ヤハウェは、その言葉に視線を庭へと向けた。
「その庭、カオスすぎるだろ。マジねぇよ」
「あー…何も手ぇ加えてないからなぁ」
カオスと称された庭。
その言葉通り、庭には混沌と暗雲が立ち込めていた。
「…整理すっか」
ヤハウェは小さく、そう呟く。
そして、重い腰を上げた。
『1日目』
「暗すぎて萎えるな」
庭を前に、ヤハウェがそう言葉を漏らす。
「とりあえず、まずは明るくするかー」
そう言って、ヤハウェは庭に明かりを灯す。
すると、闇の中に光が浮かぶ。
「これでよし」
分たれた光と闇を見て、ヤハウェは小さく頷く。
「朝と夜、完成」
そう言って満足げな表情を浮かべる。
ヤハウェは光を朝、闇を夜と名付けた。
『2日目』
「どこから手をつけるかな…」
朝と夜ができた庭。
その庭を見つめながら、ヤハウェは悩んでいた。
「境目でも作るか」
朝と夜しかない庭。
ヤハウェは、その庭に境を付けることにした。
「これでよし」
境の下には水を、境の上には天を作った。
「空、完成」
そう言って満足げな表情を浮かべる。
ヤハウェは、天を空と名付けた。
『3日目』
「さーて、今日もやりますか」
朝と夜、空ができた庭。
その庭を前に、ヤハウェは気合を入れていた。
「んー、下が水ばっかってのはつまんねぇな」
豊満な水が占める境の下。
水しかないそれに、つまらなそうにそう呟く。
そして、ヤハウェは水のある場所とない場所に分けた。
「海と陸、完成」
水のない場所には、乾いた大地が現れている。
ヤハウェは水を海、大地を陸と名付けた。
「あ、そうだ。ここに何か植えるか」
ヤハウェは陸を見て、ふと思いつく。
その思いつきのままに、植物を植えた。
「青草と種を持つ草、実の成る樹もあれば十分か」
ヤハウェは、陸に様々な種類の植物を植えた。
「これでよし」
境の下の、海と陸。
その陸に植えられた植物。
それらを見て、ヤハウェは満足げに頷いた。
『4日目』
「整理整頓も、やり出したら結構楽しいな」
徐々に形になっていく庭。
その庭を誇らしげに見つめるヤハウェ。
「朝と夜が一緒ってのもなぁ…分けるか」
ヤハウェは大小2つの光を取り出す。
そして、その2つの光を空へ配置した。
大きな光を朝の空へ、小さな光を夜の空へ。
「小さい光だけだと、夜が寂しいな」
夜に物足りなさを感じるヤハウェ。
そのため、夜の空にさらに小さな光を無数に置いた。
「よし。朝と夜の分別、完了」
そう言って満足げな表情を浮かべる。
「太陽と月、星も良い感じだな」
ヤハウェは大きい光を太陽、小さい光を月と名付ける。
そして、夜に置いた無数の光の1つ1つを星と呼んだ。
『5日目』
「そろそろ、この庭にも生き物を住まわせるか」
ほぼ形となった庭。
その庭に、ヤハウェは生き物を住まわせることに決めた。
「海と空に、それぞれ住まわせるとしよう」
ヤハウェは2種類の生き物を見繕う。
水に群れる者と翼を有する者であった。
「海にはサカナ、空にはトリを」
水に群れるサカナを海へ。
翼を有するトリを空へ。
「たくさん子を産むんで、いっぱいに増えるんだぞー」
海と空に、生き物が満ちる。
その生き物たちに、ヤハウェはそう言葉をかけた。
『6日目』
「庭の整理も大詰めだな」
生き物が住みだした庭。
その庭を見ながら、最後の仕上げを行おうと考えた。
「陸にも生き物を住まわせて、終わりだな」
ヤハウェは陸に、生き物を住まわせる。
大地の獣と家畜、大地に這う者を。
「お前達もたくさん子を産むんで、いっぱいに増えろよ」
陸に溢れる生き物たち。
その生き物たちに、ヤハウェはそう言葉をかけた。
「しかし、増えるとなると生き物の世話をするやつもいるな」
そう考え、ヤハウェはふと思いつく。
「ヒトを創ろう」
ヤハウェは早速、大地の土でヒトを創りだす。
せっせと形にしていき、1人の男ができた。
「1人だと寂しいから、もう1人創るか」
ヤハウェはそう言って、男の肋骨を1本抜く。
その肋骨から、1人の女ができた。
「よしよし。良いかお前達、良く聞いてくれ」
ヤハウェは、男と女にまっすぐ視線を向ける。
そして、ゆっくりと言葉をかけた。
「お前たちがこの地を守り、生きる者全てを治めるんだぞ」
さらに、ヤハウェは言葉を続けた。
「あと、大地の草木、実を成す樹は全てお前たちの物だ」
ヤハウェは、草木や樹の実をヒトの食物とした。
また、全ての生き物の食物とも。
「でも、善悪の知識の樹の実だけは食べんなよ」
様々な植物を植えた大地には、数多の草木が育っている。
その中には、生き物が口にしてはならない実を成す樹もある。
ヤハウェは最後に、そのことを男と女に注意した。
「それじゃ、元気に暮らせよ」
陸へと足を付けた男と女。
その2人のヒトに、ヤハウェはそう言葉を向けた。
「しっかし、我ながら上出来だな」
すっかり整った庭を見渡すヤハウェ。
そして、ひどく満足した表情を浮かべた。
『7日目』
「まーた、だらだらしてんのか?」
寝ころぶヤハウェに、そんな言葉がかけられた。
「いやいや、庭を見てみろって。ちゃんと整理したんだぜ」
「阿呆。すんのが当たり前なんだよ」
庭を指さし、誇らしげに語るヤハウェ。
しかし、その言葉は容赦なくばっさり切り捨てられた。
「…て、ヤハウェ。お前、ヒトを創ったのか?」
「ん?あぁ。生き物の世話をさせるのに良いと思って」
「まさか、知らねぇのか?ニュース見ろよ」
ヤハウェの言葉に、呆れたといった声が向けられる。
ヤハウェは、一体何だと首を傾げた。
「ヒトってのは、始めは良いが段々と言うこと聞かなくなんだとよ」
「マジか」
「おう。この庭もその内に荒れてくるだろうぜ」
気の毒そうな視線を受けるヤハウェ。
ヤハウェは寝ころんだまま、つい昨日整え上げた庭を見た。
「…っま、そうなったら全部洗い流すさ」
それだけ言って、庭から視線を外す。
そして、作業の疲れを癒すため、今日1日休息を取るのだった。
天地創造、完了。