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第二夢 異界訪問~河童の季節~

 窓を開けると、そこは見知らぬ土地だった。空は赤く、草は緑ではなく茶色。変わって土が一面緑色だ。私は、もしかすると、一夜の間にも新手の苔か何かに汚染されたのかもしれない。そう考えて、窓から身を乗り出し、胸ポケットに入れてあったペンを地面へと突き刺して穿ってみた。

 やはり緑色だ。いや、湿気が混じっている分より深い緑色になっていた。私は、ペンについた僅かな土を指で揉みほぐした。粘土質の、柔らかい土だ。捏ねれば捏ねるほど、指にまとわりつく。しかし、土は土だ。感触までは変わっていないことに、私は安堵の息をついた。

 身を乗り出したついでに、辺りをうかがう。私の家は、いわゆる建売住宅というやつで、どこにでもありそうなものだ。そして、我が家の周りには、同じような建売住宅が並んでいたはずなのだが、まったく違っていた。

 身体をゆっくりと戻すと、玄関へと歩いて行った。どうやら、我が家の内装までは変わっていないらしいが、外装は分からない。というのも、隣の木下さんの家は、すっかり蝉の抜け殻のような建物に変わっていた。あれでは、とてもじゃないが盆地であるこの地域の冬は越せまい。底冷えがして、家にいてなお肌が痛むほどの寒さなのだ。あのような、薄く、そして六本の足で高く床を持ち上げていては、とてもじゃないが無理である。

 木下さんさえよければ、家の使い古しのファンヒーターを一台、貸してあげようかと思う。いや、あの変わりモノの木下さんのことだ。私が善意で声をかけたとしても、容易くは頷いてくれないだろう。どうせ、一日いくら取るつもりだい。などと、不必要に訝しがられるに決まっている。ばかばかしい。

 そんなことを考えながら、我が家の玄関についた。さっそく、ドアを開け、我が家を下から眺める。どうやら、何も変わるところはないようだ。再び深く安堵すると伴に、少しばかり落胆もした。こんなに世界が変わっているのだから、私の家も少しは変わっていても良いだろうに。我ながら、人とは勝手なものだ。などと、悟りめいたことを呟きながら外周を回ってみる。おもしろいものでも、見つかるかもしれない。

 玄関から時計回りに、回ってみる。土を踏む足の感触もいつもと変わらない。家の東側に出たところで、ずんぐりとした背中が垣根越しに見えた。こりゃ、増渕さんに違いない。そう確信した私は、今日も芝の手入れですか。しかし、土と芝の色が入れ換わってしまった今となっては、いっそのことすべて引っこ抜いた方が早いような気がしますなぁ。と、心持声を落として話しかけた。

 この増渕という男。らっきょのような顔をした奥さんとの間に、梅干しの種のような子どもを一人儲けている。本人はいかにも気の弱い、仕事でもやっかいごとを押し付けられている様な、優しそうな風態をしており、そんな彼の唯一の趣味が庭の手入れなのだ。いつも、芝を綺麗に手入れして、どうです。と聞いてくる。どうですもこうですも、御青いですね。としか答えようがないのだが、その時の笑顔だけは、本当に輝いているのだ。しかし、今はこの有様だ。私でなくとも、不憫に思うに違いない。同時に、私の気の利かせたジョークにも気がついて欲しいと思う。

 増渕は、いつものようにのそのそと上体を起こすと、ゆっくりと背後にいた私の方へと顔を向けた。あらかじめ断っておくが、私は物事には動じない方だと自負している。どれくらい動じないのかというと、まず突然まったく変わってしまった世界を目の前にしても、このように冷静さを失うことはしない。きっと、目の前に突然イエスと御釈迦様が現れたとしても、粗相のないようにお茶を出すくらいのことは可能だろう。

 とにかく、そのような精神性を持つ私をして、その時の増渕の変わりようには度肝を抜かれた。一体全体どうしたのか。こちらを向いた増渕の肌は、黄金に輝き、目は深い翡翠色。そして、帽子の下から見え隠れする髪は銀色ときたもんだ。これで顔のパーツまで変わっていたのならまだ救いはあったろうに、悲しいほどまでに気の弱そうな増渕のままなのである。

 やぁ。増渕はそう言っていつものように片手を上げた。私も、ドギマギしつつ片手を上げる。増渕は、私のよそよそしい態度に眉をひそめたが、すぐに両手を広げこう言い放った。

「どうです。この芝は」

 お前はそれしか言うことはないのか。朝自分の顔を鏡で見なかったのだろうか。それとも、らっきょ夫人は何も言ってくれなかったのだろうか。私は、めまいを感じつつも、こう答えた。

「御青いですね」

 どうやら私もそれしかないらしい。増渕は満更でもなく頷くと、またいそいそと作業に戻った。なんと、ばかばかしい。こんなにも世界が変わってしまっているのに、草をいじるしか能のない奴は放っておこう。そのうち、この世で最も動じなかった男として腰をかがめた銅像でも建ててやる。

 私は丸まった増渕の背を後にまた歩み始めた。そして、五分ほど経って家の北側、裏手に出た。

 私はそこまで来て、しまった。と、思わず舌打ちをした。高橋夫妻だ。遊び歩いて滅多に家にいないはずの二人が、今日に限って在宅らしい。ちょうど、高橋夫妻の家(ここら辺では珍しい昔ながらの立派な日本屋敷だ)にある縁側の前を垣根越しに通ることになるのだが、中で何やら言い合っている声が聞こえた。

 この夫婦、まだ年は若く、子どももいない。両親がここら一体の地主であったため、裕福である。私からしてみれば、そのせいで旦那は定職にも就かずに遊び歩き、それに愛想を尽かした妻も遊び歩くことになるのだ。本当に人の人生とはわからぬものだ。いくら財があったとしても、それらを有効に使いこなせなければ、結局仇となってしまう。この夫妻の在り方は、案外私にこの世の無常や真実を見せてくれているのかもしれない。

 まぁ、だからといってこの夫妻のことを好きにはなれないのだが。

 私は身を低くして垣根を影にその場を通り過ぎようとした。私はこそこそと足を動かし、そして大声で呼び止められた。高橋夫妻の旦那だ。この男がまた脂ぎったまん丸顔に、海藻を頭にのっけた様な髪形をしており、一見すると増渕と同じくらい気が良さそうに見えるのだが、怒りだしたら手がつけられない。どのように手がつけられないのかというと、別段暴力を振うとかではなく、周りにいる人を巻き込むのだ。

 この間など、近くの鮮魚店に珍しく夫婦仲良く買い物に来たかと思うと、イサキはやれ刺身が一番美味い、いや煮付けこそ至高だと、喧嘩を始めた。なぜか理由はわからないが、そういうとき決まって二人の側にいるのは、いつも私である。

 そのときも、私は自分の酒の肴を調達してさっさと帰りたかったにもかかわらず、こっちの意志は斟酌に入れず、大きな声で話しかけてきた。

「これはこれは、奇遇ですね。ところで、僕にイサキは一番刺身が美味いと教えて下さったのはあなたでしたよね。煮付けなど野蛮人のすることだと」

 煮付けが野蛮だとは始めて知った。この間は、牛肉に火を通すのは野蛮だと言っていた。まったく、あべこべである。もしかすると、この夫妻の辺りだけは昔から変わっていたのかもしれない。とにかく、私は身の覚えのないことで夫婦げんかに巻き込まれてしまったのだ。

 困った私は、チラッと奥さんの方を見た。もしかしたら、さすがに助け船を出してくれるかもしれないと。しかし、類は友を呼ぶと言うのか、もう我慢できないと言う風でこう言い放った。

「あなたが、あのときイサキは煮付けが最高だとひとこと言ってくれていれば、こんなことにはならなかったのに」

 驚きである。仮に私がイサキは刺身が最高だよ。と、旦那に伝えたことが事実だったとして、それがそんなにも悪いことだろうか。こんな目に涙をためられ、まるで親の敵のように睨めつけられることだろうか。おかしい、それは理が通りませんよ。私は思わずそう言うとしたが、感情が高ぶった女性に何を言おうと無駄である。

 私はいっそのことアジを進めてみた。鯵だって今が旬である。美味しいことには違いがない。私がこう言うと、二人はキョトンとした表情になって、なるほど、さすがだ。などと私を褒め立て、鯵を二匹購入し、さっさと帰ってしまった。ばかばかしい。どうせ帰ってから、また生で食うのか、それともマリネにするのかなどと言い合いを始めたに違いない。

 これはほんの一例である。私は少なくない頻度で二人のどうでもいい喧嘩に巻き込まれては、苦し紛れの返答で事なきを得ているのだ。この夫妻との付き合いは一事が万事このような感じなものだから、私が二人になるべくして関わりたくないと考えるのは、不自然なことではないと思われる。

 そして今、必死の努力も空しく、こうしてまた掴まってしまった。私専用のレーダーでもついているのだろうか。兎にも角にも旦那は縁側から顔を出し、垣根の向こう側にいる私を正確に見据えていた。

 やぁやぁ、高橋さん。私は何事もなかったかのように挨拶をする。増渕とは違い見た目には何ら変化がないことに安心したついでに、先日の鯵は美味しかったですかな。と付け加えておいた。

「おぉ、これはいいところに来て下さいました。聞いて下さい」

 聞いてやろうとも。ここまできたら、みょうちきりんな答えでも答えなければ、おさらば出来ないのだから。

「私の妻が妊娠したのです」

 なんと。おめでたい。とするならば、家の内より聞こえていた大声は、喧嘩ではなく歓喜の声だったというわけだ。私はすぐさま御祝いの言葉を口にしようとしたが、よほど嬉しかったのか、旦那は口早に話し始めた。

「これも本当に、河童さまのおかげです。あの神々しい姿。私たち夫婦の日ごろの行いを正してもらうばかりでなく、こうして子宝にも恵まれたのですから」

 我が耳を疑った。私は興奮して話を続ける旦那を珍しく大声で制した。河童というのは、昔話とかに出てくるあの河童のことだろうか。旦那は怪訝そうに私を見つめつつも、身を近づけ小声で語りかけてきた。

「あの河童などというのは、河童さまに失礼ですので、とてもじゃないが口にできませんが……」

 あの河童で御座います。まるで、周りに聞かれると困るかのようだった。この傍若無人な男がここまで畏まるのだから、只ものではないのだろう。それに子どもを授けたとあっては、仏力か神通力か、それとも妖力なんぞを持っているに違いない。

 私は、うんと唸って質問を続けた。

「ここら一体の変わりようですか。ははぁ、増渕さんの姿を始めて見たのでしょう。あのような、カラフルな姿になられたのもつい三日ほど前でしたので、驚くのも無理はありません。いえ、私は止めておけと言ったのですよ。そんな姿になったところで、あなたに益はありませんよと。しかし、増渕さんときたら私は周りから浮きたいのです。などとおっしゃる。それならば、いっそのこと風船にでもしてもらえば良かったのです。あの、ずんぐりした風体によく似合っているでしょうよ」

 ホホホッ。と口元を隠して、さも上品そうに笑う。どうやら品性を直してほしいとは願わなかったと見える。が、今はそんなことにかまってはいられない。私は真面目な顔で、風船に成りたいと願えばしてもらえるのかね。と問うた。人を風船に変えることができるのならば、なるほど空を赤にするのも、草木と土の色を入れ替えるのも容易いことだろう。

「してもらえますとも。河童さまに不可能はございませんゆえ。はい。河童さまはいつごろから現れたかですって? それは異なことをお聞きなさいますね。河童さまを連れてきたのは、あなた様ではないですか。それに、先ほどから不思議なことばかり聞きなさる。河童さまのお力については、あなたが一番よく知っていらっしゃるでしょうに。何をそんなに驚いていらっしゃるのです。鳩が猟銃を向けられたような顔をなされて。なに、覚えがない? これまた御冗談を。いえいえ、ご機嫌を悪くなさらないで下さいね。あなたに機嫌を損ねられてしまったら、もう河童さまにお願いすることも出来ませんから。正直に、嘘偽りなく答えますよ、僕は」

 旦那の頬が歪にひん曲がった。一体どう邪推したのか知らないし、推し量りたくもなかったので、河童さまとやらが現れたときの経緯を急かして吐かせた。するとどうやら、三カ月ほど前、私は一週間ほどふらりとどこかへ消えてしまい、そしてふらりと戻って来た時には、その隣に河童がいたそうなのだ。

 なんだそれは。まったく身に覚えがない。三カ月前と言えば、いつも通り会社に行って仕事をして帰る、の繰り返しだったはずで、一週間も家を離れることなどできるはずもない。まったく何をのたまっているのか、この旦那は。人をバカにしているとしか思えない。

 私は、ふつふつ沸いてくる憤りを持ち前の冷静さで抑えつつ、さらに質問を加えた。それでは、あなたは河童が一緒に帰ってきたことに対して何の疑念も抱かなかったのかね。そう問うと、旦那は一瞬間をおいて大声で笑い始めた。

「こりゃしっけい。しかし、今日のあなたはおもしろいですなぁ。河童になんの疑念を持つと言うのです。河童なんてそこいら中にいるじゃぁありませんか。この間も、近所の悪童が尻の穴に手を突っ込まれてひぃひぃ泣いておったではないですか。しかし、あれも傑作でしたなぁ」

 先ほどまでの上品な装いはどうしたのか。急に唾を飛ばして笑い始めた旦那に、私は大いに混乱した。この世界の住人は、まったくもって不安定である。蝉の抜け殻を家にしてみたり、肌を黄金にしてみたり、河童などというものをまるで野良犬のように自然に扱う。常軌を逸しているとしかいいようがない。全員が精神を病んでいて幻想でも見ているのではないか。

 私が深刻な顔で俯いていると、また何を勘違いしたのか小声でこう呟いた。

「分かっていらっしゃると思いますが、あの河童さまだけは、他の河童どもとは雲泥の差があると私は考えています。理知的な瞳、立派なひげ、すらりと伸びた肢体。どれをとっても、河童の総大将に相応しい御姿でありましょう」

「では、その河童さまとやらは、河童の総大将であらせられるのかね?」

 わざと慇懃に聞いてやった。旦那は目を見開くと、私のようなものがそのような判断はできませぬ。あくまでそれほど神々しい御方だと言うことです。といいつつ恭しく頭を下げた。

 私はいい加減辟易して、この一寸の益にもならぬ会話を終わらせることにした。ただ最後に、河童さまの居場所だけを尋ねた。旦那の話しによると、近くの神社に陣取っているらしい。私は、すぐにでもその河童さまに会いに行くことにした。十中八九、こんな奇天烈な世界になってしまったのは、その河童さまとやらが原因であろう。明日、会社が始まる前までに元に戻してもらうのだ。会社に行って、取引先の相手が河童などだったら目も当てられない。

 私は家を抜け、道路に出て河童さまが陣取っているという神社へと向かう。途中、歩きながら景色を見ていると、一匹のメス河童と出会った。その河童は私を見るなり、しなをつくりながら妙に媚びた風に話しかけてきた。

 目は大きく、顔は丸い。頭の皿は水気に満ちており、きっと河童の中では相当な美人に相違ない。ただ、人間の私から見たら毛の抜けた子ザルにしか見えぬ。

 メス河童は、窓ガラスを引っ掻いたような声を出しながら、しきりに何かを話している。しかし、私には一切理解できない。それは河童の言語なのか、私には意味のない連続音にしか認知できないのだ。

 しばらくして私がまったく応答しないことに業を煮やしたのか、それまで媚びたような態度を取っていたメス河童の態度が急変した。俄かに私の腕を掴んだかと思うと、すぐ隣にある川へと引っ張りだした。

 これには私も狼狽した。川へ引っ張り込むつもりか。まてっ、と短く言ったがまったく意に介さない。もしかすると、こちらの言語も向こうには通じないのかもしれない。手を振りほどこうとしたが、これも無駄だった。しっかりと握りこまれた五指は、成人男性のそれより強く、ペンチでも持ってこない限りビクともしないと感じられたのだ。

 そうこうしているうちに、いよいよ川の流れを肌で感じられるほどになってきた。追いつめられた人間とは何をするか分からない。意を決した私は、河童の背中を思い切り蹴飛ばした。幸い、見た限り甲羅のようなものは背負っていない。

 これならば河童といえども隙ぐらいはつくれるのではないか。そう思った矢先、その願望は鈍い脛の痛みとともに膨れ上がっては、すぐに消えてしまった。甲羅はなかったが、その代わり表皮が岩のように固い。思わず蹲りそうになったところで、首根っこを掴まれる。いよいよもってもうダメだ。こんなわけのわからぬ場所で、何も理解せぬまま死ぬのか。思えば、なにも成し遂げぬ人生だった。意気地のない人生だった。昔思い描いていた夢もいつの間にか忘れ、“生きるため”ということを言い訳に、より楽な方へと流れるようにして生きてきた。そんな私には、川に流されおっちんじまうのが妥当なのかもしれない。

 河童の足が水面を貫く音が聞こえた。次いで、ひんやりした感覚が足元、膝、腰、そして首まで伸びてきて、最後頭のてっぺんまで覆ったとき、声が聞こえた。

「聞こえますか? 驚かせてすいません。私たちの声は、水の中でないと正確に伝わらないものですから」

 夏の湿気を払う、風鈴のような声だった。私は恐る恐る目を開けた。その声の主は、先ほどのメス河童に相違なかった。

「しかし、今までどこに行っていたのです。大将は大変あなたのことを心配していました。私たちのことも忘れているようですし」

 大将? 大将とは、旦那の指す河童さまのことであろうか。きっと、そうに違いない。私が行方不明であったなどという聞き捨てならないことも聞こえたが、この際どうだっていい。とにかく、私はその大将とやらに会わなければならない。私は、河童に向けて必死に口を動かした。その度に肺から空気が抜けて苦しくなっていったが、構うもんか。ここは意気地の出し時だ。

 私の言葉が通じるのか、メス河童は静かに頷いている。そして、残念そうに、気の毒そうに口を開いた。

「大将は、昨日この川を流れて行ってしまいました。あなたのことを、ずっと心配していたのですが、もう時期だからと言って。この町に残った河童は私で最後です。皆、大将の後を続くように流れて行きました。かく言う私も、もう流れようと思ってここに来ていたのです」

 全身から力が抜けた。メスの河童も、もう腕を離していた。水面から顔を出す。爛々と輝く太陽。赤い空から降り注ぐその力だけは、変わっていないように感じた。

 メスの河童も顔を出して来た。一声鳴いたが、水面に出ているので何と言ったのかは判別がつかなかった。そして、申し訳なさそうに私を一瞥して川を流れて行く。背中には、いつの間にか甲羅が出てきていた。甲羅が川のささやかな流れを増幅して推進力を得る仕組みらしい。

 私は、すいすいと流れて行く河童を見て思った。季節は夏。河童が川流れをする季節。ことによると、この一連の出来事の真相も川に流してほしい。そういうことだろうか。

 ……まったく、ばかばかしい話しもあったものだ。

 私は、川の流れを身を投じ、素直に笑うことにした。

久しぶりの投稿です。諸事情によって、やっと活動再開できました。今後とも、よろしくお願いします。

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