B.SⅠ
日が暮れてすぐの、青い暗さに支配された部屋に一人の少年がいる。
彼はベッドで仰向けになり、特に何をするワケでもなくただ天井を見詰めていた。
トトトトトト
階段をかけ上がってくる、テンポの良く軽い足音が彼の部屋にも響く。
この足音は間違いなく妹だ。と、少年は思いながらベットから体を起こす。
「お兄ちゃん、パーティー始めるよ。」
とても楽しそうな表情でそう言いながら部屋に入ってくる妹。今日は妹の8回目の誕生日なのだ。楽しくて仕方がなくてもおかしくはないだろう。
妹に続いて階段を降りる少年。降りてすぐそこの部屋がダイニングであり、今日はパーティー会場でもある。
「さぁ、冷めないうちに食べよう。」
これまた満面の笑みで言う髭の男。所謂父親だ。
テーブルの上には普段はお目にかかることすらままならないご馳走が並んでいる。
「早く早くっ。」
既に自身の席について、兄も席につくように急かす少女。まだ床に着かない足を嬉々として縦横無尽に振っている。
「ハッピーバースデイ!」
――――――
幸せな時間とは瞬く間に過ぎ去るもので、やはりパーティーの時間も振り返れば一瞬だったように思える。
「さて、じゃあプレゼントを渡すぞ?」
そう言って席を立った父親はダイニングから出ていったが、間も無く戻ってきた。その手には大きな箱が抱えられている。
「前から欲しがってたろ? 新しい……」
突如男の表情は一変した。満面の笑みだった彼の顔には、何故か絶望が映っている。
「どうしたの? お父さん。」
不思議に思ったのか、少女は席を立ち父親の下へと歩み寄る。
「く……な……。」
何が言いたかったのか不明の言葉だけを残して彼は倒れた。
その後ろには赤黒い液体がベッタリと付着した長い包丁を持つ人影が。
「……へ?」
次の瞬間には、その包丁は少女の顎から脳を貫いていた。
「………………。」
すっかり腰の抜けてしまった少年。言葉を発することも出来ずにただ迫り来る死を直視していた。
「……貴方も悪いのよ。」
首を貫く包丁。
そして目の前には見慣れた天井が広がっていた。
イヤな汗をこれでもかというほどかいている。
カーテンの隙間から外を見れば、独特な暗い青が世界を包んでいる。
トトトト
不意に聞き慣れた、テンポが良く軽い足音が彼の部屋にも響いた。
そのテンポの良さが足音の主の心境をよく示していた。