側室、夜会にて華麗にデビュー 2
約2年振りの更新。
凍結していたにも関わらず、ブクマして下さった皆様には感謝しかありません。
本当にありがとうございます。
煌びやかな広間には、色取り取りの衣装を着た女性達が華麗に舞う。
誰もが一時の夢を求めて踊り明かす中、ただ一人チェレッチアだけは美味しそうに食事をしていた。
「あ、これ美味しい」
今夜の為に用意されたお菓子を食べては、満面の笑みになるチェレッチアに、会場の貴族達は影で笑う。カシムの側室なので表立って邪険にはしないが、自尊心が高い貴族はチェレッチアを田舎者だと嘲笑っているのだ。
「チェレッチア」
「陛下!!」
挨拶回りが終わり、チェレッチアの下に来たカシム。
すると先程まで笑っていた貴族達は、逃げるように離れていく。変わらない貴族達の様子に思わず舌打ちをしたくなる。
「一人にしてすまなかったな。楽しんでいるか?」
「はい!! とっても美味しいです!!」
「そうか……」
周りの視線など気にもせずにお菓子を頬張る姿に安堵し、改めて貴族達の様子を見る。
遊牧の民の出身だということだけで、差別的な態度を取る貴族。政治に関わる者達にはチェレッチアがどれ程貴重な存在なのかも知らずに。
外見しか見ず、自分達の私欲にしか興味がない愚かな貴族が、未だその権力を振りかざし続けている現状をカシムは歯痒く思う。
帝王という権力を使えば簡単に身分を剥奪出来るが、それでは何も変わらない。寧ろ敵を増やすだけだ。
今は地盤を固め味方を増やし、情報をかき集めるしかない。周りから取り込み時を見て一網打尽にする為にも、今は泳がしておく。カシムは冷徹な目で賑わう広間を見つめていた。
「陛下」
「ん? なんだ」
「……はいどうぞ」
手渡されたのは、蜂蜜がたっぷり掛かった一口サイズのマフィン。にっこり笑うチェレッチアに押され口に入れると、
「旨いな」
「よかった!! 笑ってくれて」
「?」
「さっきからずっと眉間に皺を寄せてましたから心配しました。そんなに考え事ばかりしてたら疲れちゃいますよ?」
気を遣わなければならないのは自分なのに、逆に気を遣わせてしまった事に苦笑いしてしまう。優しい子だ。どうかこの腐った階級差別に染まらないでくれ、と願うカシムだった。
外来から来ている客人に挨拶すべく、またカシムはチェレッチアから離れた。それをチャンスだとばかりに、ある団体がチェレッチアに近付く。
「お初にお目にかかります、チェレッチア様。私、コーネリア・リフレインと申します。以後、お見知りおきを」
華やかな深紅のドレスを纏うブロンドの美女。美しい髪を靡かせ、豊満な胸を強調したその姿は異性を魅力する。コーネリアは妖艶な笑みを浮かべ、
「もっと早くご挨拶したかったのですが、何分チェレッチア様はお早くご就寝してしまうみたいなので」
遠回しに早く寝てしまうお子様だと言っているようなもので、コーネリアの後ろに付き従う取り巻きの女性陣達とクスクス笑う。
「初めまして! 私、チェレッチア・グタサンです。態々挨拶しに来て下さってありがとうございます。どうぞ宜しくお願いします」
嫌味も何のその。満面の笑顔で頭を下げ挨拶をするが、その挨拶に毒が入っているのに気付かない当の本人。
「なんと失礼な! いくら利益のある部族の娘だからといっても、所詮は田舎者。貴女事きがコーネリア様を愚弄するとは何と愚かな!」
「全くですわ。本来なら貴女の方からコーネリア様に挨拶をせねばならぬと言うのに……これだから田舎者は」
チェレッチアとコーネリアの間に入るように、二人の取り巻きがチェレッチアの前に立ちはだかる。蔑むような目で見下し、田舎者と罵り、扇子の下で嘲笑う。
コーネリア・リフレイン。カシムの第三側室であり、伯爵家の長女である。もって生まれた美貌と肉体で、カシムの寵愛を欲するも相手にしてもら得ず、その寵愛は格下の平民からの成り上がりに取られたとなってはプライドが許せなかった。幾度も九番目側室のニーアに嫌がらせをし、後宮から追い出そうとしていたが、余計にカシムとの距離が出来てしまう始末。
そんな中に突如現れた十八番目の側室。田舎者だと聞いたが、独自の医療技術と幅広い情報網を用いて、どの国にも属さない独立した民。
その情報を欲っし、幾度も各国々が遊牧の民を手に入れようと交渉したり戦争まで仕掛けようとしたが、先に読まれ裏を掛かれ、戦いに有利な場所へと誘導され一網打尽にされる。深傷を負った兵士達を癒やそうにも、薬の流通を止められ他の国から高く買い取らなければならなくなり、仕掛けた国は深く手傷を負ったのだった。
その噂が各領土に広まり、『遊牧の民には迂闊に手を出してはならない』と堅く決められて早数百年。何処にも属さなかった筈の遊牧の民が、ベイグラディア帝国に嫁いで来たのだ。遊牧の民は弱体化したのでは? という噂が広まり、最強と言われた部族を見下すような目で見る輩が増えてきている。
その一人がこのコーネリアの一族であった。
「いくら利益ある部族だからと言っても、それは過去の話。この後宮に入ったからには、この国の習わしに従わなくてはならなくてよ?」
「うん、ありがう!」
「……わかれば良いのよ」
遊牧の民の後ろ楯など無価値だと言ったのにも関わらず、チェレッチアが満面の笑みで御礼を言った事に拍子抜けしたコーネリア。
「この娘、頭が悪いようですわ」
「あんなヘラヘラした顔では、陛下もすぐ飽きてしまいますでしょう。コーネリア様の敵ではありませんわ」
扇子の下でボソボソと耳打ちする取り巻きに同意するかのように溜め息をつく。
新しい側室を寵愛するのではと、早目に釘を打たねばと思い話し掛けたのも無駄だったようだと感じる程に、目の前に居るチェレッチアはコーネリアの敵になるような要素は一つもないと思ったのだ。
ならば時間の無駄でしかなく、早々に立ち去ろうとしようとした時、コーネリアの目に忌々しい女性が映る。
「ニーア・ブラウジー!」
会場の入口にそっと花咲ように佇む、儚げな印象を持つ一人の女性。
名は、ニーア・ブラウジー。
この後宮でただ一人、カシムの寵愛を受ける側室である。
コーネリアのような注目を浴びる派手な美貌ではないが、淡い水色の真っ直ぐで長い髪と整った顔立ち、清楚な白いドレスが儚げな印章を持たせる。男性ならば守ってやりたいと思わずにはいられないだろう。
「?」
「ふん、いくら貴女が珍しい部族であろうと、陛下のお心はあの女の物。今は優しくして頂いているようですが、すぐに放置されますわよ」
「あの女って……今入ってきた空色の髪の人のこと?」
「……ええ、そうですわ」
悔しげに顔を歪ませ、扇子を折ってしまうのでわないというぐらいに握り締める。
何故コーネリアがそんなにも憎しみの目で見るのか分からず、首を傾げもう一度ニーア・ブラウジーに視線を向ける。
「綺麗な人」
「っ、私の方が何倍も美しいですわ!」
「そうですわ。コーネリア様より美しい人はおりませんわ!」
チェレッチアの言葉に怒りを露にし、思わず大きな声を上げてしまう。貴婦人には相応しくない事だとしても、コーネリアの気持ちは、想いは止まらなかった。
「私の方が綺麗で、陛下の事を愛していますのに。親や家の為ではなく、幼い時からずっとお慕いしていたのに……」
王妃の座は確かに欲しかった。だがそれ以上にカシムの愛が欲しかった。溢れだした想いに涙が零れ落ちていく。その姿にチェレッチアは、
「コーネリアさんも綺麗だよ」
持っていたハンカチで涙を脱ぐってあげ、満面の笑みを向ける。
「私ね、恋ってわからないの。お父様に言われて嫁いで来たけど、カシムの事好きだよ。だけどそれはきっと、貴女とは違う好き。私はカシムが誰かと仲良くしても嫉妬しないもん。だから凄いなって思う」
「凄い?」
「涙が出ちゃうぐらい好きな人の事を想えるコーネリアさんは、とっても綺麗で凄い人だよ。」
「―――っ!」
中途半端ですが此処で切ります。長くなりそうなので。
まだまだ続くよ女の戦い…
後半は明日予約済みです。(本当です!)
読んで下さりありがとうございました。