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側室、狩りに出る


更新遅くなってすみません。お気に入り登録ありがとうございます。



  

 側室の仕事は子を作る事である。例え世継ぎが生まれていたとしても、この先何が起こるかわからない。病死、戦死、暗殺。後継者は多い方がいいのは確かだが、その分危険でもある。 各が野望の為に子を利用しようとする者が必ずいるからだ。王位継承権を巡る内乱はどの国にもよくある事だった。

 そんな危険を省みず、帝王の子を欲するのは帝王への愛故か、権力の誇示の為か…理由は様々。今現在も、妃同士の目に見えぬ戦いは起こっているのだ。




 そんな血生臭い戦いから掛け離れたように、今日ものんびりと過ごす側室チェレッチア。毎日が平穏過ぎて退屈していた。


「…暇…」

「何かご趣味でもなさっては?」「趣味、趣味かぁ。」


 草原で過ごした日々はただ生きる事に必死だった。毎日が厳しい労働と、兄弟の面倒見で一日があっという間に終わっていたのに。城での生活は生温く、一日の時間がとても長く感じ気怠くくなっていた。


「他の側室さん達は何をしているの?」

「御自身を磨いております。」

「磨くって…お風呂?」


 自分と同じ立場の側室。退屈な日々をどう過ごしているのか気になるのか、期待の眼差しでユウリを見れば、


「入浴で肌のお手入れは当然の事です。保湿成分の高い入浴剤が入った湯舟に浸かり、入浴後のオイルマッサージや爪の手入れ、美容パック等など。御自身を輝かせる為には努力も必要ですから。」

「へ、へぇ…」


 期待していた答えと違い、若干引き気味のチェレッチアを余所に、ユウリは熱心に話し続ける。


「その他にも流行のお化粧や香水を常に調べ、舞踏会に出席する為のドレスを毎回新調しております。」

「え、毎回?勿体ないような…」

「陛下の側室ならごく当たり前な事かと。みすぼらしい格好では、陛下に恥をかかせる事になりますから。」

「あー、そっか。陛下の為に綺麗でいなきゃいけないんだ。」

「その通りです!!」


 鼻息を荒くし微笑むユウリ。実は彼女、仕える主を着飾る事が大好きである。自分の手で美しく輝かせたあの達成感は、なんとも言い難い。だからこそ、チェレッチアには多少の不満を持っているのだ。


「是非チェレッチア様も…」

「んー、でも興味ないからいいや。そういうのは他の側室さん達に任せよう。舞踏会とかそんなに行かないし。」

「………そうですか。」



 ユウリが項垂れたのは言うまでもない。



「ならば、チェレッチア様が好きな事をなさっては如何でしょうか?」

「好きな事…」

「歌でも踊りでも。此処ではどんな習い事も習えますから。」


 少しでもおしとやかに、慎ましく。チェレッチアが嫁いだ当初からユウリは専属の侍女であり、日頃振り回されてたユウリにとって、それは切なる願いだった。


「狩りかな。」

「か、狩りぃっ!!?」

 まさかの狩り。

 さすがのユウリも予想外の答えを出され、普段冷静な表情が驚愕に染まる。


「狩りはいいよ。獲物を捕らえる時の緊張感。勝ち捕った時の興奮と達成感。もう最高なんだ!!」

「……そうですか。」

「ねぇ、狩りに…」

「駄目です。絶対に陛下がお許しになる筈ありません。」

「ちぇー」


 これ以上お転婆な行為をされては困ると、真っ先に止めに入る。 

 仕方なく大人しくお茶を飲んでいると、部屋の扉が叩かれた。ユウリが確かめに行くと、少し驚いた声を上げたが暫し話した後、やって来た来客者を部屋に招き入れた。


「チェレッチア。」

「陛下!!」


 来客者は陛下。

 普段は前以て連絡が来るので、突然の訪問に驚く。慌ててお辞儀をしようとしたがそれを止められ、


「今時間が空いているのなら、私と馬で散歩をしないか?」

「馬で、ですか。」

「ああ。近くに見晴らしの良い丘がある。城の中ばかりでは窮屈だろう、一緒に行かないか?」

「…はいっ!!」


 前回護衛の兵士と逸れ迷子になった為、暫くの間外出禁止例が出されていた。外に出れるのは久しぶりの事で嬉しかったが、それ以上に陛下が誘ってくれる事がチェレッチアには嬉しかったようだ。

 満面の笑みで受け入れ、いそいそと仕度する姿を微笑ましく見ているカシムを、カギルドは怪訝な目で見る。

 元々カシムは女性嫌いであり、唯一心を許していたのは側室ミーアのみ。確かに労れと言ったが、ここまでチェレッチアを気にかけるとは思わなかった。


「陛下、チェレッチア様の事が大変お気に入りのようで。」

「そうだな。妹が出来たようで、可愛く思う。」


 妹。

 カシムは今年30歳でチェレッチアは16歳。妹にしては歳が離れ過ぎているが、まだ恋愛感情まではいっていない事を感じとる。  

 ミーアに注いでいた愛情を恋愛ではないに代、チェレッチアに向ける事によって後宮内が騒がしくなる事は間違いない。側室同士のいざこざを嫌うカシムにとって、少し考えればわかる事なのだが、


(面白いから黙っておきましょう)


 カギルドは忠告する事なく黙認して、これから起きるであろう騒動を楽しみにしていた。


「チェレッチア様!!そのようなお姿をなされてはいけません!!」


 突如寝室からユウリの叫び声が響く。以前にも聞いた事があるような声に、カシム達は顔を見合わせ苦笑い。着替えの最中かもしれないので寝室に入る訳にもいかず、ただ待つ事しか出来なかった。


「何言ってるの?乗馬だよ?この格好じゃなきゃ動きづらいじゃない。」

「此処では女性はそのような姿をなされてはいけないのです!直ぐにお着替えを。それに何故そのような物を?」


 扉の向こうで言い争う二人。いったいどんな姿をしているのか興味が出るが、覗く訳にもいかずに待ての状態が続く。


「これは必要でしょ?だって狩りに行くんだから!!」   


「は?」

「…聞き違いでしょうか?私の耳には「狩りに行く」と聞こえたのですが?」

「…私にもそう聞こえたな」


 何故乗馬から狩りに?

 困惑していると寝室の扉が開かれ、チェレッチアの姿が現れ驚愕した。


「「なっ!!」」

「お待たせ致しました陛下。」

「チェレッチア様!!」


 カーキー色の軍服のような姿をし、何故か右肩に弓を持って現れたチェレッチア。凡そ女性が着るような服でもなく、男二人は目を見張る。

 呆気に捕われた二人を他所に、ユウリは必死に着替えさせようと説得するが、狩りに出掛ける事に喜び聞く耳持たず。


「さあ、行きましょう陛下。私こう見えても狩りは得意なんですよ。」





「陛下。」

「俺は悪くない。」

「陛下。」

「散歩に誘っただけだ。こんな事態を誰が予想出来るか。」

「陛下。」



「すいません。」



 未だ言い争う二人に溜息を付いた。  



 



この話は続きます。

陛下が日に日に弱っちくなるのは何故だろうか?


 


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