表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

側室、生足を出す

 

 チェレッチアが嫁いで来て十日が過ぎた。今日も王城は平和な日々を送っている。


 「続きまして、本日の被害届けによりますと…」


 カギルドが書類の束を見て溜息を付くと、カシムも同じように溜息を付く。チェレッチアが来てから恒例の報告となっている。


「先ずは状況報告を。今朝は天気がいいからと、布団をバルコニーにて日干し。その後は散歩にと馬で獲竜(かくりゅう)の森へ。その際、護衛に就いた兵二名とはぐれ、チェレッチア様は泥だらけになって一人でお帰りに。夕暮れに兵が瀕死の状態で帰還。」


 カシムの眉間の皺が深くなるのに気付きながら、カギルドは無表情で続ける。   

「昼食が終わり、侍女に読書を進められ図書室へ。高い場所にあった本を取ろうと、脚立を使わずよじ登り、降りる事なく本棚の上で読書。侍女がチェレッチア様に気付かず、行方不明になったと大騒ぎ。おまけにチェレッチア様はうたた寝してしまい、夕方まで発見されませんでした。」


 深い、深い溜息が室内に響く。チェレッチアが来てからというもの、彼女が大人しくしていた日はなかった。


「護衛に就いた兵二名と侍女一名が移動、若しくは離職を願っています。泥だらけで城に入った為、絨毯が使い物になりません。本棚から降りる際、飛び降りた衝撃で月呈(げってい)の壺が破損。修復不可能な程粉々に。一応これ、国宝ですから。」

「もういい。兵と侍女には移動を聞き届けろ。残りは任せる。」

「畏まりました。」


 カシムは目の前にある書類を眺めながら、チェレッチアの事を考える。出会いこそは衝撃的だったが、城の生活を知れば他の側室と同じようになると思っていた。

 しかし実際はどうだ?

 宝石やドレスを要求する訳もなく、貴族とお茶会をする事もない。毎日毎日健康に遊んでいるではないか。

 初日の夜、チェレッチアの寝室に行くと既に就寝。侍女に聞けば、彼女は8時には寝てしまうそうだ。子供か!!夜会にすら連れて行けないのだ。


「布団を干す妃なんて聞いた事がない。」

「ですね。」

「泥まみれになる妃なんて見た事がない。」

「ですね。」

「本棚の上で寝る妃なんで何処にいる!?」

「ですね。」

「貴様話を聞いているのか?」


 カシムの話を流し答えるカギルドに苛立ち、訝しげに睨むと爽やかな笑顔で、  

「もう慣れました。」


 爽やかだ。しかし背後から溢れる黒いオーラが恐ろしい。この表情をする時のカギルドは、かなり不機嫌である。チェレッチアの事で、上からも下からも苦情がきているのであろう。若干疲れも見える。


「何時もすまない。助かっている。」

「急に寒気が、風邪ですかね?」

「貴様な…」

「冗談です。しかし何時までもこのままだとよくありませんね。」


 カギルド言う事は最もだ。いくら遊牧の民の出身といっても、この城の生活に慣れて貰わないといけない。チェレッチアの所業が、他の側室や貴族に侮られてしまうからだ。


「私から話しておこう。孤立されては困るからな。」  

「では早速時間を作りましょう。明日の昼食をご一緒なされては?」

「明日は…」

「…ニーア様とご一緒ですか。ならば午後のお茶のお時間にお願いします。」

「…すまん。」


 ニーアとは、カシムが寵愛している九番目の側室。その溺愛っぷりは城中に知れ渡っており、そのせいか時折ニーアは嫌がらせを受けている。自分のせいだとわかっていても、ニーアが愛おしくて手離せないでいるカシム。正室との仲は悪くはないが良くもない。世継ぎが生まれても二人の仲は冷めきっていて、正室は子育てに夢中でニーアの事には無関心なのだ。

 ニーアを邪険に思うのは他の側室であろう。世継ぎの為にと選ばれた貴族の娘、チェレッチアと同じ外交の為に嫁いできた者。

 見目麗しいが、カシムが嫌う性格な為、殆どと言っていい程相手にされなかった。ニーアとの扱いの差に嫉妬し、追い出そうと陰湿な嫌がらせをしている噂がカシムの耳に入り、被害を最小限に抑えようと必死になっている。

 もし嫌がらせの事で警告しようものなら、更に事態は悪化し、暗殺を企てるかもしれない。側室達もこの国の重鎮の血族の者。力で捩じ伏せれば、内乱が起こるかもしれない為、迂闊に手が出せないのだ。カシムが出来る事は、ニーアの周りの警備を増やし、時間がある限り常に一緒にいて守る事しかなかった。


「女はめんどくさい。」

「その女に溺れているのは誰でしょうねぇ?」

「……………」


 カシムはぐうの音も出なかった。








 翌日。

 カシムは午後のお茶の時間にチェレッチアの下に訪れる。日頃の行動の注意と、この城での生き方を教えに。


「へ、陛下っ!!あの、そのっ」


 チェレッチアの部屋の扉を叩くと、侍女が出てカシムに驚く。事前に来る事を伝えていた筈なのに、戸惑い中々部屋に入れようとしない。


「何をしている?部屋に通せ。」

「あのっ、お止めしたのですが…あのっ」


 おどおどした様子の侍女に嫌な予感がしたカシムは、侍女を退かし扉を開ける。まさかもう他の側室からの嫌がらせが?

 急いで部屋に入り目に飛び込んできたのは、



「チェレッチア様っ、お止め下さい!!」

「そのようなお姿をなされてはいけません!!」

「えーー、これが1番美味しい造り方なんだよ?」



 素足になって床に座り、恥ずかしげもなくスカートを捲くり、足を開くチェレッチアの姿。彼女が手に持っている物は、薬草から薬を作る時に使われる道具。石皿を足で挟み、何かの草を楽しそうにすり潰している。


「…何を、している?」 

「あれ陛下?もう来ちゃったんですか。まだお茶っぱすり潰し終えていないですよ。」

「お茶っぱ?」

「はい!!この葉っぱはすり潰して濾すと、とっても美味しいんですよ。」



 笑顔で答え、再度石を動かし始める。石が擦れる鈍い音が耳障りだったが、確かにチェレッチアの言った通り、お茶は美味しかった。

 カシムは王族のお坊ちゃまである。年頃の女性は皆お淑やかだと思っていたカシムにとって、チェレッチアの行動はまたまた衝撃だった。


「陛下とお茶が出来て楽しかったです。お仕事頑張って下さい。」

「…ああ…また来る…」

「はい!!」

 茫然としたままお茶会は終わり、何も話せないままカシムは自分の部屋に帰っていた。


「意気地無し、へたれ。」  

 帰ってきたカシムに悪態を付くカギルド。チェレッチアを説得して、少しはこの生活も楽になると思っていたのに、カシムが何も言わなかった事に腹を立てたらしい。


「違う!!お前だってあの場面に出くわしたら何も言えなかった筈だ!!」

「あの方のやる事にはもう慣れましたと言いましたが?」

「女が昼間から生足をさらけ出して、床に座っていたら誰だって驚くだろうがっ!!」


 カギルドは笑顔のまま固まり何も言えず、二人の間に気まずい空気が流れた。  

「取り敢えず、明日は朝食をご一緒なさって下さい。私もご一緒しますので、必ずご忠告だけでもして下さいね。」

「ああ…わかった。」


 疲れたような返事を返し、お互いの目が合わさると深い、深い溜息が出た。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ