父親
「ただいま〜。」
愛は家に着くとキッチンで夕飯の支度をしている母親に言った。
そのままリビングに向かい、弟がいたのでまたただいまと言うと、テレビの前のソファーに腰をおろした。
「お帰りなさい。もうすぐご飯よ。」
という母の声にん〜とやる気のない返事をした。
「ねぇちゃんなんか煙草くさくない?」
テレビゲームをしていた弟が顔をしかめながら言った。
愛はギクッとして一瞬体を強ばらせた。
「う、うん。友達とお茶してきたんだけど混んでて喫煙席しか空いてなかったから、、、」
苦し紛れながら嘘をついた。
たった一本吸っただけだし、結構長い間公園でぶらぶらしていたのに以外と自分ではにおいに気づかないものだ。
「ただいま〜。」
「あら、お帰りなさい。今日は早いのね。」
父親が帰ってきた。
「お帰り〜。」
愛と弟がハモった。
「ただいま。」
「ご飯できてるけど、お風呂先入る?」
「いや、先飯食うよ。」
仕事で何かあったのか、なんとなく機嫌が悪そうだった。四人は食卓に着いた。
「いただきま〜す。」
「愛、最近彼氏とはどうなんだ?」
いきなり父親に言われ驚いて箸を落としそうになった。
「知ってたの?」
おそるおそる聞いた。
「なにあんた彼氏いんの。」
母親が口を挟む。
「いや、、、まさかほんとにいるとは思わなかった、、、」
父親は自分からいったのにしょんぼりとうなだれた。
「そりゃいるだろう。ねぇちゃんもう高三だよ?」
「そうか、、、」
「やだ、お父さん何泣きそうになってんのよ。」
母親が父親の肩をバシッつ叩いた。
「愛、どんなやつだ?」
「どんなって言われても、、、」
「真面目か?茶髪じゃないだろうな。」
「真面目っちゃぁ真面目だよ。ほぼ毎日予備校通ってるし、、、」
あまり洋平の話をしたくなかった。
「ごちそうさま、、、」
「愛、もういいの?」
「うん、、、」
ほとんど残してしまった。
だが、耐えられなかった。そのまま静かに階段を上がり、部屋にこもった。
「ちょっと、お父さんいきなりそれはないでしょ〜。」
母親が言った。
「だってさぁ、俺は心配なんだよ。愛が変な男にひっかかったりしてないか〜。今日仕事で他の会社の社長にあったんだけど、こっちが話してる間ず〜っと煙草吸ってるし、話聞いてね〜し。あんなほんとに金だけの男はだめだって。」
「べつにねぇちゃん関係ないじゃん。」
弟が呆れたように言った。
「違うんだよ。なんかそこの社員が噂してて社長の愛人だかどっかのキャバクラのお気に入りだかなんだか知らないけど、その女の名前が愛っていうんだって。
それで家の愛は大丈夫かと心配になってしまったんだよ。」
愛はベッドに潜っていた。
携帯が鳴った。
見ると九条からの電話だった。急いで出る。
「もしもし?」
「もしもし、愛ちゃん?ごめんね、急に電話して。」
「ううん、大丈夫。」
「・・・こないだの事だけど。」
いきなりその話しであわてた。まだ心の準備ができていない。
「ごめん、急にあんなことして。びっくりしたよな。」
「な、なんでキスしたの?」
少し声がふるえた。鼓動も激しく鳴る。
「・・・こんなおっさんが何言ってんのかと思うかもしれないけど・・・まじっぽい・・・」
「・・・はっきり・・・言って?」
自分が真っ赤になっているのが分かった。
暑くて布団から出たかったが、家族に声が聞こえるかもしれないので潜りっぱなしでいた。
電話の向こうで深呼吸する音が聞こえた。
「好き・・・だよ。」
胸がいっぱいになり、何も言えなかった。
どきどきが止まらない。
どうしよう。
自分が言わせたのだが、なんて返したらいいのかわからない。どうしよう、どうしよう・・・
「また、会ってくれる?」
先に口を開いたのは九条だった。
「う、うん。」
「よかった。じゃあまだ仕事あるから、また連絡するよ。おやすみ。」
「おやすみなさい・・・。」
電話を切った。布団からはいでる。
「はぁ〜っ」
壊れそうな心臓を落ち着かせるために大きく深呼吸をした。顔はまだ赤い。
まさか九条が自分のことを想ってくれていたなんて・・・嬉しかった。
まだ一度しか会っていないが中身はルルだ。
ルルとしてメールをしていた時と、話している感じは変わらなかった。現に惹かれている自分がいる。
少し落ち着いたところで洋平の事を考えた。
ちゃんと言おう。
ルルは実は33の男でその人と会ってしまい、そしてその人を好きになってしまったという事を・・・
洋平とは別れよう・・・
悪いと言う気持ちか、寂しさか、ほんの少し涙が滲んだ・・・
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